45 / 77
第3章
第45話
しおりを挟む
ちび助は、コートを出た瞬間、慌てたように辺りを見回す。
「み、深雪先輩がいません、奈々先輩――どういうことですか!?」
ちび助は、私の胸ぐらを掴む勢いで近づいてくる。
「あんたの試合が終わったあと、自分の試合に向かったから」
私は卓球台のある、中二階の場所を指さした。
「な、なんと! それは、急がねばなりませんね!」
「深雪は来ないでって言ってたけど?」
「それは、大丈夫です」
何が?
ちび助は軽く手をあげると、走って中二階の方に向かった。
あの押しの強さは――つくづく羨ましいと、私は思う。
「仔犬くんは元気を取り戻したようだね。何を言って励ましたかは知らないが、大したものだね」
声のする方へ顔を向ける。
小倉チームと、九条チームがこちらにぞろぞろと集まってきた。人数がこうも多いと、圧を感じる。
「別に、私が何かを言ったからじゃない。あれは――ちび助自身の力だから」
小倉は、じっと私を眺める。
「何?」
「いや、大したことじゃない。ただ、格好良いじゃないかと、そう思っただけだよ」
私が格好いい? そんなの、鼻で笑ってしまう。あんたから言われても、ただの嫌味にしか聞こえない。
2-Aと3-Dの試合が始まる。
先程の試合と違い、中二階の周りにも人がびっしりと集まり、観戦者が明らかに増えた。隣のコートにはほとんど人がいないことを考えると、この人だかりは小倉のせいなのだろう。
3-Dにスタメンはいないが、4人がバスケ部で全体的に実力は高い――と、九条は口にした。
バスケはチームによる競技だ。例え、ひとりだけ優秀な選手がいても勝てるものではない――というのが普通だが、やはり実力が飛び抜けている場合、話は別だ。
1人では当然無理だし、2人でも押さえられず、3人ですら小倉は止められない。
去年よりも、実力が上がっている。想像以上に。
小倉のプレイに周りから黄色い声が上がる。
私は何となく、周囲を確認した。
藤宮の姿がない。
去年の球技大会では、必ず小倉の試合を観に来ていたのに。
ちび助の情報で、藤宮が卓球を選択していることは知っている。今回はそちらに興味が移っているのか?
もしかしたら――告白事件により、小倉を避けているのかもしれない。もしそうなら、いい気味だなぁーと、私は思う。
試合が終わる。
結果など、始まってすぐに予想した通り、2-Aの勝利。
圧倒的な実力を見せつけられ、少ないやる気がどんどん失われていく。
九条は必死に勝つための作戦を考えているのか、ブツブツと何かを呟いている。
私はため息を吐く。
――本当、今年も面倒くさいことになりそうだ。
***
九条の後に続いて、コートに入る。
深雪とちび助が視界に映る。二人は呑気に手を振ってくる。私は軽く頷くだけで対応する。
私たち2-Eは、藤宮のクラスである2-Bと対戦。
審判と点数係は知らない1年生たち。
「凛の余裕顔を歪ませるのは、彼女と対戦するときよ」
九条の言葉に、手下どもが頷く。
何気なく顔を向けた先で、小倉と目が合った。彼女は深雪たちと同じように手を振ってきたが、私は無視することにした。
先程の試合と違い、明らかに人が減った。
私としては、大変有難い。
去年は大勢の観衆の中、黄色い歓声を聞きながら試合をしなければならなかった。
正直、あれはただの拷問だ。
試合開始の笛の音が鳴る。
ジャンプボールは一番背の高い手下Aが行う。
「私に任せろ」
と、試合前に自分を指差し、ドヤ顔で言っていただけあり、ちゃんと結果は出した。
九条にボールが渡り、試合が流れる。
去年と立ち回りはそれほど変わらない。
九条が司令塔として試合を回し、私がその補助をするだけ。前回と違うのは、3Pシュートをなるべく打たないようにしていることぐらいか。
九条曰く、チームとしてのバランスは決して悪くはないとのこと。
彼女の言った通り、このチームの流れはかなりいい。私がその流れを止めなければ、そこそこ勝ち上がれる気がした。
「み、深雪先輩がいません、奈々先輩――どういうことですか!?」
ちび助は、私の胸ぐらを掴む勢いで近づいてくる。
「あんたの試合が終わったあと、自分の試合に向かったから」
私は卓球台のある、中二階の場所を指さした。
「な、なんと! それは、急がねばなりませんね!」
「深雪は来ないでって言ってたけど?」
「それは、大丈夫です」
何が?
ちび助は軽く手をあげると、走って中二階の方に向かった。
あの押しの強さは――つくづく羨ましいと、私は思う。
「仔犬くんは元気を取り戻したようだね。何を言って励ましたかは知らないが、大したものだね」
声のする方へ顔を向ける。
小倉チームと、九条チームがこちらにぞろぞろと集まってきた。人数がこうも多いと、圧を感じる。
「別に、私が何かを言ったからじゃない。あれは――ちび助自身の力だから」
小倉は、じっと私を眺める。
「何?」
「いや、大したことじゃない。ただ、格好良いじゃないかと、そう思っただけだよ」
私が格好いい? そんなの、鼻で笑ってしまう。あんたから言われても、ただの嫌味にしか聞こえない。
2-Aと3-Dの試合が始まる。
先程の試合と違い、中二階の周りにも人がびっしりと集まり、観戦者が明らかに増えた。隣のコートにはほとんど人がいないことを考えると、この人だかりは小倉のせいなのだろう。
3-Dにスタメンはいないが、4人がバスケ部で全体的に実力は高い――と、九条は口にした。
バスケはチームによる競技だ。例え、ひとりだけ優秀な選手がいても勝てるものではない――というのが普通だが、やはり実力が飛び抜けている場合、話は別だ。
1人では当然無理だし、2人でも押さえられず、3人ですら小倉は止められない。
去年よりも、実力が上がっている。想像以上に。
小倉のプレイに周りから黄色い声が上がる。
私は何となく、周囲を確認した。
藤宮の姿がない。
去年の球技大会では、必ず小倉の試合を観に来ていたのに。
ちび助の情報で、藤宮が卓球を選択していることは知っている。今回はそちらに興味が移っているのか?
もしかしたら――告白事件により、小倉を避けているのかもしれない。もしそうなら、いい気味だなぁーと、私は思う。
試合が終わる。
結果など、始まってすぐに予想した通り、2-Aの勝利。
圧倒的な実力を見せつけられ、少ないやる気がどんどん失われていく。
九条は必死に勝つための作戦を考えているのか、ブツブツと何かを呟いている。
私はため息を吐く。
――本当、今年も面倒くさいことになりそうだ。
***
九条の後に続いて、コートに入る。
深雪とちび助が視界に映る。二人は呑気に手を振ってくる。私は軽く頷くだけで対応する。
私たち2-Eは、藤宮のクラスである2-Bと対戦。
審判と点数係は知らない1年生たち。
「凛の余裕顔を歪ませるのは、彼女と対戦するときよ」
九条の言葉に、手下どもが頷く。
何気なく顔を向けた先で、小倉と目が合った。彼女は深雪たちと同じように手を振ってきたが、私は無視することにした。
先程の試合と違い、明らかに人が減った。
私としては、大変有難い。
去年は大勢の観衆の中、黄色い歓声を聞きながら試合をしなければならなかった。
正直、あれはただの拷問だ。
試合開始の笛の音が鳴る。
ジャンプボールは一番背の高い手下Aが行う。
「私に任せろ」
と、試合前に自分を指差し、ドヤ顔で言っていただけあり、ちゃんと結果は出した。
九条にボールが渡り、試合が流れる。
去年と立ち回りはそれほど変わらない。
九条が司令塔として試合を回し、私がその補助をするだけ。前回と違うのは、3Pシュートをなるべく打たないようにしていることぐらいか。
九条曰く、チームとしてのバランスは決して悪くはないとのこと。
彼女の言った通り、このチームの流れはかなりいい。私がその流れを止めなければ、そこそこ勝ち上がれる気がした。
0
あなたにおすすめの小説
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
負けヒロインに花束を!
遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。
葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。
その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。
【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。
東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」
──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。
購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。
それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、
いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!?
否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。
気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。
ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ!
最後は笑って、ちょっと泣ける。
#誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる