出戻り王女の恋愛事情 人質ライフは意外と楽しい

七夜かなた

文字の大きさ
82 / 102
第九章

しおりを挟む
「そ、そんな…オリビアが…実の姉に…」
「ユリウス様、これは何かの間違いです。あの子が、そんな…」
「間違い…俺もそう思いたかった」

 ユリウスは動揺を隠せないでいる夫妻を一瞥してから、おもむろに立ち上がって居間の中を歩き出した。

「ユリウス…様?」

 ビアマン家の居間は、豪華な調度品で溢れかえっていた。
 壺や絵画、置物に今ユリウスが座っていたソファも、かなり値が張るものだと、目利きでなくても容易に判断できた。
 加えて夫人の耳や首元には、大きな宝石が付いた装飾品が飾られている。

「ここに来るのはリアの葬儀のすぐ後に来てから初めてですが、随分様子が変わりましたね」

 暖炉の上にあった真鍮の鹿の置物を持ち上げ、つぶさに観察しながらユリウスが呟いた。
 彼らに取っての孫であるミアとリロイには、年に二回ほどボルトレフの邸に、彼らの方から訪ねてきていた。 

「それは、五年近くにもなるのだから、無理もない。少しずつ模様替えもしているからね。骨董品集めはマーガレットの趣味なんだ」
「え、ええ…市場を回って安い掘り出し物を見つけて、飾るのが好きなの」
「安い…掘り出し物。それにしては随分新しいように見えますが、手入れが上手なのですね」
「そ、そうなのだ。それもマーガレットの特技だ」

 二人が動揺しているのは、たった今聞かされたオリビアとリアのことだけではなさそうに思える。
 ランディフは黙って彼らの様子を眺め、扉の前に立つ。 
 まるで彼らが逃げられないようにしているかのように。

「義母上の装飾品も見事ですね」
「あ、ありがとう。でもこれは戴きものなのよ」
「マーガレット!」
「あっ……」

 妻の口を慌てて止めたが遅かった。
 夫人も自分の失言に気づき、口を覆うが、既に言ってしまった言葉は取り戻せない。

「も、申し訳ないことです、ユリウス様、こ、これは…我々は」
「そうです。誤解です。わ、私達は…でもその薬のことは私達も知らないのです」

 夫人は薬については真っ向から否定した。
 二人共彼らの娘だ。一方がもう一方に悪意を持って薬を盛ったとは夢にも思っていなかったようだ。
 そのことには同情しないでもない。ユリウスも、今まで疑いもしなかったことに己の不甲斐なさを感じていた。
 ファーガスが最近耳にした薬の噂を教えてくれなければ、きっと今も気づかなかったかも知れない。

「これらがどこかの国が、ボルトレフとの橋渡しか何かで贈った賄賂だと認めるのですね」

 ユリウスの指摘に彼らは口を噤んだ。
 その沈黙が肯定だとわかる。

「あなたたちはリアの親で、ミアたちの祖父母です。俺も無下なことはしたくない。ですが、俺はボルトレフの総領でもある。もし、あなたたちがボルトレフを危険に晒す案件に関わっているのなら、到底見過ごせません」
「わ、私達もボルトレフの者だ。そのようなことはする気はない。ボルトレフの発展を思ってのことだ。いつまでもエレトリカとだけ手を結んで未来があるのか」
「そうですわ。トリカディールとの戦争の褒賞だって、エレトリカが素直に払わなかったからではありませんか」

 ボルトレフのためだという自負からか、まったく悪びれていない。
 呆れてユリウスはため息を吐いた。

「それで、相手は?」
 
 どこの国が接触してきたのかと尋ねると、二人は気まずげに顔を見合わせた。

「その…交渉はオリビアが…」
「そうです。私達は、一度だけこれらの品を持ってきた商人に会っただけで、詳しいことは何も…」
「その商人とは?」

 特徴を問い質すが、その背格好に思い当たる人物に、ユリウスたちも心当たりがなかった。  
 恐らくはそれは本当に商人だろう。

「ビアマン夫妻から情報が漏れるのを防ぐためでしょう」
「用心深いな」
「あの、オリビアは…我々はどうなるのですか?」

 ランディフとユリウスの会話に割り込んで、夫妻は自分たちの行く末について聞いてきた。

「何もなしとは言えない。ただ、未遂で終わったなら今回は不問に付してもいい」

 それを聞いて二人はほっとした。

「ただし、オリビアは別だ。そして二人がもしオリビアを庇ったり隠すなら、それ相応の処罰を覚悟してもらう」

 娘を売り渡せという親としては非情な決断になるだろうが、ミアとリロイの祖父母を罪人にしたくはなかった。

「だが、ボルトレフの中枢での権力は剥奪する。今後はここに引きこもり、子どもたちとも当面は会えない」
「……」

 二人は言葉もなく項垂れた。

(俺も甘いな)

 過去がどうであろうと、一度仲間として受け入れた者には懐の深いところを見せる。
 それがボルトレフの信条だ。
 母を亡くした我が子たちを、これ以上不憫にさせたくはない。
 だが反面、厳しい面も知る必要はある。  
 他に害を及ぼす存在だとわかれば、たとえ親族であろうと、切り捨てる。
 それが大勢のためになるなら。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

処理中です...