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第3章
第42話
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次の日から昼と放課後も、九条たちに付き合わされることとなった。
木曜日の放課後、最後の練習だと言っていつも以上に九条はやる気を出している。
体育館に向かう途中の廊下で、帰宅する藤宮と目が合った。そのため、私は軽く手を上げた。
藤宮は隣にいる九条たちへ視線を向けると、会釈ひとつせず私たちに背を向けてさっさと行ってしまう。
基本的に、藤宮は周りに誰かいる時はあんな感じなので、私は特に気にしない。
「藤宮のやつ、月城さんが手を上げたのに無視するとはな」
「これは、許せないねー」
「だぞー」
手下ABCが次々と口にする。
「奴は確か2-Bだったな。これはもし、試合でぶつかることがあれば完璧な敗北を与えねばならぬな」
「藤宮さんの悲しむ顔が思い浮かぶねー」
「だなー」
それは絶対にないと、言い切れる。
九条一人だけが立ち止まり、藤宮の消えた後を眺め続けていた。
「九条?」
私も立ち止まり、彼女に声をかけた。
しばらく、反応が返ってこない。
手下共も足を止める。
「ごめんなさい、何でもないわ」
九条はそう言うと、振り返り――笑みを浮かべる。
何処か、その笑いは嘘くさく見えた。
***
それにしても、藤宮はなんの競技になったのだろうか?
去年は確か卓球で、体調が悪いと言って不戦敗になっていたはずだ。
今年も多分、そのつもりなのだろう。
団体競技だった場合は、無断で休むような気がする。
だけど意外だったのは、去年――私の出場した試合は必ず見に来ていた。かなり奥の端っこの方だったが、すぐに見つけることができた。
バスケが好きなのか? と思ったが、他の試合は特に見ている気配はない。
私が出ているから――なんてことはありえないから、小倉が目的なのだろうと考えた。だって彼女がすごいことを、一緒にプレイしている私は――嫌と言うほど思い知らされたのだから。
放課後の練習が終わったので、帰ろうとしたのだが呼び止められた。
「月城さん、帰りマックに寄っていかないかしら?」
「……何で?」
「何でって、そんなの決まってるじゃない。明日の試合に向けて、結束力を強めるためよ」
「それが、マックで叶うとでも?」
マックは駅の近くにあるため、少し遠回りになる。
「奢るわよ」
九条は笑顔で言った。
「そんなの――」
――行くに決まっている。
テーブル席に座り、手下共の声をBGM代わりにしながら、ハンバーガーを頬張る。
「美味しいかしら?」
隣に座る九条は私の顔を見ながら、そう尋ねてきた。
「それはまぁ、変わらない味だからね。不味い要素がない」
「それにしても意外だったわ。てっきり、一番高いものを選ぶだろうと内心ヒヤヒヤしていたのに、まさか一番安いものを選ぶとは思っていなかったわ」
「別に。食べたい物が一番安かっただけだから」
「そう言って貰えると、ホッとするわね」
そう言って、九条は静かに食べ物を頬張った。
向かい側の手下共は本当に喧しい。まぁ、ちび助ほどではないが。
私はもう一度、なんとなく九条を眺める。
「どうかした?」
私の視線に気づき、九条は首を傾げた。
「小倉とは昔からの付き合いなの?」
私の言葉に、九条は何故か苦笑した。
「そうね、物心がつくころからずっと一緒よ」
「それはまぁ――災難だったね」
「あら、分かってくれる? 意外とみんな分かってくれないのよ。大抵の人は私を羨ましがる。まぁ――分からなくもないのだけどね」
そう言って、彼女はため息を吐いた。
「凛はいつも一番で、私はいつも彼女より下だった。だけどね、小学校の頃は私の方がバスケ上手かったのよ。それが未だに、私の中では誇るべきことね」
「へー、そうなんだ」
それは、かなり意外だ。
「だってその時は、母に無理やりとはいえ、一応ミニバスをやっていたのだからね」
「小倉は、特にバスケはしていなかった訳か」
「そうよ、私だけだったわ。その時は正直、やらされているだけだったから、やる気はあまりなかったわね。でも、そこそこ才能があったのか、そのチームでは私が一番上手かったと自負しているわ」
世の中、やる気ではなく――才能ってことか。
世知辛いものだ。
「小学校の頃から、私は凛をライバル視していたから、彼女より優れたものがあることで随分と気を良くしたものよ。でもね、それでも凛はそのことについて特に気にした風はなくて、余裕そうな態度を崩すことがなかった。彼女は誰よりも優れているのに、誰よりも心がニュートラルで、誰よりもつまらなさそうだった」
つまらなさそう――と言うのは、少し意外だ。私は誰よりも楽しそうにしている彼女の姿しか知らない。
「中学に入り私のすすめでバスケを始め、あっという間に実力を上げ、周りの人間をあっさり追い越しても彼女はいつだって平常心だった。私は凛の顔を歪め、私のことで頭をぐちゃぐちゃにしてやりたかった」
そう言って、九条は鼻で笑う。
「だけど、高校に入って凛は変わった。変わってしまった。私が何年もかけて無理だったことを、彼女は何もしていないのに一瞬で変えてしまった。去年の球技大会だって、なんであんなにやる気だったのか。そんなの決まってるわ。自分を見て欲しかっただけ」
「……」
「それが誰にかは――あなたなら分かるんじゃない?」
間。
「――九条さん、それは一体誰なのだ?」
手下共は、いつの間にか大人しくなっており、こちらをじっと眺めている。
「それは、秘密よ」
そう言って、九条は人差し指を唇の上に置いた。
「だから私は、凛に膝をつかせて悔しがらせたいのよ」
最後に、九条はそう言った。
木曜日の放課後、最後の練習だと言っていつも以上に九条はやる気を出している。
体育館に向かう途中の廊下で、帰宅する藤宮と目が合った。そのため、私は軽く手を上げた。
藤宮は隣にいる九条たちへ視線を向けると、会釈ひとつせず私たちに背を向けてさっさと行ってしまう。
基本的に、藤宮は周りに誰かいる時はあんな感じなので、私は特に気にしない。
「藤宮のやつ、月城さんが手を上げたのに無視するとはな」
「これは、許せないねー」
「だぞー」
手下ABCが次々と口にする。
「奴は確か2-Bだったな。これはもし、試合でぶつかることがあれば完璧な敗北を与えねばならぬな」
「藤宮さんの悲しむ顔が思い浮かぶねー」
「だなー」
それは絶対にないと、言い切れる。
九条一人だけが立ち止まり、藤宮の消えた後を眺め続けていた。
「九条?」
私も立ち止まり、彼女に声をかけた。
しばらく、反応が返ってこない。
手下共も足を止める。
「ごめんなさい、何でもないわ」
九条はそう言うと、振り返り――笑みを浮かべる。
何処か、その笑いは嘘くさく見えた。
***
それにしても、藤宮はなんの競技になったのだろうか?
去年は確か卓球で、体調が悪いと言って不戦敗になっていたはずだ。
今年も多分、そのつもりなのだろう。
団体競技だった場合は、無断で休むような気がする。
だけど意外だったのは、去年――私の出場した試合は必ず見に来ていた。かなり奥の端っこの方だったが、すぐに見つけることができた。
バスケが好きなのか? と思ったが、他の試合は特に見ている気配はない。
私が出ているから――なんてことはありえないから、小倉が目的なのだろうと考えた。だって彼女がすごいことを、一緒にプレイしている私は――嫌と言うほど思い知らされたのだから。
放課後の練習が終わったので、帰ろうとしたのだが呼び止められた。
「月城さん、帰りマックに寄っていかないかしら?」
「……何で?」
「何でって、そんなの決まってるじゃない。明日の試合に向けて、結束力を強めるためよ」
「それが、マックで叶うとでも?」
マックは駅の近くにあるため、少し遠回りになる。
「奢るわよ」
九条は笑顔で言った。
「そんなの――」
――行くに決まっている。
テーブル席に座り、手下共の声をBGM代わりにしながら、ハンバーガーを頬張る。
「美味しいかしら?」
隣に座る九条は私の顔を見ながら、そう尋ねてきた。
「それはまぁ、変わらない味だからね。不味い要素がない」
「それにしても意外だったわ。てっきり、一番高いものを選ぶだろうと内心ヒヤヒヤしていたのに、まさか一番安いものを選ぶとは思っていなかったわ」
「別に。食べたい物が一番安かっただけだから」
「そう言って貰えると、ホッとするわね」
そう言って、九条は静かに食べ物を頬張った。
向かい側の手下共は本当に喧しい。まぁ、ちび助ほどではないが。
私はもう一度、なんとなく九条を眺める。
「どうかした?」
私の視線に気づき、九条は首を傾げた。
「小倉とは昔からの付き合いなの?」
私の言葉に、九条は何故か苦笑した。
「そうね、物心がつくころからずっと一緒よ」
「それはまぁ――災難だったね」
「あら、分かってくれる? 意外とみんな分かってくれないのよ。大抵の人は私を羨ましがる。まぁ――分からなくもないのだけどね」
そう言って、彼女はため息を吐いた。
「凛はいつも一番で、私はいつも彼女より下だった。だけどね、小学校の頃は私の方がバスケ上手かったのよ。それが未だに、私の中では誇るべきことね」
「へー、そうなんだ」
それは、かなり意外だ。
「だってその時は、母に無理やりとはいえ、一応ミニバスをやっていたのだからね」
「小倉は、特にバスケはしていなかった訳か」
「そうよ、私だけだったわ。その時は正直、やらされているだけだったから、やる気はあまりなかったわね。でも、そこそこ才能があったのか、そのチームでは私が一番上手かったと自負しているわ」
世の中、やる気ではなく――才能ってことか。
世知辛いものだ。
「小学校の頃から、私は凛をライバル視していたから、彼女より優れたものがあることで随分と気を良くしたものよ。でもね、それでも凛はそのことについて特に気にした風はなくて、余裕そうな態度を崩すことがなかった。彼女は誰よりも優れているのに、誰よりも心がニュートラルで、誰よりもつまらなさそうだった」
つまらなさそう――と言うのは、少し意外だ。私は誰よりも楽しそうにしている彼女の姿しか知らない。
「中学に入り私のすすめでバスケを始め、あっという間に実力を上げ、周りの人間をあっさり追い越しても彼女はいつだって平常心だった。私は凛の顔を歪め、私のことで頭をぐちゃぐちゃにしてやりたかった」
そう言って、九条は鼻で笑う。
「だけど、高校に入って凛は変わった。変わってしまった。私が何年もかけて無理だったことを、彼女は何もしていないのに一瞬で変えてしまった。去年の球技大会だって、なんであんなにやる気だったのか。そんなの決まってるわ。自分を見て欲しかっただけ」
「……」
「それが誰にかは――あなたなら分かるんじゃない?」
間。
「――九条さん、それは一体誰なのだ?」
手下共は、いつの間にか大人しくなっており、こちらをじっと眺めている。
「それは、秘密よ」
そう言って、九条は人差し指を唇の上に置いた。
「だから私は、凛に膝をつかせて悔しがらせたいのよ」
最後に、九条はそう言った。
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