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「……どういうことだ?」
聞かせてもらおうか、とため息をつきながら本田が店の壁に凭れる。
「どうもこうも……そのままです。あなたですよね? 瑛蒔の父親で、池上課長の恋人だった人って……。すぐわかりました。瑛蒔はあなたそっくりだ」
「瑛蒔を知ってるのか?」
「友人です」
匡史は答えると、本田の隣にしゃがみ込んだ。頭上から、そうか、と言葉が返る。驚かないところを見ると、瑛蒔が大人に対して物怖じしないところなんかはしっかり理解しているのだろう。ありえない話ではないと踏んだようだ。
「瑛蒔から聞いたのか? その……僕と聡二のこと」
「いえ。本人からです。課長から……あなたと付き合っていたと聞きました」
通りを過ぎる車を見つめながら匡史が答える。仲がいいんだな、と言いながら本田がポケットから煙草を取り出しそれに火をつけた。
「課長は、俺のことを知りたいと言ってくれました。好き、とまではいかなくても、悪くは思ってないようなんです」
匡史が言うと、本田が驚いたように匡史を見つめた。それを見上げ、匡史は笑んだ。
「あなたに、俺の行動が似ているそうです。びっくりでしょう? 思ってても言いますか、普通。昔の恋人に似てるから興味持った、だからもっと知りたいなんて……こんな、全然似てないのに」
再び通りに視線を戻した匡史は、潤みそうになる視界を、必死に堪えた。視界の隅に、紫煙が流れて消えていく。
「あいつらしいって言えば、あいつらしいな。君は、聡二が好きなんだな」
「俺、アルファなんです。初めて会った時から、課長の香りを感じて……きっかけはそれですが、いつのまにかあの人のことばかり考えるようになってました」
「そんなもんだよ、人を好きになる時なんて」
本田は匡史と視線を合わせるようにしゃがみ込んで大きく息を吐いた。
「なんで、あの人と別れたんですか? あんなすごい人、滅多に居ないのに」
「すごい?」
「周りにアルファだと思い込ませることが出来るほどカッコよくて仕事が出来て、その上キレイで気配り上手で、なのに自分のこととなると意地張って不器用で……惹かれない方がおかしい」
「そうだな……僕も、聡二を性別で好きになったわけじゃない。僕はベータだからね、君みたいに聡二の香りを強く感じることはなかった。だからこそお互いにこの気持ちは揺るがないって思っていたんだけど……僕は聡二を理解してたつもりで、甘えてた。僕はね、聡二を家族にしちゃったんだよ」
本田は煙草を携帯灰皿に放り込むとひとつ息をついた。匡史が、家族? と聞き返す。
「恋人ではなくて、瑛蒔の保護者として引き止めてた。あいつとは三年一緒に居たけど、僕は、今の彼女と一年付き合ってるんだ」
計算が合わないだろ、と本田は自嘲気味に笑った。
「別れを切り出したのは、今年の一月……彼女に子供が出来たとわかった時だ。なのに、聡二が家を出て行ったのは三月――瑛蒔の保育園が春休みになったら札幌に連れて行くって……僕はそれを了承したんだ。おかしいだろ? 別れてから二ヶ月、同じ家で同じ飯食って、一緒にテレビとか見たりしてたんだよ。結局、それよりもずっと前に僕らの関係は恋愛から遠いところにあったんだよ」
本田はぼんやりと過去を思い出すように通りを眺めた。
「最後に、あの人とセックスしたのって、いつですか?」
匡史が聞くと、突然の質問に驚いたのか、本田が匡史を見やる。匡史は、その目を見ながらもう一度、いつですか、と聞いた。
「夏だったと思うよ……夏休みだからって瑛蒔を実家に預けた、その間だったかな」
「半年も、あの人ほったらかしてたんですね。きっともう、その時には気づいてたんだ……あなたが他の誰かと付き合ってるの。じゃなきゃ、この春から札幌になんて来てないですよね?」
異動願いだって書けばすぐ受理されるものでもない。最低でも半年は必要だろう。
「そうか……そうだな。段々思い出したよ。そういえば、あの夏の日も誘ったのは聡二だった――たまには僕にも構ってよって……瑛蒔と連日遊んでたから、瑛蒔に妬いてるんだと思ってたけど、相手は彼女だったんだな」
知ってたんだな、と本田が口元で手のひらを合わせた。今頃思い出して、後悔しているようだ。
聞かせてもらおうか、とため息をつきながら本田が店の壁に凭れる。
「どうもこうも……そのままです。あなたですよね? 瑛蒔の父親で、池上課長の恋人だった人って……。すぐわかりました。瑛蒔はあなたそっくりだ」
「瑛蒔を知ってるのか?」
「友人です」
匡史は答えると、本田の隣にしゃがみ込んだ。頭上から、そうか、と言葉が返る。驚かないところを見ると、瑛蒔が大人に対して物怖じしないところなんかはしっかり理解しているのだろう。ありえない話ではないと踏んだようだ。
「瑛蒔から聞いたのか? その……僕と聡二のこと」
「いえ。本人からです。課長から……あなたと付き合っていたと聞きました」
通りを過ぎる車を見つめながら匡史が答える。仲がいいんだな、と言いながら本田がポケットから煙草を取り出しそれに火をつけた。
「課長は、俺のことを知りたいと言ってくれました。好き、とまではいかなくても、悪くは思ってないようなんです」
匡史が言うと、本田が驚いたように匡史を見つめた。それを見上げ、匡史は笑んだ。
「あなたに、俺の行動が似ているそうです。びっくりでしょう? 思ってても言いますか、普通。昔の恋人に似てるから興味持った、だからもっと知りたいなんて……こんな、全然似てないのに」
再び通りに視線を戻した匡史は、潤みそうになる視界を、必死に堪えた。視界の隅に、紫煙が流れて消えていく。
「あいつらしいって言えば、あいつらしいな。君は、聡二が好きなんだな」
「俺、アルファなんです。初めて会った時から、課長の香りを感じて……きっかけはそれですが、いつのまにかあの人のことばかり考えるようになってました」
「そんなもんだよ、人を好きになる時なんて」
本田は匡史と視線を合わせるようにしゃがみ込んで大きく息を吐いた。
「なんで、あの人と別れたんですか? あんなすごい人、滅多に居ないのに」
「すごい?」
「周りにアルファだと思い込ませることが出来るほどカッコよくて仕事が出来て、その上キレイで気配り上手で、なのに自分のこととなると意地張って不器用で……惹かれない方がおかしい」
「そうだな……僕も、聡二を性別で好きになったわけじゃない。僕はベータだからね、君みたいに聡二の香りを強く感じることはなかった。だからこそお互いにこの気持ちは揺るがないって思っていたんだけど……僕は聡二を理解してたつもりで、甘えてた。僕はね、聡二を家族にしちゃったんだよ」
本田は煙草を携帯灰皿に放り込むとひとつ息をついた。匡史が、家族? と聞き返す。
「恋人ではなくて、瑛蒔の保護者として引き止めてた。あいつとは三年一緒に居たけど、僕は、今の彼女と一年付き合ってるんだ」
計算が合わないだろ、と本田は自嘲気味に笑った。
「別れを切り出したのは、今年の一月……彼女に子供が出来たとわかった時だ。なのに、聡二が家を出て行ったのは三月――瑛蒔の保育園が春休みになったら札幌に連れて行くって……僕はそれを了承したんだ。おかしいだろ? 別れてから二ヶ月、同じ家で同じ飯食って、一緒にテレビとか見たりしてたんだよ。結局、それよりもずっと前に僕らの関係は恋愛から遠いところにあったんだよ」
本田はぼんやりと過去を思い出すように通りを眺めた。
「最後に、あの人とセックスしたのって、いつですか?」
匡史が聞くと、突然の質問に驚いたのか、本田が匡史を見やる。匡史は、その目を見ながらもう一度、いつですか、と聞いた。
「夏だったと思うよ……夏休みだからって瑛蒔を実家に預けた、その間だったかな」
「半年も、あの人ほったらかしてたんですね。きっともう、その時には気づいてたんだ……あなたが他の誰かと付き合ってるの。じゃなきゃ、この春から札幌になんて来てないですよね?」
異動願いだって書けばすぐ受理されるものでもない。最低でも半年は必要だろう。
「そうか……そうだな。段々思い出したよ。そういえば、あの夏の日も誘ったのは聡二だった――たまには僕にも構ってよって……瑛蒔と連日遊んでたから、瑛蒔に妬いてるんだと思ってたけど、相手は彼女だったんだな」
知ってたんだな、と本田が口元で手のひらを合わせた。今頃思い出して、後悔しているようだ。
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