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第九章

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「大将、街の方も探しましたが、王女様らしき人物を見た者はおりません」
「念の為、隣街にも人をやりますか?」
「どうされますか、このこと、エレトリカにも伝えたほうが…」

 ボルトレフの邸に戻ると、ジゼルの姿が消えたという知らせがユリウスを待っていた。
 すぐさまユリウスは街中へと戻り、自ら陣頭指揮を取り隈なく捜索した。
 しかし、結果は芳しく無く、ジゼルの行方は依然としてわからなかった。

「一体どうやって、誰がこのようなこと」
「予想はついている。ボルトレフに出入りしてジゼルを狙う人物は、一人だ」

 ユリウスの言葉に、ランディフも思い当たる人物の名を口にした。

「……オリビア」
「そうだ。だが、動機はあっても彼女が一人でそのようなことを出来るとは思っていない」
「協力者ですね」
「そうだ。彼女の実家で見つけたも、そこから手に入れたのだろう」

 カルエテーレとの交渉を済ませてから、ユリウスは仲間を近くの村で待機させ、ランディフだけを連れてオリビアの実家に向かった。

「ユリウス様、どうされたのですか」
「前触れもなく悪い」

 突然のユリウスの訪問に、リアとオリビアの両親でユリウスの義理の両親でもあるビアマン夫妻は驚いていた。

「少し気になることがあって、オリビアの部屋を見させてくれ」
「オリビアの? あの子が何か?」

 いきなりの訪問とその理由に、当然のごとく彼らは戸惑いを見せた。

「確かめたいことがある」

 真剣な面持ちで、総領にそう言われれば、一族のものとしては従わざるを得ない。

「わかりました。こちらへ」

 夫人の案内で二階の彼女の部屋へとランディフと共に向かった。その後をビアマンもついてくる。

「ここは元々リアの部屋だったのですが、あの子がお嫁に行った時にオリビアがこの部屋がいいと言いまして」

 夫人が案内してくれたのは、日当たりのいい庭が一望できる部屋だった。

「では、それまでの部屋は?」
「この向かい側です」
 
 夫人が廊下を挟んだ扉を指し示す。

「ランディフ」
「はい。では、私はそちらを」
「床や壁も隈なく探せ」 

 ユリウスが名前を呼ぶと、意図を察したランディフが向かいの部屋に入った。

「あの、ユリウス様? 娘…オリビアの部屋に何があるのですか?」

 夫人が問いかける。娘婿ではあるが、ユリウスは彼ら一族の総領でもあるため、敬称を付けて呼んでいる。

「少々部屋を荒らす。後で修理させるので、容赦願いたい」

 ユリウスとランディフは引き出しや収納庫から始まり、部屋の中を捜索し始めた。  
 枕や寝具にも刃物を突き立て、中身を全て引きずり出す。壁や床も注意深く観察して、時折あちこち壊していった。
 ビアマン夫妻が何度理由を尋ねても、それには答えず二人は黙々と何かを探していた。

「大将!」

 向かいの部屋からランディフが叫び、何かを手にしてユリウスの元へと駆けてきた。

「見つかったか」
「はい」
「ユリウス様?」

 廊下でランディフが見つけた小さな小瓶を受け取り、目当てのものを見つけたことに二人で満足していると、怪訝そうにビアマン夫妻が近づいてきた。
 ランディフと顔を見合わせてから、ユリウスは二人に向き直った。

「二人には申し訳ないことだが、今更ながら、俺はリアの死に不審を抱いている」
「リアの?」
「あの子は事故死…」
「いや、リアは事故死ではない。ミアやリロイのために伏せておくつもりだったが、リアの死は単なる事故ではない。自分から命を絶ったのだ」
「えっ!!!」
「そ、そんな、嘘ですわ、そんなこと」

 ユリウスの言葉に二人は一瞬にして顔面蒼白になり、動揺する。 
 夫人は体から力が抜け、夫に倒れかかる。

「マーガレット!」
「場所を移そう」

 ユリウスが言い、四人は下に降りて居間に向かった。

「当時は無用な混乱を避けるのと、俺も気が動転していて、リアの死の真相を伏せることだけを考えていた。大事な娘を、俺に嫁いだばかりに失ったお二人にも、申し訳ない気持ちだった。総領などと担がれ、妻一人守れない無能な人間だと、己を恥じてもいた」
「そんなこと」

 ビアマン夫妻は気遣いを見せたが、ユリウスは無用なことだと首を振った。

「妊娠や出産は、それだけで大変なことだ。気鬱になる者もいると聞いていたので、リアもその類いだろうと思っていたが…」

 彼は先程見つけた小瓶を目の前の机に置いた。
 
「それは? オリビアの元の部屋で見つけたものですね」
「床板の下に隠してありました」
「床下に、それはなんですか?」
 
 見たこともない代物に、夫妻は答えを知っていそうなユリウスに尋ねる。

「はっきりしたことは調べなければわからないが、俺はリアの気鬱の原因は、この薬のせいだと思っている。そして、これをオリビアが隠し持っていたということは、彼女がリアに、これを盛ったと推測される」
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