異聞坊ノ岬沖海戦      此れは特攻作戦に非ず

みにみ

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沖縄沖の鎮魂歌

栄光の二水戦

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「敵巡洋艦隊、駆逐艦隊、間もなく射程圏内! 魚雷戦用意!」

第二水雷戦隊旗艦軽巡洋艦矢矧の艦橋に、緊張が走る。
周囲を固める駆逐艦隊の先頭に立ち、
矢矧は真っ先に米艦隊へと肉薄していく。その目的は
駆逐艦隊が魚雷発射態勢に入るための露払い
そして敵艦隊の砲火を引きつけ、その編成を乱すことだった。

「艦中央部の探照灯、敵艦に向けて照射! 
 味方の駆逐艦に目標を定めさせろ!」

矢矧艦長の命令が、艦内に響き渡る。夜戦において
探照灯は敵を照らし出す強力な武器であると同時に
自らの位置を敵に知らしめる、両刃の剣でもあった。
探照灯が放つ強烈な光が、闇夜を切り裂き、
米艦隊の艦影を浮かび上がらせた。その光は、
まるで「ここにいるぞ!」と叫んでいるかのようだった。

その瞬間、探照灯照射で目立つ矢矧に
米巡洋艦隊の砲撃が集中した。バーミングハム、モービル
ビロクシー、サンフランシスコ、ミネアポリス
タスカルーサ、ポートランドといった強力な米巡洋艦群から
一斉に主砲が火を噴いた。

ドォォォン! ドォォォン!

猛烈な砲弾が、雨あられと矢矧に降り注ぐ。
艦体に直撃弾が相次ぎ、轟音と爆炎が艦橋を襲う。
「艦後部に被弾多数! 火災発生!」
「機関部に直撃! 航行不能!」

矢矧は、瞬く間に集中砲火を浴び、艦後部は滅多撃ちにされ
航行不能に陥った。その巨体は、海上に停止し
炎と煙を噴き上げていた。しかし、矢矧は決して沈黙しなかった。

「前部主砲、撃ち続けろ! 敵重巡を叩け!」

艦橋から、艦長の咆哮が響く。艦首部の15.2cm連装砲二基は
被弾の衝撃にもかかわらず、奇跡的に機能していた。
火薬の匂いが充満する中、装填員たちが必死に砲弾を装填し
砲手たちが照準を合わせる。

ダァン! ダァン!

矢矧の主砲が、炎を吹き上げて反撃の砲弾を放つ。
その砲弾は、正確に米重巡タスカルーサの艦橋を捉え
多数の命中弾を与えた。
「敵四番艦、艦橋に直撃! 指揮機能喪失!」

米艦隊の無線に、混乱した報告が飛び交う。
指揮系統を失ったタスカルーサは、その場で身動きが取れなくなり
戦線から離脱を余儀なくされた。矢矧は、自らが大破しながらも
敵巡洋艦一隻を撃破するという、見事な戦果を挙げた。
矢矧は、そのまま浮き砲台として、射撃を続けた。
 その姿は、日本の将兵たちの心に
決して諦めないという不屈の精神を植え付けた。


矢矧の決死の突撃と犠牲は、後続の駆逐隊に道を開いた。


彼らは、その高速を利して、煙幕を焚きながら敵艦隊の近くまで潜り込み
魚雷発射の好機を窺った。濃密な煙幕が、闇夜の海に広がり、米艦隊の視界を遮る。

「こちら雪風、右魚雷戦30度! 目標一番艦!」
「宜候(よーそろ)! 磯風、二番艦狙う!」
「同じく浜風! 目標三番艦!」

各艦が無線で連携を取り合いながら、魚雷発射態勢に入る。
彼らは、敵艦隊の進路を読み、互いに交錯する反航魚雷戦を仕掛けようとしていた。

「夜戦といえば、日本海軍の十八番だ!」

雪風の魚雷装填員が、興奮して叫んだ。
彼らは、日夜訓練を積み重ねてきた夜戦の熟練者たちだった。

「出撃前に襲撃運動した甲斐があったなァ!」

別の水兵が、笑顔で叫ぶ。彼らの表情には
死地への恐怖よりも、夜戦で敵を打ち破るという、確かな自信が満ちていた。


「用意! てっ!」

水雷長の指揮の下、九三式魚雷改三が魚雷発射管から轟音と共に躍り出た。
酸素魚雷特有の白い航跡が、闇夜の海に筋を描き
米艦隊へと向かって突き進む。魚雷は、その高威力と長射程を誇り
夜戦における日本海軍の最大の切り札だった。

「煙幕炊け! 主砲射撃しながら離脱! 次弾装填急げ!」

魚雷を発射した駆逐艦は、再び煙幕を焚きながら
主砲で敵艦を牽制しつつ、素早く戦場を離脱していく。
彼らは、魚雷が命中するまでの時間を稼ぎ、そして、次の攻撃に備えていた。

日本海軍の駆逐艦には、米海軍とは異なり、予備魚雷が装備されていた。 
これは、被弾時には大事故の元になりかねない危険な装備ではあるが
夜戦での継戦能力を飛躍的に高める、重要な装備でもあった。
彼らは、一度の攻撃で終わることなく
次々と魚雷を装填し、米艦隊に魚雷の嵐を浴びせる準備を整えていた。

矢矧の犠牲によって開かれた道、そして駆逐艦隊の決死の突撃は
夜明け前の沖縄の海で、血と炎の戦いをさらに激化させていった。
魚雷の航跡が闇夜の海を切り裂き、爆発の閃光が、艦隊決戦の壮絶な幕開けを告げていた。
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