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番外編
番外編03.救いようのない者たち1
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「ほら新入り、何やってんだい!さっさと床を磨くんだ。それがあんたの仕事だろう?」
「冗談じゃないわ!あたしはねぇ、大理石の床を、ダイヤモンドの靴で歩くのが似合う女なのよぉ?!」
誰が掃除なんかするもんですか、と、フローラは看守の女を睨みつけるが、大柄な看守は全く動じない。
「知ったこっちゃないね」
「なんですってぇ?隣の国の貴族の男も、大商人の跡取りも、あたしには最高級品しか似合わない、って」
「あたしゃ女だ。アホな男どもがどれだけあんたに鼻の下を伸ばそうが、関係ないね。ほら、床磨きのあとは水汲み、その後は洗濯だ。終わるまで飯なしだよ!」
「……っ!」
フローラは今、王都近くの監獄に投獄されている。
金銭を得るということが、どれほどの苦労を伴うか身を以て知れ、と労役を命じられているのだが、反省するそぶりなど微塵もない。
労働など、フローラにとっては卑しいものでしかないのだ。
「こうなったもの全部、あの女……アイリスのせいよ!」
あの女は王宮で皆に傅かれ、贅を尽くした暮らしをしているというのに、どうして自分は、こんな薄汚い場所で惨めに働かされているのだろう。
監獄の冷たい床を磨きながら、アイリスへの憎しみだけが募る。
(もう、無理!こんなとこにいてたまるもんですかぁ!)
我慢の限界が訪れるのは早かった。
ある日、看守の交代の時刻を見計らって独房から抜け出すと、洗濯物の荷台に潜り込んで、見事脱走に成功したのだった。
「見てなさい、アイリス!あたしはこんなとこじゃ終わらないんだからぁ!!」
それから数ヶ月後。
場末の酒場や安宿で出会った男たちのもとを点々としながら、フローラはようやくとある地方の街へとたどり着いた。
(ふふ、やっぱり間違いない。ここだと思ったわぁ)
一軒の古ぼけた小さな館の前で、にやりと笑みを浮かべる。玄関の戸を軽く押すと難なく開いたので、呼び掛けもせずに、館の中へと入った。
昼間だというのにカーテンは閉め切られ、床にうっすら埃が積もり、空気は重く澱んでいる。一見すると空き家のようだが、奥の部屋から、男の唸るような声が聞こえてきた。
「うう……なんで俺が……」
(いたわぁ!)
フローラは、目的の部屋の前まで進むと、急に涙声を出し、崩れ落ちそうになりながらドアを開ける。
「ああ、ロイ!会いたかったわ!」
薄暗く湿った部屋でクダを巻いていたのは、やはりというか、ロイだった。
「ふ、フローラ?!?!お、お前、何しにきたんだ!!」
「何しにって、あなたに会いに来たのよぉ」
「ふざけんなっ!何を今さら。妊娠が嘘だったって知って、お袋はショックで寝込んで、そのまま死んじまったんだぞ!」
「本当にごめんなさい……。あたし、焦ってたの。小さいころから、あなたのお嫁さんになるって信じてたのに、他の人と結婚しちゃうんだものぉ」
「そ、それは……」
絶対に赦さないと決めていたはずなのに、すでにフローラのペースに巻き込まれている。
「ああ、ロイ!」
目に涙をいっぱいに溜め、大手を広げて、フローラはロイを抱きしめた。
「だ、騙されないぞ。お前は俺を捨てたんだ」
そう言いながら、久々の人の温もりに、不覚にも安らぎを覚えてしまっている。
「本当にバカだったわ。あたし、さびしかったのぉ。あなたはぜんぜん離婚してくれないし」
「うっ」
「あたしが好きなのはあなただけよぉ」
「……フローラ…」
「なあに?」
「もう、俺を捨てないか……?」
かかった、とばかりに、一瞬口元が緩むフローラ。
「捨てないわ!あたしはあなたのものよぉ」
(ふふっ、チョロいわぁ。単純なのがロイのいいところよねぇ)
こうしてフローラは、まんまと当面の住処を手に入れたわけだが、こんな古ぼけた館で大人しくしているつもりはさらさらないのだった。
「冗談じゃないわ!あたしはねぇ、大理石の床を、ダイヤモンドの靴で歩くのが似合う女なのよぉ?!」
誰が掃除なんかするもんですか、と、フローラは看守の女を睨みつけるが、大柄な看守は全く動じない。
「知ったこっちゃないね」
「なんですってぇ?隣の国の貴族の男も、大商人の跡取りも、あたしには最高級品しか似合わない、って」
「あたしゃ女だ。アホな男どもがどれだけあんたに鼻の下を伸ばそうが、関係ないね。ほら、床磨きのあとは水汲み、その後は洗濯だ。終わるまで飯なしだよ!」
「……っ!」
フローラは今、王都近くの監獄に投獄されている。
金銭を得るということが、どれほどの苦労を伴うか身を以て知れ、と労役を命じられているのだが、反省するそぶりなど微塵もない。
労働など、フローラにとっては卑しいものでしかないのだ。
「こうなったもの全部、あの女……アイリスのせいよ!」
あの女は王宮で皆に傅かれ、贅を尽くした暮らしをしているというのに、どうして自分は、こんな薄汚い場所で惨めに働かされているのだろう。
監獄の冷たい床を磨きながら、アイリスへの憎しみだけが募る。
(もう、無理!こんなとこにいてたまるもんですかぁ!)
我慢の限界が訪れるのは早かった。
ある日、看守の交代の時刻を見計らって独房から抜け出すと、洗濯物の荷台に潜り込んで、見事脱走に成功したのだった。
「見てなさい、アイリス!あたしはこんなとこじゃ終わらないんだからぁ!!」
それから数ヶ月後。
場末の酒場や安宿で出会った男たちのもとを点々としながら、フローラはようやくとある地方の街へとたどり着いた。
(ふふ、やっぱり間違いない。ここだと思ったわぁ)
一軒の古ぼけた小さな館の前で、にやりと笑みを浮かべる。玄関の戸を軽く押すと難なく開いたので、呼び掛けもせずに、館の中へと入った。
昼間だというのにカーテンは閉め切られ、床にうっすら埃が積もり、空気は重く澱んでいる。一見すると空き家のようだが、奥の部屋から、男の唸るような声が聞こえてきた。
「うう……なんで俺が……」
(いたわぁ!)
フローラは、目的の部屋の前まで進むと、急に涙声を出し、崩れ落ちそうになりながらドアを開ける。
「ああ、ロイ!会いたかったわ!」
薄暗く湿った部屋でクダを巻いていたのは、やはりというか、ロイだった。
「ふ、フローラ?!?!お、お前、何しにきたんだ!!」
「何しにって、あなたに会いに来たのよぉ」
「ふざけんなっ!何を今さら。妊娠が嘘だったって知って、お袋はショックで寝込んで、そのまま死んじまったんだぞ!」
「本当にごめんなさい……。あたし、焦ってたの。小さいころから、あなたのお嫁さんになるって信じてたのに、他の人と結婚しちゃうんだものぉ」
「そ、それは……」
絶対に赦さないと決めていたはずなのに、すでにフローラのペースに巻き込まれている。
「ああ、ロイ!」
目に涙をいっぱいに溜め、大手を広げて、フローラはロイを抱きしめた。
「だ、騙されないぞ。お前は俺を捨てたんだ」
そう言いながら、久々の人の温もりに、不覚にも安らぎを覚えてしまっている。
「本当にバカだったわ。あたし、さびしかったのぉ。あなたはぜんぜん離婚してくれないし」
「うっ」
「あたしが好きなのはあなただけよぉ」
「……フローラ…」
「なあに?」
「もう、俺を捨てないか……?」
かかった、とばかりに、一瞬口元が緩むフローラ。
「捨てないわ!あたしはあなたのものよぉ」
(ふふっ、チョロいわぁ。単純なのがロイのいいところよねぇ)
こうしてフローラは、まんまと当面の住処を手に入れたわけだが、こんな古ぼけた館で大人しくしているつもりはさらさらないのだった。
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