異聞坊ノ岬沖海戦      此れは特攻作戦に非ず

みにみ

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第一次空襲

天城大破

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信濃が米軍の猛攻を耐え抜いたことで
日本艦隊に一瞬の安堵が広がった。しかし、それは束の間のことだった。
米軍の攻撃隊は、その数を減らすことなく
次なる標的へと狙いを定めていた。
それは、中型空母である天城と、その護衛にあたる駆逐艦群だった。

「大型空母、手強いぞ! 次は中型だ! 集中攻撃!」

米軍パイロットの通信が飛び交う。
彼らは、信濃の予想外の粘り強さに戸惑いながらも
目標を天城へと切り替えた。F6Fヘルキャット
SB2Cヘルダイバー、TBMアベンジャーの編隊は、再び厚い雲を突き破り
雷鳴のようなエンジン音を響かせながら、天城に殺到した。

「左舷より急降下爆撃機! 右舷より雷撃機!」

天城艦長・入船貞夫大佐は、迫りくる敵機編隊に冷静に指示を飛ばした。
「取舵一杯! 機関、最大戦速! 高角砲、撃ち方始め!」

天城は、信濃ほどの巨体ではない。
そのため、比較的機動性が高く、入船大佐は巧みな操艦で回避運動を試みた。
しかし、米軍機の数はあまりにも多く、まるで飢えた狼の群れのように、天城を取り囲んでいく。

ドォォン! ドォォン!

最初の500ポンド爆弾が、天城の飛行甲板に直撃した。
信濃のような重装甲を持たない天城の飛行甲板は
あっけなく貫通された。甲板に直径数メートルもの大きな穴が開き、黒煙が噴き上がる。

「飛行甲板、被弾! 第2発着区画、使用不能!」

甲板指揮所から悲鳴のような報告が上がった。
発着艦は、もはや不可能に近い状態となった。

その直後、さらなる恐ろしい事態が発生した。

ズン! ドォォォォォォン!!

甲板を貫通した爆弾の破片、あるいは至近弾の衝撃が原因だったか
艦体内部で轟音と閃光が走った。
「弾火薬庫、誘爆! 大規模火災発生!」

致命的な報告が上がった。飛行甲板直下
あるいはその近傍の弾火薬庫が誘爆したのだ。
それは、艦隊の全兵士が最も恐れる事態だった。
巨大な火柱が天城の艦体から噴き上がり、爆煙が空高く舞い上がる。
艦体は激しく揺さぶられ、乗組員たちは地面に叩きつけられた。
内部では、猛烈な爆風と炎が通路を襲い、多くの兵士が巻き込まれた。

「応急班、弾火薬庫へ急行! 延焼を食い止めろ!」
入船大佐の叫びが響くが、艦内通信は混乱でほとんど機能していなかった。
爆炎と煙が充満する艦内で、兵士たちは必死に消火活動と負傷者の救護に当たった。
しかし、弾火薬庫の誘爆は、天城に致命的な傷を負わせた。

この惨状に、米軍パイロットたちは歓声を上げた。
「やったぞ! 一発で弾火薬庫に引火だ! これで一隻!」

しかし、天城は、まだ沈黙しなかった。炎上しながらも
その巨体はなおも航行を続けていた。機関は生きており
応急班は必死に浸水を食い止め、延焼を食い止めようと奮闘していた。
その姿は、まるで燃え盛る鬼のようだった。


信濃と天城への集中攻撃は、日本艦隊全体の対空砲火を激化させた。
米軍機が低空に降りてきたことで、各艦艇の対空砲は、その威力を最大限に発揮し始めた。

「対空砲火、撃ち方始め! 目標、天城へ向かうアベンジャー!」

大和の46cm三連装主砲は、既に三式弾を装填していた。
退避を知らせるブザーの後 轟音と共に放たれた巨大な三式弾は、空中で炸裂し
無数の焼夷弾片を撒き散らした。それは、まるで巨大な散弾銃のように
米軍機の編隊の進路に火の玉の壁を作り出した。
至近距離で炸裂する三式弾は、米軍パイロットに大きな脅威を与え、編隊を崩壊させた。

そして、艦隊の防空網の要を担っていたのが
秋月型駆逐艦の群れだった。
駆逐艦・冬月艦長・山代勝守中佐は
艦橋から迫りくる敵機を睨みつけ、冷静に指示を出していた。
「高角砲目標敵四番編隊! 撃ち方、始め!」

冬月、涼月といった秋月型駆逐艦は
その主兵装である10cm高角砲が
まるで機関砲のように猛烈な速射で砲弾を吐き出した。
その砲弾は、空中で炸裂し、広範囲にわたる弾幕を形成する。
彼らは、空中の米軍機が最も嫌う、正確かつ濃密な対空砲火を浴びせた。

「右舷より敵雷撃機、接近! 全砲門、右舷に集中!」

涼月艦長・平山正太郎中佐の艦では
砲手たちが汗まみれになりながら、高速で旋回する砲身を操作していた。
彼らの照準は正確だった。

ドォォン! ドォォォン!

秋月型駆逐艦の放つ弾幕は、米軍機の編隊に次々と食らいついた。
複数のTBMアベンジャーが弾幕に突入し、翼に被弾する。
煙を吐きながら、バランスを崩して海面へと墜落していく機体もあった。

「くそっ! ジャップの対空砲火、こんなに凄まじかったか!?」
「まるで鉄の壁だ! 突破できん!」

米軍パイロットたちは、通信機で叫んだ。
彼らは、日本の艦艇がこれほど猛烈な対空砲火を放ってくるとは予想していなかった。
特に、駆逐艦からの10cm高角砲の弾幕は、彼らの侵入を効果的に阻んでいた。

駆逐艦雪風、初霜、潮、響なども、それぞれ自慢の対空火力を発揮し
艦隊全体が文字通り「火を噴くハリネズミ」と化していた。
彼らは、己の身を挺してでも、主力艦を守り抜こうと、決死の砲撃を続けていた。


日本の航空隊の迎撃と、艦艇の猛烈な対空砲火により
米軍の第一次攻撃隊は、予想以上の損害を被った。

第58任務部隊司令官・ミッチャー中将は
旗艦の司令室で、次々と入る損害報告に顔をしかめていた。

「ヘルキャット3機、ヘルダイバー5機
 アベンジャー4機、未帰還。偵察機は既報の通り。」

「日本艦隊の対空砲火、極めて強力です。
 特に、テルツキクラスの10センチ砲の密度は異常です。」

報告は、ミッチャーの予想を裏切るものだった。
彼は、日本の艦隊が燃料も艦載機も枯渇していると判断し
容易に殲滅できると考えていた。しかし、彼らが目にしたのは
燃え盛る天城がなおも航行を続ける粘り強さと
信濃の信じられないほどの堅牢さ、そして、何よりも組織的で猛烈な日本の対空砲火だった。

「クレイジーなのは、奴らの士気だけではないらしいな……」

ミッチャーは、舌打ちをした。彼は
日本の最後の反撃を「特攻」という枠で捉えていたが
それは単なる捨て身の攻撃ではない、計算された「総力戦」であることに気づき始めていた。

米軍パイロットたちは、帰還後、ブリーフィングで日本の抵抗について語り合った。

「あの化け物あれは一体何なんだ!? どれだけ爆弾をぶち込んでも沈まない!」
「対空砲火も半端じゃない。あんな弾幕、見たことないぞ。」
「まさか、偵察機を撃墜してくるとはな。まだ、零戦が飛ぶとは…」

彼らの間には、日本の予想以上の抵抗に対する戸惑いと
警戒心が急速に高まっていた。これまでのような
一方的な攻撃は通用しない。彼らは、自分たちが相手にしているのは
単なる「残党」ではなく、「死力を尽くして戦う敵」であることを痛感した。

日本艦隊は、最初の猛攻を耐え抜いた。天城は被弾し
飛行甲板に大きな穴を開け、弾火薬庫の誘爆という致命的な損傷を受けたものの
奇跡的に航行能力を維持していた。信濃もまた、大きな損傷を受けながらも
その巨体は健在だった。そして、駆逐艦群の対空砲火は、米軍に確実に損害を与えていた。

しかし、これはまだ、激戦の序章に過ぎなかった。
米軍は、この最初の攻撃で日本の艦隊を完全に無力化できなかったことに憤り
次なる攻撃を準備し始めていた。沖縄の海は
これからさらに血で血を洗う、壮絶な戦いの舞台となるだろう。
日本の将兵たちは、疲労と負傷を抱えながらも、次なる波状攻撃に備え
静かに、しかし固く、歯を食いしばっていた。
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