そうだ課長、俺と結婚してください

藤吉めぐみ

文字の大きさ
40 / 41

いつか僕を抱いてください、安藤さん1

しおりを挟む
*安藤視点の後日談です。


「でさー、聡二さんってば俺の事『可愛い』とか言うの。なんかさー、そう言って笑う聡二さんの方が可愛くて」
 ふふ、と笑いながらカウンターの隣の席に座っている金丸がビールジョッキを傾ける。それを横目で見ながら安藤は、ふーん、と答え、今テーブルに運ばれてきたばかりのラーメンサラダに箸を伸ばした。野菜サラダに中華麺が乗っているそのメニューは金丸と飲む時には必ず頼む定番メニューだ。
 今日は久々に二人で飲みに来ている。あんな事があって金丸は自分とは二人きりにはなりたがらないだろうと覚悟していたのだが、金丸の態度はあまり変わらなかった。だからこそ、友達として、こうして傍に居ようと思える。
「あ、俺も食べたい。ちゃんとゴマドレで頼んだろうな?」
「頼んだよ。俺は中華ドレ派なんだけどな」
「絶対ゴマだって!」
 わかってないな安藤は、と金丸がこちらを見て微笑む。
「……池上課長が言う『可愛い』ってわかるなあ、俺は」
「あ?」
 首を傾げこちらを見る金丸に、さっきの話、と答えながら安藤はラーメンサラダを取り皿に盛って金丸の前に置いた。
「課長に可愛いって言われるって。実際可愛いよ、金丸は」
 確かに怜悧そうな雰囲気と自信に溢れた態度、それに実際によく切れる頭脳はアルファ然としている。特に最近は池上と居る時に他を寄せ付けない空気を纏うようになった。番を守るアルファの本能なのだろう。
 ただ、こうして緊張が解けると素の『金丸匡史』が現れる。明るくて、世間知らずで、人に優しくて、正義感の強い、性別とは関係のない金丸自身であり、安藤が惹かれた金丸だ。そんな金丸はやっぱり可愛いと思うのだ。
「いやでもな……仮にも番のオメガに言われるのは……」
「確かに番って言えばアルファがオメガを守るっていうのが定番だけど、それはあくまで外だけで、二人の時は対等でもいい気がするぞ。特に向こうが年上なんだし」
「まあ……そうか……」
 ビールを飲み切り、おかわりを注文する金丸に安藤は眉根を寄せる。
「お前、今日ペース早くね?」
「んー? いや、なんか嬉しくて」
 にこにこと笑う金丸の目は既に開いていない。これは寝るパターンかも、と思った時には遅かった。
「……やっぱり寝たか」
 箸を握りしめたままカウンターに突っ伏す金丸を見て、安藤は小さくため息を吐いた。
 こちらに寝顔を見せる金丸の頭を撫でてから、安藤は金丸のスマホに手を伸ばした。ロックを解除するのは簡単だ。金丸はいつもその時付き合っている相手の誕生日をパスワードにしている。
「課長の誕生日はっと……」
 女子社員から何度も聞かされたので覚えている。その四桁を入力するとあっさりロック解除になった。電話の着信履歴からすぐに池上の名前を選び、安藤はそのまま発信する。
『……匡史くん?』
 オフの池上の声を聞くのは初めてで、少しいたたまれない思いをしながらも、すみません、と安藤は口を開いた。
「金丸の電話借りてかけてます、安藤です」
『え、あ……安藤くん? ……お疲れ様』
 相手が自分と分かると、池上はすぐにオンの声になる。この人も金丸には素の自分を見せているんだなと思うと少し胸の奥が痛んだが、それは横に置いておくことにして、安藤は話し始めた。
「今、金丸と飲んでたんですが、金丸潰れちゃって……引き取ってもらうこと出来ますか?」
『え? あ、うん、もちろん。どこに居るの? すすきの?』
「いや、今日は札幌駅の方です」
『分かったよ。場所、送ってくれる?』
「はい。すみませんが、お願いします」
 そう言って安藤は、今度はメッセージアプリを開いて、場所の詳細を送る。そのまま履歴を見てやろうかと思ったが虚しくなりそうなのでそのままスマホの画面を消した。
「……何やってんだろ、俺……」
 安藤は金丸と同じようにカウンターに突っ伏して、その寝顔を見つめ、ため息を吐いた。
「ホントだねー。僕なら、このまま拉致してご馳走様コースだよ。お兄さん、そっちのお兄さんのこと、好きなんでしょ?」
 そんな声が隣から聞こえ、安藤は体を起こして金丸とは逆隣を振り返った。
 そこには白いパーカーに細身のパンツを履いた学生風の男が座っていて、こちらを見つめにっこりと微笑んでいた。顔立ちは可愛らしいが、目の鋭さはどこか狡猾に見える。
「……隣の話聞いてるなんて、暇なのか?」
「そうなんだよ、お兄さん。僕、さっきフラれちゃって。性別なんて関係ない、アルファでもおれがお前を守ってやるからって言ってたのに、番ができたからってメッセだけであっさりとね」
「……それは、大変だったな」
 安藤が言うと、隣で男が唇を尖らせる。
「何それー。なんかこう、慰めとかないの?」
 男の言葉に若干面倒臭さを感じた安藤は、金丸が頼んで口をつけずに終わったビールと、取り分けただけだったラーメンサラダの皿を彼の前に滑らせた。
「よかったら、どうぞ」
「……これゴマドレじゃん。僕中華派なんだよなあ……ビールじゃなくてハイボールの方が好きだし。ていうかさ、聞いてよ。アルファが抱かれたいとか思っちゃダメなのかなあ?」
 文句を言いつつも、彼は目の前のビールジョッキに手を伸ばし、それを傾けた。
「別に、そういうのは自由だし……君は可愛いと思うよ、俺は」
 自称アルファの割には体も華奢だし、整った顔立ちはオメガにも負けないだろう。金丸とは違うタイプのアルファだ。
「ホント? ねえ、お兄さん名前は? 僕は、祐真ゆま。二十歳の大学生だよ」
「……安藤」
「……偽名じゃない?」
「さっきまで俺とこいつの会話聞いてたんだろ? だったら俺がそう呼ばれてたのも聞いてるはずだ」
 偽名なんか使っても意味はない、と安藤が言うと、祐真はそれに一瞬驚いた顔をしてから笑顔を見せた。
「かっこいいな、安藤さん」
 祐真がそう言って安藤に手を伸ばした、その時だった。安藤くん、と声が掛かり振り返る。そこにはざっくりとした編み目のカーディガンに綿のパンツを着た池上が立っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

泡にはならない/泡にはさせない

BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――  明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。 「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」  衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。 「運命論者は、間に合ってますんで。」  返ってきたのは、冷たい拒絶……。  これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。  オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。  彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。 ——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

星降る夜に ~これは大人の純愛なのか。臆病者の足踏みか。~

大波小波
BL
 鳴滝 和正(なるたき かずまさ)は、イベント会社に勤めるサラリーマンだ。  彼はある日、打ち合わせ先の空き時間を過ごしたプラネタリウムで、寝入ってしまう。  和正を優しく起こしてくれたのは、そこのナレーターを務める青年・清水 祐也(しみず ゆうや)だった。  祐也を気に入った和正は、頻繁にプラネタリウムに通うようになる。  夕食も共にするほど、親しくなった二人。  しかし祐也は夜のバイトが忙しく、なかなかデートの時間が取れなかった。  それでも彼と過ごした後は、心が晴れる和正だ。  浮かれ気分のまま、彼はボーイズ・バーに立ち寄った。  そしてスタッフメニューの中に、祐也の姿を見つけてしまう。  彼の夜の顔は、風俗店で働く男娼だったのだ……。

あなたの家族にしてください

秋月真鳥
BL
 ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。  情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。  闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。  そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。  サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。  対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。  それなのに、なぜ。  番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。  一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。  ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。  すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。 ※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。 ※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。

アルファな彼とオメガな僕。

スメラギ
BL
  ヒエラルキー最上位である特別なアルファの運命であるオメガとそのアルファのお話。  

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

あなたは僕の運命なのだと、

BL
将来を誓いあっているアルファの煌とオメガの唯。仲睦まじく、二人の未来は強固で揺るぎないと思っていた。 ──あの時までは。 すれ違い(?)オメガバース話。

僕がそばにいる理由

腐男子ミルク
BL
佐藤裕貴はΩとして生まれた21歳の男性。αの夫と結婚し、表向きは穏やかな夫婦生活を送っているが、その実態は不完全なものだった。夫は裕貴を愛していると口にしながらも、家事や家庭の負担はすべて裕貴に押し付け、自分は何もしない。それでいて、裕貴が他の誰かと関わることには異常なほど敏感で束縛が激しい。性的な関係もないまま、裕貴は愛情とは何か、本当に満たされるとはどういうことかを見失いつつあった。 そんな中、裕貴の職場に新人看護師・宮野歩夢が配属される。歩夢は裕貴がΩであることを本能的に察しながらも、その事実を意に介さず、ただ一人の人間として接してくれるαだった。歩夢の純粋な優しさと、裕貴をありのまま受け入れる態度に触れた裕貴は、心の奥底にしまい込んでいた孤独と向き合わざるを得なくなる。歩夢と過ごす時間を重ねるうちに、彼の存在が裕貴にとって特別なものとなっていくのを感じていた。 しかし、裕貴は既婚者であり、夫との関係や社会的な立場に縛られている。愛情、義務、そしてΩとしての本能――複雑に絡み合う感情の中で、裕貴は自分にとって「真実の幸せ」とは何なのか、そしてその幸せを追い求める覚悟があるのかを問い始める。 束縛の中で見失っていた自分を取り戻し、裕貴が選び取る未来とは――。 愛と本能、自由と束縛が交錯するオメガバースの物語。

処理中です...