親友のお願いを聞いたら異世界から来た騎士様に求婚されました

藤吉めぐみ

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 とりあえずアイゼルが着れそうな服を買ってから急いで帰宅した心都は、部屋の中が暗いことに首を傾げてから玄関ドアを閉めた。
「ただいま……アイゼル……?」
 アイゼルには外に出ないように言っているので、絶対にこの部屋にいるはずだ。なのにどうして明かりがついていないのか、何かあったのか、とドキドキしながら、心都は震える指で壁のスイッチに触れた。
 天井のシーリングライトが白く光る。
 それと同時に部屋の中が見えるようになって、心都は思わず叫びそうになった自身の口を両手で抑え込んだ。
「――! ……アイゼル……い、た、の……?」
 部屋の真ん中には、あぐらをかいて座り、手に銀色に光る剣を持っているアイゼルがいた。
「心都、おかえり。言いつけどおり、どこにも出ていない」
   少し得意気な笑顔を見せるアイゼルに、心都は大きく深呼吸をしてから頷いてアイゼルの傍に座った。
「そ、それは偉いけど……剣は出しちゃだめだよ」
   心都は、自分の姿が映り込むほどに磨かれた銀色の刀身を見てなんだか寒気を覚えた。美術館なんかで日本刀を見た事はあるが、それはやはりガラス越しだから、綺麗だと思うだけで怖いという感覚はなかった。こんなふうに目の前にすると、やはりこれは人を殺せる道具なのだと改めて思う。
「しかし……手入れをしないと、すぐに錆びる。いざという時に戦えない」
   心都の言葉にアイゼルが眉を下げる。
「ここでは剣を出して戦うことはないから、大丈夫だよ」
「だったら、俺は心都をどう守ったらいい?」
「……え?」
「どんなに平和だろうと、国が安定してようと、小競り合いや犯罪はゼロにはならない。事故だって起きる。心都が巻き込まれた時、俺は心都を守る騎士でありたい」
「アイゼル……」
   不覚にもその言葉にきゅんとしてしまった。曇りのない真っ直ぐな瞳が、頬を赤くした心都を映していて、心都はそっとその目から視線を逸らした。
「それは……うれしい、けど、多分剣の出番はないからしまっておいて。あと、普通に暗闇で剣磨いてるの怖いし」
   暗くなったら明かりつけて、と心都が壁のスイッチを指さす。アイゼルは、それに頷いた。
「不用意に触ってはいけないと思って、自然に任せていた。割と夜目はきくから」
「うん、それでも明かりつけて。ほら、僕が帰って来た時、明かりがついてると嬉しいし」
   アイゼルに微笑むと、嬉しいのか、とぽつりと呟いたアイゼルが大きく頷いた。
「心都の嬉しいことをしたい」
「ありがとう。じゃあ、ちゃんとルールを決めようか」
   心都の言葉に、アイゼルが素直に頷いて、剣を鞘に収めた。
「何でも言って欲しい。何でもしたい……あ、心都と風呂入って洗ってあげたい。俺、小さい妹が居たから髪を洗うのも得意だ」
   昨日嬉しかったから、とアイゼルが頬を少し赤くする。その表情で、アイゼルが何を考えているのか分かってしまった心都は、軽くため息をついて口を開いた。
「アイゼルの下心が顔に出てるから遠慮します。僕の裸はそんなに安くないんだよ」
「……バレたか」
 アイゼルが少し眉根を寄せてため息を吐く。心都は冗談半分で言ったのにあたってしまったらしい。こんな整った顔をしていて、騎士という堅い仕事をしているのに、そんな俗なことも考えるのだなと思ったら、少し親近感が湧く。
「今日は無理だけど、今度髪だけ洗ってもらおうかな」
「え、それは……つまり……」
「ラッシュガードと水着を用意しようかなと思ってるよ」
 心都が笑うとアイゼルが少し残念そうに眉を下げた。アイゼルの頭に垂れた犬耳が見えてしまう。ただそれに絆されるつもりはない。いくら顔がいいとはいえ、アイゼルは男で、心都を抱きたいと思っているのだ。そんなことを許せるほど、心都だって寛容ではない。
「……もし、心都が俺を好きになってくれた時は、心都の全部を見せてくれる?」
   アイゼルが真っ直ぐにこちらを見つめる。透き通った目がその真剣さを示しているようで、心都は胸の高鳴りを感じて思わずアイゼルを見つめ返して、頷いてしまった。
「ホント?   心都!」
   アイゼルの表情がパッと華やいで、心都は自分がとんでもない返事をしたことに初めて気づいた。
「あ、いや!   もし、だからな!」
「分かってる。無理強いは趣味じゃない」
   アイゼルが優しく目を細める。
 まだ出会って二日。けれどなんだかこの人の言葉は信じられるような気がした。
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