幼馴染の少女に触れたくても触れられない私は代わりに彼女を求めた……キスをしたのもそんな目で私を見上げるあんたのせいなんだよ

tataku

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第3章

第46話

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 試合が終わる。私たちの勝利で。

 思っていたより、試合に集中していたようだ。周囲が気にならない程度には。

 何気なく、入口近くに顔を向けると、藤宮と目が合った――ような、気がする。遠目だから、正直よく分からない。

 それにしても、まさかいるとは思わずかなり驚いた。

 藤宮は顔を背け、さっさと体育館から出ていった。

 私の応援――な訳ないか。自分のクラスだから見に来たのか? それとも、彼女がよく口にするたまたま?

 考えて分かるものでもないなら時間の無駄。私はさっさと考えを放棄した。

 九条が私の背中を叩く。

「お疲れ、いい動きだったわよ」
「……それは、どうも」

 手下どもも集まり、ワチャワチャし始めたので、私は先にコートから出た。

 深雪とちび助が寄ってくる。

 視界に小倉が映ったが、彼女は私を見て軽く手を上げたあと、体育館から出ていった。

「奈々ちゃん、良かったね。勝てて」

 深雪は嬉しそうに言ってくる。

 勝っても面倒くさいことになるだけ。でも、深雪の笑顔を見れたのなら――まぁ、悪いだけでもないのかなぁと、馬鹿な考えが思い浮かぶ。

「流石は私のライバルです。悔しいですが、少しだけ認めてあげますよ」

 めちゃくちゃ上から言ってくる。

 あんたは1回戦で負けたじゃん――と口にしようとして、流石に止めた。

 そもそも、私が勝ったわけじゃない――あれは、九条たちの勝利だ。

「で、深雪は勝ったの?」

 私は分かりきったことを聞いた。

「当たり前です。完全な勝利です」

 ちび助は腕を組み、そんなあり得ないことを言った。

「嘘! 深雪以上に鈍臭い奴がいたの!?」
「奈々ちゃん……」

 深雪からはジト目を向けられる。

「じょ、冗談だから」

 私は何とか誤魔化すために笑うが、嘘臭かったのか、深雪は疑いの目を向けてくる。

「奈々先輩は本当に駄目ですねぇ、冗談でも言っていいことと悪いことがありますよぉ」

 やれやれ――といった感じで、ちび助は首を振る。

 頭を小突きたくなるのを、ぐっと抑え込む。

「そっちは――冗談ではないってわけ?」
「とうぜんですよぉ」

 ちび助は得意げに鼻を鳴らす。

 こいつは、本気なのか冗談なのかが本当に分かりづらい。

「完全な勝利ですよぉ」

 ちび助はもういちど言った、ドヤ顔で。

「……誰に?」
「藤宮先輩です」

 あぁー、なるほど。

「つまり、不戦勝ってわけね」
「むむっ……、何か嫌な言い方ですねぇ、それは」
「じゃあ、他にどんな言い方があるのよ」
「だから、完全な勝利です。それ以外の言葉など、この世には存在していません」

 いや、普通に存在していると思うのだが? 不戦勝って言葉が。

「深雪、完全なる勝利――おめでとう」
「……それ、馬鹿にしてるよね?」
「そんなことないから。ねぇ、小春」
「そうですよ、深雪先輩! 奈々先輩は珍しく、本当のことしか言ってません! 深雪先輩の優勝ですよ!」

 ちび助は、笑顔で訳の分からないことを言いながら深雪に詰め寄った。
 
「も、もう分かったから」

 深雪は顔を赤くしながら、もう勘弁してほしそうな顔をする。

「小春、次は何を観に行くの?」
「次ですか? 奈々先輩はどうするつもりです?」
「私は次の試合、点数係になっているから」
「深雪先輩どうします? このままバスケの観戦にしますか?」

 二人は引き続き、バスケの観戦。私は点数係として働くことになった。



 仕事が終わったあと、私は九条とその手下共に引きつられ、裏庭へ足を運ぶことになる。
 そこで作戦会議をすることになった。
 あと1試合勝てば、小倉たちとの対戦となる。
 九条は熱を持って語る。
 本当に、勝てると思ってるのだろうか?
 彼女の横顔を見て、私は何故か聞くことができなかった。
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