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「心都のご飯は全部美味しいな、悠隆」
翌日の昼、午前中で講義が終わった心都は、悠隆と共に自宅へと戻った。ちょうどいいので三人分の昼食を作り、食事を始めるとアイゼルは嬉しそうに悠隆へと視線を向けた。
「心都はなんでも作れるしな。一人暮らしの二十歳男子なんてカップ麺とコンビニ弁当で生きてるのが普通なのに」
「何でもは無理だよ、簡単な物だけ」
狭いテーブルに並べたのは豚の生姜焼きとご飯と味噌汁だけだ。そう珍しいものでもないし、少し自炊をする人なら簡単にできるものだ。これでいいと思えばコンビニの弁当よりはるかにコスパがいい。
そんな決して客に出すようなものではないご飯でもアイゼルが不器用に箸を使って白いご飯を頬張っている姿はなんだか子どものようで微笑ましくて嬉しかった。
「心都は謙遜が多いな。これだけ作れるのは誇っていいことだ。城の食事にも負けていない」
「城のご飯って、その国の一流っていう料理人が作るんでしょ? 比べるのもおこがましいよ」
「そんなことない。なあ、悠隆」
心都が大袈裟だなと笑うからか、アイゼルは悠隆に意見を求めた。悠隆が食事の手を止め、何? と聞き返す。
「城のご飯と心都のご飯、同じくらいだって」
アイゼルが悠隆にぎこちない言葉で伝えると、悠隆はそれに頷いた。
「ああ、そうだな。城の食事もバランスも見た目も良くてさすがだなと思ったし、味付けがなんとなく馴染みがあって食べやすかったんだよな。だから、心都のご飯もアイゼルの舌に合うのかもしれない」
心都のご飯は美味いよ、と悠隆が微笑む。悠隆は前からよく心都が作るご飯を食べているので口に合うのだろうなと思っていたが、アイゼルにも合うのだなと思うとほっとする。
「悠隆も城に居たんだ。どんなところだった?」
「どんなって……ランドの城みたいな感じだったよ。中も豪華で、働いてる人も多くて本物の執事とメイドもいたよ」
「まあ、アイゼルみたいな騎士も居るくらいだから、いるだろうな」
今は頬に米粒を付けて口いっぱいにご飯を頬張っているただの残念イケメンだが、騎士という肩書があるのだからちゃんとそういう仕事をしていたのだろう。
「アイゼル、実はエリートなんだよ。護衛騎士って王族の数しかいないんだから」
「そっか……アイゼルは第五王子の護衛だったよな」
きっと王位継承を考えると要人としての順位は下がるのだろうが、王子であることには変わらないのだから、その人に付く騎士は悠隆の言うようにエリートに違いないのだろう。真面目そうだから、色々努力をしたのだと簡単に想像できる。
「たまたま、王子と年齢が近かったから護衛に指名されただけだ。出世する人は二十歳くらいでひとつの隊をまとめている」
「アイゼルっていくつなの?」
「二十一になる。心都は王子と同じだな」
ひとつ年上ということらしい。しっかりした体や物怖じしない態度から、もう少し年上かと思っていたが、同年代と言われたらなんとなくアイゼルを少し近くに感じる。
「でもすごいよね、城で王子の警護とか。そんな人にこんなご飯でいいのかな……」
「昔は、パンと肉だけの食事で、俺たち騎士もその欠片くらいしか与えられてなかったと聞いた。でも十数年前から城の食事は改善されて、今城で出るものは少し心都のご飯に似ている」
「そうなんだ。だったらよかったよ」
「元第二王子の奥方が城の改善をしてくれたらしい。俺も一度だけお会いしたが、とてもきれいで優しい方だ。その方が使用人の食事や待遇を変えて下さって、保健室も作ってくださったから、怪我も怖くないんだ」
すぐに治療してもらえるから、とアイゼルが笑顔を向ける。その言葉を聞いて、心都が首を傾げた。
「保健室?」
心都にはとても馴染みのある言葉だが、まさかそれがアイゼルの口から出るとは思わなくて聞き返してしまう。
「軽い怪我や少しの体調不良なら手当てしてくれる場所だ。切り傷くらいで魔法使いに頼るのは気が引けるが、手当てならメイドや使用人がしてくれるから行きやすい」
確かにこちらで言う保健室も、学校にある一時的な処置をする部屋だ。大学生になってからは使わなくなったが、高校までは世話になった記憶もある。
「目的まで一緒なんだ。びっくりだな」
「奥様……世凪様というんだが、世凪様は『泉に呼ばれた者』だと聞いたので、もしかしたらこの場所と近いところでお生まれになったのかもしれない」
「せな、さん……」
「漢字で『世凪』と書くらしい。おれは会ったことないんだけど、多分日本人だと思う」
心都が混乱し始めたと思ったのだろう。悠隆がテーブルに指先で文字を書きながら言葉を挟む。心都はそれを聞いて、なるほどね、と頷いた。
「これはおれの予想だけど……おれが向こうに呼ばれたのも、そういう関係なのかなって」
悠隆の言葉を信じるのなら、勝手に異世界になんか行くはずもないのだから、異世界側が『呼んだ』ということになるのだろう。何を基準にしてこんな突然人攫いみたいなことをしているのかは分らないが、その『世凪』という人が異世界にとっていい影響を及ぼしているのなら、次も同じ地域から呼ぼうという気持ちは分らないでもない。ただそれは人の感情であって、世界が人を攫う意思までは分りかねる。
「……帰ってこれて良かったな、悠隆」
「ホントそれな。でも……」
悠隆はほっと息を吐いてから、隣に視線を向けた。そこには食事を終え、満足そうに自身の腹を擦るアイゼルがいた。
翌日の昼、午前中で講義が終わった心都は、悠隆と共に自宅へと戻った。ちょうどいいので三人分の昼食を作り、食事を始めるとアイゼルは嬉しそうに悠隆へと視線を向けた。
「心都はなんでも作れるしな。一人暮らしの二十歳男子なんてカップ麺とコンビニ弁当で生きてるのが普通なのに」
「何でもは無理だよ、簡単な物だけ」
狭いテーブルに並べたのは豚の生姜焼きとご飯と味噌汁だけだ。そう珍しいものでもないし、少し自炊をする人なら簡単にできるものだ。これでいいと思えばコンビニの弁当よりはるかにコスパがいい。
そんな決して客に出すようなものではないご飯でもアイゼルが不器用に箸を使って白いご飯を頬張っている姿はなんだか子どものようで微笑ましくて嬉しかった。
「心都は謙遜が多いな。これだけ作れるのは誇っていいことだ。城の食事にも負けていない」
「城のご飯って、その国の一流っていう料理人が作るんでしょ? 比べるのもおこがましいよ」
「そんなことない。なあ、悠隆」
心都が大袈裟だなと笑うからか、アイゼルは悠隆に意見を求めた。悠隆が食事の手を止め、何? と聞き返す。
「城のご飯と心都のご飯、同じくらいだって」
アイゼルが悠隆にぎこちない言葉で伝えると、悠隆はそれに頷いた。
「ああ、そうだな。城の食事もバランスも見た目も良くてさすがだなと思ったし、味付けがなんとなく馴染みがあって食べやすかったんだよな。だから、心都のご飯もアイゼルの舌に合うのかもしれない」
心都のご飯は美味いよ、と悠隆が微笑む。悠隆は前からよく心都が作るご飯を食べているので口に合うのだろうなと思っていたが、アイゼルにも合うのだなと思うとほっとする。
「悠隆も城に居たんだ。どんなところだった?」
「どんなって……ランドの城みたいな感じだったよ。中も豪華で、働いてる人も多くて本物の執事とメイドもいたよ」
「まあ、アイゼルみたいな騎士も居るくらいだから、いるだろうな」
今は頬に米粒を付けて口いっぱいにご飯を頬張っているただの残念イケメンだが、騎士という肩書があるのだからちゃんとそういう仕事をしていたのだろう。
「アイゼル、実はエリートなんだよ。護衛騎士って王族の数しかいないんだから」
「そっか……アイゼルは第五王子の護衛だったよな」
きっと王位継承を考えると要人としての順位は下がるのだろうが、王子であることには変わらないのだから、その人に付く騎士は悠隆の言うようにエリートに違いないのだろう。真面目そうだから、色々努力をしたのだと簡単に想像できる。
「たまたま、王子と年齢が近かったから護衛に指名されただけだ。出世する人は二十歳くらいでひとつの隊をまとめている」
「アイゼルっていくつなの?」
「二十一になる。心都は王子と同じだな」
ひとつ年上ということらしい。しっかりした体や物怖じしない態度から、もう少し年上かと思っていたが、同年代と言われたらなんとなくアイゼルを少し近くに感じる。
「でもすごいよね、城で王子の警護とか。そんな人にこんなご飯でいいのかな……」
「昔は、パンと肉だけの食事で、俺たち騎士もその欠片くらいしか与えられてなかったと聞いた。でも十数年前から城の食事は改善されて、今城で出るものは少し心都のご飯に似ている」
「そうなんだ。だったらよかったよ」
「元第二王子の奥方が城の改善をしてくれたらしい。俺も一度だけお会いしたが、とてもきれいで優しい方だ。その方が使用人の食事や待遇を変えて下さって、保健室も作ってくださったから、怪我も怖くないんだ」
すぐに治療してもらえるから、とアイゼルが笑顔を向ける。その言葉を聞いて、心都が首を傾げた。
「保健室?」
心都にはとても馴染みのある言葉だが、まさかそれがアイゼルの口から出るとは思わなくて聞き返してしまう。
「軽い怪我や少しの体調不良なら手当てしてくれる場所だ。切り傷くらいで魔法使いに頼るのは気が引けるが、手当てならメイドや使用人がしてくれるから行きやすい」
確かにこちらで言う保健室も、学校にある一時的な処置をする部屋だ。大学生になってからは使わなくなったが、高校までは世話になった記憶もある。
「目的まで一緒なんだ。びっくりだな」
「奥様……世凪様というんだが、世凪様は『泉に呼ばれた者』だと聞いたので、もしかしたらこの場所と近いところでお生まれになったのかもしれない」
「せな、さん……」
「漢字で『世凪』と書くらしい。おれは会ったことないんだけど、多分日本人だと思う」
心都が混乱し始めたと思ったのだろう。悠隆がテーブルに指先で文字を書きながら言葉を挟む。心都はそれを聞いて、なるほどね、と頷いた。
「これはおれの予想だけど……おれが向こうに呼ばれたのも、そういう関係なのかなって」
悠隆の言葉を信じるのなら、勝手に異世界になんか行くはずもないのだから、異世界側が『呼んだ』ということになるのだろう。何を基準にしてこんな突然人攫いみたいなことをしているのかは分らないが、その『世凪』という人が異世界にとっていい影響を及ぼしているのなら、次も同じ地域から呼ぼうという気持ちは分らないでもない。ただそれは人の感情であって、世界が人を攫う意思までは分りかねる。
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