異聞坊ノ岬沖海戦      此れは特攻作戦に非ず

みにみ

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混成攻撃隊

合流

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信濃と天城が米軍の猛攻を耐え抜き
辛うじて航行を続ける中、沖縄の空には、さらなる激戦の予兆が満ちていた。
米軍の第一波攻撃を凌いだ日本艦隊は、損傷を抱えながらも
次なる反撃の機会を虎視眈々と狙っていた。そして、その反撃の狼煙は
本土の基地から、そして空母の飛行甲板から、今まさに上がろうとしていた。

午前中、米軍の偵察機に発見され、激しい攻撃に晒されたことで
日本側は米艦隊の正確な位置を把握していた。
陸軍の百式司令部偵察機が、沖縄東方海域に展開する米海軍第58任務部隊の
機動艦隊を正確に捉え、その情報が本土と洋上の日本艦隊に伝えられた。

「よし、よくやった!」

第二艦隊司令長官・伊藤整一中将は、大和の艦橋で
その報に力強く頷いた。奇跡的に生き残った艦隊と
温存された航空戦力、そして本土の基地航空隊が連携する
最初にして最後の総攻撃が、今、発動されようとしていた。


九州方面の航空基地、鹿屋や出水、大村といった拠点からは
夜を徹して整備と準備を進めていた海軍の基地航空隊が
次々と大空へと飛び立っていた。

海軍203空司令・片桐少将が指揮する零戦の群れが
編隊を組んで上昇していく。その中には
天山や彗星といった攻撃機も混じっていた。
彼らは、米軍機動部隊に対する制空権の奪還と
艦船への通常攻撃を任務としていた。パイロットたちの顔には
疲労と緊張が色濃く浮かんでいたが、その瞳の奥には
祖国を守るための最後の闘志が燃え上がっていた。

「いくぞ! 奴らの空母を沈めるんだ!」

無線から、若き搭乗員の叫び声が聞こえる。彼らは
自分たちが「生きて帰り、報告する」という命令を胸に刻みながらも
目の前の敵を確実に叩き潰すことこそが
その責務を果たす唯一の道だと信じていた。

そして、海軍306空司令・藤野大佐率いる一式陸攻の編隊が
重々しいエンジン音を響かせながら、滑走路を離陸していく。
彼らの翼の下には悪魔のようなロケット推進機、桜花を抱いていた。
38機の桜花搭載一式陸攻、そして8機の銀河が、沖縄の空を目指して南へと向かう。
桜花は、まさに片道の兵器。搭乗員たちは、それぞれの家族
故郷の風景を脳裏に焼き付けながら、自らが果たすべき「精密攻撃」の使命を胸に
静かに離陸していった。彼らの使命は、米空母に致命的な一撃を与えること。
それは、死を前提としながらも、勝利への可能性を追求するという
悲壮なまでに崇高な任務だった。

洋上では、大和を中核とする艦隊から
第601海軍航空隊司令・森田隆義大佐
第653海軍航空隊司令・植木貞夫大佐が率いる艦載機部隊が
既に空母の飛行甲板から発艦を終え、上空で待機していた。
炎上する天城からは発艦できなかったが、瑞鶴、翔鶴、信濃から
最後の力を振り絞って発艦した零戦や彗星、天山が、空中で編隊を組んでいた。

「本土からの援護機、来ます!」

艦載機の無線に、本土部隊からの識別信号が入る。
広大な沖縄の空で、艦隊の601空、653空の艦載機部隊と
九州方面から飛来した203空、306空の基地航空隊が
まさに艦隊上空で合流を果たした。互いの機影を確認し合ったパイロットたちは
無線で短い挨拶を交わし、その連携を確かめ合った。
それは、日本の総力を結集した、最初で最後の連合攻撃隊だった。


時を同じくして、知覧、熊本、そして福山の各基地からも
陸軍航空隊の攻撃隊が次々と発進していた。

知覧基地からは、飛行第一戦隊長・黒田少佐率いる
四式戦闘機疾風と一式戦隼が、空へと舞い上がった。
彼らの任務は、米戦闘機との空中戦を制し、爆撃隊への制空支援を行うことだった。
彼らは、海軍とは異なる「生きて帰り、報告する」という明確な指令を胸に
敵機との一対一の格闘戦に挑む覚悟だった。

「絶対生きて帰るぞ! 敵を倒し、未来を繋ぐんだ!」

彼らの無線には、単なる死への覚悟ではない、勝利への渇望が満ちていた。

続くは、飛行第三戦隊の九九式双発軽爆撃機の編隊だった。
彼らの機体には、800kg爆弾が搭載されていた。彼らの任務は
米艦隊に対する特攻攻撃を敢行すること。これは、陸軍が独自に準備を進めてきた
艦船への精密攻撃手段だった。彼らは、海軍の桜花隊とは異なる形で
自らの命と引き換えに、敵に致命的な打撃を与えるべく
静かに進撃を開始した。

そして、最も注目されたのは、飛行第十四戦隊長・斎藤少佐率いる
四式重爆飛龍の群れだった。彼らの機体には、日本の最新技術の粋を集めた
試製イ号一型甲無線誘導弾が搭載されていた。これは、実験段階の兵器であり
その実戦投入は今回が初めてとなる。

「このイ号一発で、奴らの艦を沈める! 日本の技術を見せてやれ!」

斎藤少佐の目は、固い決意に満ちていた。
彼らは、敵艦隊に接近し、無線誘導によってイ号を精密に目標に叩き込む
という極めて困難な任務を課せられていた。成功すれば、それは戦局を覆す
決定的な一撃となりうる。彼らは、「イ号」を単なる爆弾ではなく
「敵艦隊に致命的な打撃を与えるための精密兵器」として、その全てを賭けていた。


こうして、沖縄沖の空には、陸海軍の航空戦力が集結した。

最終的な攻撃隊の規模は、驚くべきものだった。
零戦86機(艦載機部隊と基地航空隊の合計)
彗星一二型甲32機(艦載機部隊)
彗星三三型36機(基地航空隊)
天山一二型46機(基地、艦載機混載)
一式陸攻38機(桜花搭載)
銀河8機
一式戦闘機32機
四式戦闘機疾風24機
九九式双発軽爆撃機34機(特攻部隊)
四式重爆飛龍28機(試製イ号一型甲無線誘導弾搭載)

これら合計364機に及ぶ大編隊が、沖縄上空で合流を果たした。
その数は、日本軍が太平洋戦争末期に投入できた航空戦力としては
まさに奇跡的な規模だった。空には、機種ごとに異なるエンジン音が響き渡り
まるで巨大な鳥の群れが、獲物を求めて進撃するかのようだった。

「全機、百式司偵が発見した敵機動艦隊へ向かう! これより、全速で突入する!」

総指揮官からの命令が、各機の無線に響き渡る。
パイロットたちは、計器板の針を睨み、エンジンの出力を最大まで引き上げた。
彼らの前には、米海軍第58任務部隊という、世界最強の機動艦隊が待ち受けている。

彼らは、単なる特攻ではない。
「勝ちうる可能性を追求する最後の戦い」という言葉を胸に
そして「生きて帰り、報告する」という陸軍の矜持を胸に、決戦の空へと向かっていく
彼らの進撃は、日本の命運をかけた、最後の総攻撃の幕開けだった。
沖縄の空は、今、血と炎の戦場へと変貌しようとしていた。
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