出戻り王女の恋愛事情 人質ライフは意外と楽しい

七夜かなた

文字の大きさ
85 / 102
第九章

しおりを挟む
 互いに縛り合っていたため、ジゼルとドミニコは絡み合って地面に落ちた。

「ぐうっ」
「ああっ」

 運良くドミニコが半分下敷きになり、ジゼルは左肩と腰を強打した。
 痛みにほんの一瞬目の前が真っ暗になった。

「くそっ!」
「きゃあっ」

 倒れたジゼルのすぐ目と鼻の先に馬の蹄か見えて、土埃が舞い、踏み潰されるかと悲鳴を上げ身を縮こまらせた。

「まったく、馬も満足に扱えないのか。これだからお坊ちゃまは…」

 革のブーツを履いた足が地面に降り、マイネスが片膝を突いた。

「う、うるさい! つべこべ言わずに早く起こせ」

 耳のすぐ側でドミニコが大声で叫んだ。彼はジタバタし起き上がろうとするが、なかなかうまくいかなず、その苛立ちをマイネスにぶつける。

「ほら、今縄を切ってやるからじっとしていろ」
 
 そう言って腰に下げた剣を抜いて、ジゼルとドミニコを繋いでいた縄を切ると、ジゼルを担ぎ上げた。

「きゃあ!」
「おま、な、何を! その手を離せ」

 荷物のようにマイネスに担ぎ上げられ、頭が下になる。上下がひっくり返りジゼルは悲鳴を上げ、ドミニコが抗議する。
 
「ここで死にたくなかったら、その口を閉じて大人しくしていろ! 今から来る奴らは、恐らくこのお姫さんが目的だろう。ちょうどいい人質になってもらう」
「な…!」
「え!」

 マイネスの言葉にジゼルもドミニコも目を瞠る。土煙を上げながら、こちらに向かってくる一団から激しい蹄の音に混じって、何やら叫び声が聞こえてくる。 

「…!!!、ル!」

 ちょうど風がこちらに吹いて、その風に乗って聞こえてきた声に聞き覚えがあり、ジゼルは頭を持ち上げた。

「…ル!」
「まさか…、った」

 唇を戦慄かせ、ジゼルは思い切り目を見開く。土埃が目に入り痛みに目を閉じたジゼルの耳に、はっきりと聞こえてきた。

「ジゼル!」
「…ユリウス!」

 ジゼルは思い切り声を張り上げた。

「ユリウスだと?!」
「そうだ。ユリウス・ボルトレフ。戦場において味方ならこの上なく心強い相手だが、敵側にとっては最悪の悪夢」

 深々とマイネスはため息を吐く。

「悪いが、正々堂々戦ってはこちらが不利だ」
「ふざけるな! お前だって名のある武将だろ! 弱音を吐かずに立ち向かえ!」
「そんなに奴と戦いたいなら自分でしろ。おれはまだ死にたくない」
 
 そう言ってジゼルを担いだまま、マイネスは自分の馬に近付く。

「やめて、離して!」

 マイネスの肩の上でジゼルは逃れようと身を捩る。しかし、腕も足もまだ拘束されていて自由が利かない。

「おい、私を…いた、私を置いて行くな!」
 
 起き上がろうとしたドミニコは、落馬の際に腰を痛めたらしく、すぐに立ち上がることが出来ず、自分を放置するマイネスに叫ぶ。

「私はバレッシオの大公だぞ! わかっているのか」
「ええもちろん。しかし、俺が請け負った依頼はこのお姫様を連れてくることで、あなたの安全は約束のうちに入っていません」
「へ、屁理屈を…同盟相手の私を蔑ろにして、ただで済むと思うな! 貴様が仕える国王にも、貴様が働いた無礼について言いつけてやる!」
「どうぞお好きに。ただし、この場を乗り切れたらですが」

 話しているうちに、ユリウスたちはどんどん近づいてくる。

「お、おい待て!」

 ジゼルを抱えたまま、馬に颯爽と跨り、マイネスは馬の腹を蹴った。

「ジゼル!」

 さっきより大きく聞こえるユリウスの叫びに、ジゼルはマイネスの背中から思い切り身を起こし、そちらを見た。
 数頭の馬が激しい土煙を上げ近付いてくる。
 どれがユリウスなのか、ジゼルには分からない。
 するとそのうちの一騎に乗っていた人物が、駆ける馬の背に立ち上がった。

「まさか…」
「なんだと」 

 勢いよく走る馬の背に立つなど、人間が出来るものなのか。
 その光景に誰もが息を呑んだ。

「ボルトレフ」
「……ユリウス…そんな」

 到底信じられない。ジゼルは今自分が目にしているものが、幻ではないかと疑った。

「ば、化け物」

 誰かが呟く。
 早駆けする馬の背にすっくと立ち上がったユリウスは、胸の前に腕を交差して両腰から剣を引き抜き、身構えたかと思うと、膝を折って勢いよく馬から飛び降りた。
 そして地面に足を着けたかと思うと、脱兎のごとくこちらに向かって走り込んできた。

「戦え! 近寄らせるな、相手は十人程度だ」

 マイネスが叫び、手前にいた部下たちが襲いかかる。
 他の者は馬に乗ったまま、近場にいたマイネスの部下たちに向かって応戦する。
 その中心を切り裂くようにユリウスが走り、止めようとする敵を次々と迎え討つ。

「ジゼル!」

 しかし、彼らはユリウスの敵ではなかった。ジゼルの名を呼びながら、足を止めることなく走り込むユリウスの剣にあっという間に斬り捨てられ、バタバタと地面に倒れていった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

処理中です...