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しおりを挟む「アイゼル、困らせてない?」
「まあ、今のところ」
大学の敷地内にあるベンチに腰掛けて今朝作ったサンドイッチを広げながら心都が悠隆の問いに答える。風呂での一件もあったが、あれはお互いに不可抗力だったのでカウントしないことにした。
「アイゼルさ、ほんとに心都のこと、好きみたいなんだよね」
「それさ……どうして僕のこと知ってるの?」
「おれ、スマホ持ったまま向こうに行ったんだよね。それでやっぱり使えないよなあ、なんてカメラロール見てたら、それをたまたまアイゼルが見てて。それで、『今の人だれ?』って興奮気味に聞かれてさ。おれも冗談半分で『なになに、好み?』って返したら、素敵な人だってぼんやりしちゃって……それから心都の写真たくさん見せて、心都の話もして。そのたびにアイゼルは、目キラキラさせてて……多分そのくらい本気なんだと思う」
サンドイッチをかじりながら悠隆の話を聞いていた心都が怪訝な顔をする。
「それ、僕のハードル上がってない? がっかりしてなきゃいいけど」
写真と悠隆の話だけで心都の人物像が出来上がっているのなら少し怖い。実際会って、今頃思っていたほどではないなと思っているかもしれない。
別にそれで好きな気持ちがなくなったというならそれでもいいのだが、なんとなく人として勝手にがっかりされるのは理不尽な気がする。
「それはないんじゃないかなあ? 昨日も一番に心都の姿を見つけたのはアイゼルだったよ。どうしよう、本物だって目キラキラさせてたし、一晩経って出ていくとも言わなかったんだろ?」
「まあ、それは言われてないし、今朝も特に変わった様子は……な、かった、かな」
自分で今朝というワードを話して、頭を撫でられたことを思い出す。そのふわりとした笑顔と温かい手に、ちょっとドキドキしたことを思い出してしまって、心都が悠隆から視線を逸らした。
「なら、いいんじゃない? もう少しお世話頼むよ」
「まあ、それは仕方ないから任されるけど……あ、変わったことといえば、アイゼル、昨日壁際で座ったまま寝てたんだけど、あれ大丈夫なの?」
昨日の風呂の後、とりあえずベッド使って寝て、と心都が告げると、アイゼルは、それは無理だと言って、毛布にくるまって寝てしまったのだ。身体中痛かったのではと思ったが、今朝特にそんな様子もなかったと思う。
「アイゼルの城の仕事って第五王子の警護だったんだけど、まあ平和な国だからほぼ王子の御用聞きみたいな感じでさ。でも、騎士だから毎日訓練してたし、その中に野営訓練とかもあったから、そういうので少しは慣れてるのかもしれないね」
騎士というくらいだから、戦う事が仕事なのだろう。いくら平和な国でも戦う力があると示しておく必要があるのは、どんな世界でも変わらないらしい。
「そうなんだ……すごいな、アイゼル。でも今日はちゃんと横になって貰いたい」
さすがにあんなふうに寝られるのは落ち着かない、と心都が笑うと悠隆が微笑む。
「すごいって言葉、アイゼルに直接言ってあげてよ。きっと喜ぶよ」
「向こうでは当然のことでも、こっちではすごいことって結構あるよな。正直、城とか王子とか言われても全然想像つかないけど、向こうはそれがあって当たり前なんだろ?」
「おれもそれは思った。帰ってこれたからいいけど、ずっとここで暮らせって言われたら無理かもなあって思ってたよ。観光と移住は違う、みたいな感じ」
なんだか長い旅行から帰ってきました、みたいな明るい感じでいたけれど、やっぱり悠隆だって不安ではあったのだろう。悠隆のことだから、このまま城暮らしを満喫しようと思ってた、なんて言うかと思っていたのだ。
「そっか……戻ってきてくれてありがとう、悠隆」
心都が見慣れた悠隆の横顔を見ながら微笑むと、悠隆がこちらを見て頷いた。
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