ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

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第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦

第230話 最終戦前日・その2

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「ぐおおおおおおお!!」



 ジャバウォックが火を吐き、辺り一面は火の海。

 それを脚に纏わせ、ルシュドは弧を描いて周囲を走る。



「やるなあ!! でも!!」
「ぐっ!!」
「私と主君には、敵わないな!!」



 クラリアが飛び上がり、斧を二人に振りかぶってくる。

 クラリスの魔法によって、肉体が地面から僅かに浮いており、より柔軟な移動を可能にしていた。



「ヒャッハー隙ありー!!」
「ぐおっ……!!」




 雷を四肢に纏わせたイザークが、一発をぶち込む。

 ルシュドはそれを避けたが、体勢を整える間もなく、連打が飛んでくる。



「オラオラオラァ!! やるぜやるぜやるぜー!!」
「ははっ、隙がねえなあ、相棒!?」
「うん、そうだ。でも――」



「おれ、負けない!!」




 足を地面にしっかりとつけて踏み込み、


 大きく力んで、魔力を放出するルシュド。




「ぎゃーっ!?」
「ぬぐぅ……!!」


 吹き出した魔力は赤い風となって拡散し、熱さと衝撃で二人を遠ざけていく。


「ここ、炎。おれ、火属性。だから、おれ、強い!!」
「それは――」




 素早く走って、間合いを詰めてくるのはアーサー。




「どうかなっ!?」
「なっ――!?」



 右から剣を振り上げ、抉るように地面に剣戟を叩き付ける。



「っ、はぁ、はぁ……!!」
「カヴァス、出てもいいぞ」
「ワン!」



 結果アーサーとカヴァスが立っている周囲だけは、


 火が消えて立てるようになっていた。





「悪いが、少しぐらいなら属性の影響を受けないからな」
「ワンワン!」

「ぐぅ……やるな! おまえ、すごい!」
「オレも凄いと思うよ、ルシュド。戦闘始まってからすぐに、自分のペースに持っていくなんて」
「おりゃあああああ!!!」


 二人の間に、イザークが拳で割って入る。


「ぜぇ……オマエらぁ!! ずりーぞ!! ボクも混ぜろぉ!!」
「混ざりたいなら実力で混ざりな!!」
「ちょっと見ない間に煽りスキル向上しやがってこんにゃろー!!」
「クラリアインパクトォー!!」


 さらにクラリアが斧を横に振ってきながら参戦。大混戦の始まりだ。


「ちょっ……ダサッ!! ぶっちゃけちゃうとダサッ!!」
「自分の技には名前を付けるといいってシャゼム先輩が言ってたんだぜー!!」
「それ、変なこと吹き込まれてねー!?」





 そんなこんなで、互いに一歩も引かぬ戦いを繰り広げること数分。





「……どうしましょう」
「何だよ」
「突然のクラリアインパクトがツボに入って腹が痛い」
「意味わかんねえ……」



 ハンスはサラを置いておき、男性に目を向けた。

 彼もまた興味深く四人の訓練を見ている。



「……おい、おっさん。てめえはどう思ってんだよ」
「……」


 ハンスが声をかけたのがきっかけかどうかはわからないが、彼は数歩だけ四人に近付き――


「――夜神ウラドよ、此処に紫炎の権化を――」






「ん?」
「おっ?」
「何だぁ?」
「何?」



 四人は武器を振るう手を止め、それぞれの視線が交差する先を見つめる。



 そこに生まれていたのは、四足歩行の生き物っぽい姿を取った、紫に黒が少々混じった霧。



「……何だこれ?」
「出た、いきなり。おれ、見た」
「アタシも見たぜー!」
「紫だと闇属性か。だが、黒が混じっているのはどういうことだ」
「うーん……そもそも何で急に」



「……っ!?」



 霧はイザークに向かって突進し、生成した牙を剥く。



 その動きは早かったが、それでも見切れないことはなかった為、避けることはできた。



「よし!! こいつは悪い奴だ!! 襲ってきたからな!!」
「同意だクラリア。幸いにも動きは鈍いようだし、片付けてしまおう」




 クラリアが武器を構えた瞬間、霧はみるみるうちに増えていく。その数約十倍。




「じゃあこいつら倒せた数競おうぜー!!」
「誰が計測するんだ!? あの二人は遠目で見てわかるのか!?」
「自己申告に決まってんだろバーカ!! はいボク五体倒したー!!」
「くっ……!!」


 剣で薙ぎ払い、とりあえず襲ってきた一体を倒すアーサー。

「おれ、負けない!!」
「アタシも勝ってやるぜー!! うおおおおお!!」
「やるしかないな……!!」







 男性は四人が霧の怪物を消し去っていく姿を、大層満足げに見つめている。



「……あ? ちょっと目を離した隙に、何があったのよ向こう」
「……耳貸せ」
「何、息でも吹きかけるのかしら。朝っぱらからいやらしいわね」
「違えよ馬鹿」

「なっ……荒々しい真似するのね」
「てめえが悪いんだよくそが」



 ハンスはサラの腕を掴み、強引に引き寄せた後続ける。



「……あの霧はおっさんが呼び寄せた」
「はぁ?」
「口がもごもご動いてんのが見えた。多分呪文だろ。その直後に霧がわらわら出てきたんだよ」
「……何の為に」

「そりゃあ、あいつらと戦わせるためだろ。何か死にかけるぐらいの強さじゃないっぽいけど。多分それぐらいに抑えてるんだろうね」
「できるのそんなこと」
「多分このおっさんならできる。さっき魔力が浮いてるって言ったろ」
「ああ……ワタシも感じてるわ。あの人、闇属性よね」
「だけど普通の闇属性じゃないんだよ。何というか、つるつるで濁りがない」
「……」



 サラの視線が怪訝なものに変わる。考え込むように顎に手を置く。



「闇属性に限らず、人間から感じる魔力って、大体混じり気があるんだよ。それがない時って、どういう条件だかわかる?」
「……人間じゃない異種族?」
「正解。エルフだったら風属性である時に、純粋な魔力を感じられる。おっさんから感じたのもそれに近いんだよ」
「だとするとあの人は……」


 サラが疑問を述べようとしたその時。


「あっ……おっさん、四人に近付いていくぞ!?」
「何かあったのかしら。行きましょう」






 カツン、カツンと、演習区には不釣り合いな革靴の音が響く。



「……結構な腕前だね、君達」



 男性は足を止めると、そう褒めて手を叩く。





「ん?」
「あ?」
「……え?」
「誰ですか」



 当の四人はというと、急に全て消滅した霧と、突然やってきた高貴そうな男性という二つの事象に、困惑を示している。



「君達の訓練を見ていた者だ。それを見て素晴らしいものを感じてね、少々悪戯させてもらったよ」
「いたずら?」
「……あの霧ですか」
「ええーっ、マジかよ!? あんなたくさんの霧作り出したのかよ!? すげーなおっさん!!」

「ふふっ……訓練にはなったかな?」
「ああ! これまでの訓練と比べて違う動きしてたからな!」
「適度に攻撃性があったのも個人的には評価したい。お陰である程度の緊張感が生まれた」
「それは何よりだ」



 すると男性は翻して、演習区の入り口に向かって歩を進める。



「あっ、おっさん行っちまうのか? もっと訓練に付き合ってくれよ!」
「私も忙しくてね……これで失礼させてもらうよ」
「それならせめて、名前だけでも」
「名乗る程の身分ではないんだ。では……いい物を見せてくれてありがとう」



 また革靴を鳴らして、男性はその場を後にする。途中でサラとハンスにすれ違い、軽く会釈をするのが見えた。


 その二人もやがて合流し――



「お疲れ様。あの人に何もされてないわよね?」
「寧ろいい汗かいたぜー! 感謝してるぐらいだぜー!」
「ルシュド、本当に何もされてないよね?」
「うん。おれ、大丈夫」
「よかった!」

「でも……」
「え? な、何だよ? 怪我でもしたのか? なあ、何か言ってくれよ!!」
「う……」



 ルシュドが苦しそうに腹を抱えた後――


 それは大きな音を立てた。



「……は?」
「何だルシュド! オマエも飯食ってないのか!」
「うう……」
「そりゃあ飯ほっぽりだして訓練来たからな!」


「じゃあ……どうする? 朝練終わりにして、朝食にするかしら?」
「アタシも腹減ったからそうしたいぜー!」
「折角だからこの六人で飯食おうぜ! ついでに暇そうな奴がいたら誘おう!」


「それなら天幕に突撃するのが早いわね、この時間帯だし。問題は誰にするかだけど」
「それならとっておきの人物がいるねえ? 突撃というシチュに滅法弱そうな、頭の固い眼鏡!」
「よし、一先ず片付けはしてしまうか……」
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