幼馴染の少女に触れたくても触れられない私は代わりに彼女を求めた……キスをしたのもそんな目で私を見上げるあんたのせいなんだよ

tataku

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第3章

第45話

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 ちび助は、コートを出た瞬間、慌てたように辺りを見回す。

「み、深雪先輩がいません、奈々先輩――どういうことですか!?」

 ちび助は、私の胸ぐらを掴む勢いで近づいてくる。

「あんたの試合が終わったあと、自分の試合に向かったから」

 私は卓球台のある、中二階の場所を指さした。

「な、なんと! それは、急がねばなりませんね!」
「深雪は来ないでって言ってたけど?」
「それは、大丈夫です」

 何が?

 ちび助は軽く手をあげると、走って中二階の方に向かった。

 あの押しの強さは――つくづく羨ましいと、私は思う。

「仔犬くんは元気を取り戻したようだね。何を言って励ましたかは知らないが、大したものだね」

 声のする方へ顔を向ける。

 小倉チームと、九条チームがこちらにぞろぞろと集まってきた。人数がこうも多いと、圧を感じる。

「別に、私が何かを言ったからじゃない。あれは――ちび助自身の力だから」

 小倉は、じっと私を眺める。

「何?」
「いや、大したことじゃない。ただ、格好良いじゃないかと、そう思っただけだよ」

 私が格好いい? そんなの、鼻で笑ってしまう。あんたから言われても、ただの嫌味にしか聞こえない。



 2-Aと3-Dの試合が始まる。

 先程の試合と違い、中二階の周りにも人がびっしりと集まり、観戦者が明らかに増えた。隣のコートにはほとんど人がいないことを考えると、この人だかりは小倉のせいなのだろう。

 3-Dにスタメンはいないが、4人がバスケ部で全体的に実力は高い――と、九条は口にした。

 バスケはチームによる競技だ。例え、ひとりだけ優秀な選手がいても勝てるものではない――というのが普通だが、やはり実力が飛び抜けている場合、話は別だ。
 
 1人では当然無理だし、2人でも押さえられず、3人ですら小倉は止められない。
 
 去年よりも、実力が上がっている。想像以上に。

 小倉のプレイに周りから黄色い声が上がる。

 私は何となく、周囲を確認した。

 藤宮の姿がない。

 去年の球技大会では、必ず小倉の試合を観に来ていたのに。
 
 ちび助の情報で、藤宮が卓球を選択していることは知っている。今回はそちらに興味が移っているのか?

 もしかしたら――告白事件により、小倉を避けているのかもしれない。もしそうなら、いい気味だなぁーと、私は思う。



 試合が終わる。

 結果など、始まってすぐに予想した通り、2-Aの勝利。

 圧倒的な実力を見せつけられ、少ないやる気がどんどん失われていく。

 九条は必死に勝つための作戦を考えているのか、ブツブツと何かを呟いている。

 私はため息を吐く。

 ――本当、今年も面倒くさいことになりそうだ。



 ***



 九条の後に続いて、コートに入る。

 深雪とちび助が視界に映る。二人は呑気に手を振ってくる。私は軽く頷くだけで対応する。

 私たち2-Eは、藤宮のクラスである2-Bと対戦。

 審判と点数係は知らない1年生たち。

「凛の余裕顔を歪ませるのは、彼女と対戦するときよ」

 九条の言葉に、手下どもが頷く。

 何気なく顔を向けた先で、小倉と目が合った。彼女は深雪たちと同じように手を振ってきたが、私は無視することにした。

 先程の試合と違い、明らかに人が減った。
 私としては、大変有難い。
 去年は大勢の観衆の中、黄色い歓声を聞きながら試合をしなければならなかった。
 正直、あれはただの拷問だ。


 試合開始の笛の音が鳴る。

 ジャンプボールは一番背の高い手下Aが行う。

「私に任せろ」

 と、試合前に自分を指差し、ドヤ顔で言っていただけあり、ちゃんと結果は出した。

 九条にボールが渡り、試合が流れる。

 去年と立ち回りはそれほど変わらない。
 九条が司令塔として試合を回し、私がその補助をするだけ。前回と違うのは、3Pシュートをなるべく打たないようにしていることぐらいか。

 九条曰く、チームとしてのバランスは決して悪くはないとのこと。

 彼女の言った通り、このチームの流れはかなりいい。私がその流れを止めなければ、そこそこ勝ち上がれる気がした。
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