【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ

文字の大きさ
40 / 45

【楽視点】きみを好きだと気づくまで2

しおりを挟む

 壱月は楽の傍にはいないタイプの人間だった。
 真面目で地味で暗いのかと思いきや、そんなことはなく、自分の意見をはっきりと言うし、お人好しなところはそのままだが、優しく明るい。
 近づいてみて初めて知った。知るたびに、楽の心の中に新しい色が落とされたような、そんな気持ちになってワクワクした。
「壱月ー、ここ分かんない」
「え? どこ?」
 放課後の第二美術室。以前は女の子と二人で使っていたそこを今は壱月と二人で使っている。しかも、無断ではなくちゃんと担任の美術教師に断って、だ。
『宮村、お前受験する気になってくれたのか』と担任が少し涙ぐんだのはなんだか少し可笑しかったが、壱月と二人でする受験勉強は楽にとって新鮮でたのしかった。
「先にこっちの計算してから、この公式使えば解けると思うけど……やってみて」
「……世の中から数学なんか滅んでしまえばいいのに」
 何度計算しても答えにたどり着かないことにため息を吐いた楽に、壱月が笑いかける。
「そう言わずに。あ、少し休憩しようか」
 壱月は思い出したように傍に置いてあったカバンを漁った。出てきたのは魔法瓶だ。
「朝淹れたやつだから少し温いかもしれないけど」
 そう言って壱月は魔法瓶の蓋にコーヒーを注いだ。それをそのまま楽に差し出す。
「ありがと、壱月!」
 以前、コーヒーが好きだと伝えたことを壱月は覚えていてくれた。それだけでも嬉しいのに、自分を思ってこうして持参してくれたことが嬉しかった。
 もちろん、今までたくさんの人からモノを貰ったり何かしてもらったりしてきた。けれど、そこに一緒に付いてくるのは見返りの要求だ。ここまでしたのだから付き合って欲しいとか、自分だけにして欲しいとか、好きになって欲しいとか――その気持ちが分からなくはないが、やっぱり切なかった。
 だからこうして掛け値なくさしだされる気持ちが本当に嬉しかったのだ。壱月は、もちろん楽に合格してもらって家賃半分払ってもらうためだよ、なんて笑っていたが、その言葉すら壱月の為だけのものではない。ルームシェアを持ちかけたのは楽の方だ。家賃を半分出して貰うのはこちらの方なのだ。
「このくらいしか、僕には出来ないけど……頑張って」
 微笑む壱月の顔を見ていると、楽の胸の奥はふんわりと温かくなる。他の人には感じないこの気持ちは何か分からないけれど、ただ心地いいことは分かる。体を繋ぐ時に感じるそれとは違う、穏やかででも強い光のようなもの。楽はそれを感じている時がたまらなく幸せだと感じていた。
 だからこそ、壱月の傍に居たい。
「うん。壱月と一緒に暮すために頑張るよ」
 楽が言うと、壱月が急に頬を赤らめて俯いた。楽はそれに首を傾げる。
「壱月?」
「う、ううん。何でもない。じゃあもう少し勉強に時間割けるといいね」
 放課後の壱月との勉強会は週に三日だった。他の日は、付き合って、と言われた女の子たちに予定を入れられてしまっている。
「時間かあ……うん、調整してみる。そうしたら、土日どっちか勉強みてくれる?」
 たくさんの子と付き合っているから時間がないのだ。手っ取り早く、いつも土曜日の予定を埋めて来る子と別れたらそのまま壱月との時間に出来るだろう。
 そう考えて楽が言うと、初めは、土日? と驚いていた壱月だったが、そうだね、と頷いた。
「図書館とかファストフードとか場所はあるしね……いいよ」
「壱月ん家は?」
「……うちは……僕の心臓がもたないから、無理……」
「心臓?」
「ううん、なんでもない。とにかく、時間作れるなら、僕は付き合うよ」
 壱月が、頑張って、と微笑む。楽はそれに頷いた。
 初めはあの家から逃げ出したくて、出された条件をクリアするために都合のいい相手と思って壱月に声を掛けた。けれどいつの間にか壱月と一緒に居たいと思うようになって、卒業で関係が終わるのが嫌でルームシェアを持ちかけた。一人で自由に暮らしたかったはずなのに、気づいたら誘っていたのだ。そして、いいよ、と言われ、とても嬉しかった。
 今まで楽には友達らしい友達は居なかったから、壱月は言ってみれば初めての友達だ。だからこんなに大事なのかもしれない。だからこんなに離れたくないのかもしれない。
 きっとそう……これが友情ってやつなんだろう――
 楽は壱月のキレイな横顔を見つめながらそんなことを思っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

死神に狙われた少年は悪魔に甘やかされる

ユーリ
BL
魔法省に悪魔が降り立ったーー世話係に任命された花音は憂鬱だった。だって悪魔が胡散臭い。なのになぜか死神に狙われているからと一緒に住むことになり…しかも悪魔に甘やかされる!? 「お前みたいなドジでバカでかわいいやつが好きなんだよ」スパダリ悪魔×死神に狙われるドジっ子「なんか恋人みたい…」ーー死神に狙われた少年は悪魔に甘やかされる??

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

きっと世界は美しい

木原あざみ
BL
人気者美形×根暗。自分に自信のないトラウマ持ちがはじめての恋に四苦八苦する話です。 ** 本当に幼いころ、世界は優しく正しいのだと信じていた。けれど、それはただの幻想だ。世界は不平等で、こんなにも息苦しい。 それなのに、世界の中心で笑っているような男に恋をしてしまった……というような話です。 大学生同士。リア充美形と根暗くんがアパートのお隣さんになったことで始まる恋の話。少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。

【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

ふた想い

悠木全(#zen)
BL
金沢冬真は親友の相原叶芽に思いを寄せている。 だが叶芽は合コンのセッティングばかりして、自分は絶対に参加しなかった。 叶芽が合コンに来ない理由は「酒」に関係しているようで。 誘っても絶対に呑まない叶芽を不思議に思っていた冬真だが。ある日、強引な先輩に誘われた飲み会で、叶芽のちょっとした秘密を知ってしまう。 *基本は叶芽を中心に話が展開されますが、冬真視点から始まります。 (表紙絵はフリーソフトを使っています。タイトルや作品は自作です)

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。 「優成、お前明樹のこと好きだろ」 高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。 メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?

処理中です...