幼馴染の少女に触れたくても触れられない私は代わりに彼女を求めた……キスをしたのもそんな目で私を見上げるあんたのせいなんだよ

tataku

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第3章

第44話

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 ちび助の試合を深雪と一緒に観戦した。

 実に見事な試合だった。

 そう、見事な敗北だった。

 ちび助は悔しそうに地団駄を踏み、号泣した。周りのチームメイトが彼女の周りに集まり、慰めている。

 ――何て、恥ずかしい奴なんだ。

 たかが球技大会で負けて、泣くやつがあるか?

 ――他の観戦者たちが手を叩き、実に好意的なムードが流れだした。

 隣りにいる深雪なんて、少し涙ぐんでいる。

 どうやら、少し引き気味な人間など、私一人だけのようだ。

「次の試合は、凛のクラスね。しっかりと観戦しましょうか、月城さん」

 九条とその手下たちが私の近くに集まってくる。

「な、奈々ちゃん、そろそろ私の試合が始まるだろうから、もう行くね」
「あ、そうなの? なら、私もそっちに行こうかな」
「こ、こなくていいからね!」

 深雪はそう言うと、九条たちに頭を下げた。

「深雪さん、頑張ってね」

 九条がそう言うと、手下どもも次々と労いの言葉をかけていく。

 それに対して、深雪は緊張した面持ちで作り笑いを浮かべる。

「えっと、それじゃーまたね」

 深雪は手を振ると、ちび助の方に視線を向けた。

「奈々ちゃん、小春ちゃんのこと――お願いね」

 え? 一体何を?

 私の返事を聞くことなく、深雪は奥の卓球台に向かった。

 体育館内が急にざわつきだす。

 入口に小倉と数名が入ってくる。

 1人だけ纏うオーラが違う。

 小倉は優雅に歩き、私たちの方を見て笑う。彼女としては普通に笑みを浮かべているだけなのかもしれないが、何か馬鹿にされている気がする。それは、私が卑屈になっているからかもしれないが。

「なんだ、子犬くんのクラスは負けたのか」

 小倉は私の前で立ち止まると、ちび助を眺めた。

「しかし、いい涙だ。あれは強くなるぞ」

 なんか、漫画でよくある台詞が飛び出した。

 それにしても、ちび助はまだ泣いている。

 そろそろ次の試合の時間だ。

 しかし、コートから動く気配がない。

 周りも――どうしたものかと、悩む目が増え始めた。

 私はしばらく悩んだあと、コートの中に入った。

「ちび助、そろそろ退かないと邪魔になるんだけど」

 ちび助を慰めている彼女たちは私を見て、なんだこいつは? という顔をした。

「……私、滑稽ですよね」

 そう言って、盛大に鼻水を啜る。

「そうね、滑稽以外のなにものでもないんじゃない?」

 私がそう言うと、ちび助の背中に手を置いていた生徒Aが私を睨みつける。

「それは流石に言い方ってものが――」
「悪いんだけど、ちょっと黙っててくれないかな」

 私が少しお願いしただけで、すぐに黙ってくれた。凄くいい子なのかもしれない。

「……笑いにきたんですか?」

 ちび助は下を向いたまま、ぽつりと呟く。
 
「大丈夫、笑うほどじゃないから。ただ、馬鹿にはしたけどね」
「……」
「だけどそれが何? あんたは頑張ったんでしょ?」
「頑張りました。頑張りましたよ。でも、頑張っただけです。だから、意味なんかないですよ。だって、馬鹿みたいだったんですよね?」
「あんたは誰のために頑張ったわけ? 私のためじゃなくて、深雪のためなんじゃないの? なら、よかったじゃん。あの子はあんたの姿を目に焼き付けた。涙とともにさ」

 私がちび助に一歩近づくと、生徒Aが一歩後ずさる。

 私は――小春の頭に手を置いた。

「あんたの姿は、深雪の感情を動かした。それは、誰にでもできることじゃなくて、あんただから――できたことだと思うけどね」
「……本当ですか?」
「あんたには分かんないわけ? 深雪が――あんたの頑張りに心を動かさないような奴だって、そう思ってんのなら、あんたはあの子を好きになる資格なんてないから」

 ちび助は目元を拭うと、顔を上げた。

 だから、私は彼女の頭から手を離した。

「安心してください、私にはその資格がありますから」

 本当――生意気な奴だ。

「そう――なら、ちゃんと胸を張ったら? 他の誰があんたを馬鹿にしようとも、あの子だけは絶対にあんたのことを、馬鹿になんてしない」

 ちび助は笑う。

「ほら、さっさと行くわよ。もうすぐ次の試合が始まるから」

 頷くのを確認してから、私たちはコートの外に出た。
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