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第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦
第231話 最終戦前日・その3
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<午前七時半 男子天幕区>
「……」
今日も今日とで、朝起きて顔を洗うヴィクトール。
いつもはすぐに顔を拭くのだが――
「……何だ」
眼鏡をかけていない主君の姿を取ったナイトメア・シャドウは、嬉しそうに彼を見つめる。
「……俺がこの所、生を実感していると」
忠騎士は小刻みに頷く。
「……貴様にはそう見えるのか」
主君は遠くを見つめて目を閉じる。
「……!」
目を閉じていたかと思うと、突然シャドウはかっと目を見開き――
ヴィクトールの服の裾をつまんで、一点を指差す。
「今度は何だ――っ!?」
先程まで誰もいなかったその場所に、男性が一人立っていた。
縮れた黒髪の、温厚そうな人物である。
「……久しいな、ヴィクトール」
「父上……」
戸惑う息子ヴィクトールをよそに、父――ヴィルヘルム・ブラン・フェルグスは近寄ってくる。
「いらしてくださったのですね……」
「息子達が戦う折角の機会だ。ミュゼアやアーノルドに無理を言って、休みを貰ったんだ。もっともあの二人も一緒に来たがな」
「そうでありましたか。私……我々のために、ありがとうございます」
「……」
言い直した姿に穏やかに微笑むヴィルヘルム。
一方のヴィクトールは、ここまでの会話のどこに微笑む要素があったのか、見当もついていない。
「ウィルバートの方にはご挨拶されたのですか?」
「いや、あいつにはこれから行く所だ」
「そうでありましたか。きっと喜ぶことでしょう」
「そうだな……何だかんだ言って、あいつは私やお前のことが好きだからな」
「……」
弱虫毛虫の、臆病で軟弱で、腑抜けで意気地なしのニンゲン――
いつか弟が言い捨てた言葉が想起される。
「父上……」
自分の失態は、恐らく耳に入っているだろう。
失望しているに違いないだろう――
「その……」
「私はもう行くよ。明日の試合、期待しているからな」
「……わかりました。ご挨拶に来ていただき、ありがとうございます」
元来た道を進み、手水場を後にするヴィルヘルム。その背中に、ヴィクトールは延々と礼をしていた。
もうこの会話は終わりなのだと、彼が感じた瞬間。
「ああ、そうだ――」
「お前も、色んなことをしてしまったみたいだがな」
「それを受け入れ認めてくれる、良き友人がいる。素晴らしいことではないか」
「――やはりお前は希望だ。グレイスウィルに送り出して、正解だったよ」
(……え?)
頭を上げてその言葉の意味を訊いた所で、
返事をしてくれる相手はどこにもいなかった。
「フィッシュアンドチップス! フィッシュアンドチップス! やっぱり朝はこれに限るぜ!」
「味が薄いからボク好きじゃないんだよね!」
「高血圧で死ぬぞ」
「何それひっど!!」
「すこーんすこーん、すここここーん」
「……ルシュド?」
「ジャムをかけたらすここここーん……どうした?」
「いや……何でもねえ……何でもねえよもう……」
「ハンス、やろう。すこーんすこーん」
「いい!! やんない!! 飲み物準備する!!」
「わかった。よろしく」
「あ、ああ……」
朝練帰りの一同は、現在焚き火に様々な食材を火にかけ、てきぱきと朝食を作っている。
「刻んだチーズもかけてあげましょ」
「んほー美味いやつ!!」
「チーズは最強食材。これ常識よ」
「山羊のチーズが最高に美味いんだ! アタシの好物だぜ!」
「ワタシは癖があって好きじゃないのよね。その辺の感覚は、獣人だと違うのだろうけど」
「おいハンス、オレのはセイロンだセイロン。オレはアールグレイは好きじゃないんだ」
「オマエ紅茶はホント拘るよなあ」
「あ~間違ってきみのセイロンにレモン汁入れちゃった~」
しゃきん
「残念だハンス、お前とは良い関係を築けていると思っていたのに」
「冗談だよ!! だから構え取るな!!」
「皆ー今日のパイはキャラメルアップルパイよー」
「おれ、林檎パイ、大好き!」
「ぜぇぜぇ……ぼく見たぞ、この女スターゲイジーに手ぇ伸ばしかけたの……」
「殺す気か!!」
「あのねえ、アナタ達散々スターゲイジースターゲイジーって馬鹿にしてるけどねぇ、これ魚料理なのよ? 栄養満点なのよ? まあワタシは食わないけど」
「やっぱり殺す気じゃねーか!!」
チーズがかかったマフィン、ブルーベリージャムのスコーン、フィッシュアンドチップス、キャラメルアップルパイ、その他諸々が好みの飲料。
それなりに豪華な朝食が出来上がった所に――
この天幕の本来の住人が戻ってきた。
「……」
「……あら、いい所に来たじゃない?」
「ヴィクトールおはようさん!! ボクらが来たぜ!!」
「……何を、しているんだ?」
「見りゃわかるだろ、朝食作ってたんだよ」
「いや、だがここは……」
「アナタに朝食振る舞いたいって言ったら、他の生徒は空気を読んでカーセラムの方行ったわよ」
「なっ……」
「紅茶とコーヒーとミルクどれがいい?」
「……コーヒー」
「あいよー。まあいいから座れや」
「アタシの隣が空いているぜー!!」
「……」
最初こそ戸惑う様子を見せたが、腹が減っているので自然と選択肢が減る。
ヴィクトールは言われるがままにクラリアの隣に座った。
「はいオマエの分のマフィンな!」
「ハギスのマフィンねそれは」
「えっ」
「冗談よ。ドッキリで仕込んでやろうと思ったけど、やめたわ。ふっつーのエッグマフィンよ」
「なあ今後こいつに食材調達頼むのやめようぜ?」
「……」
その後、フィッシュアンドチップスとスコーン、それからパイが配られ、
「んじゃ挨拶しようぜ!」
「マギアステル神とアングリーク神になんたらかんたらー」
「いただきまーす!!」
――お前も、色んなことをしてしまったみたいだがな
「うっひょおおおお!! うめえ!!」
「はぐはぐ……」
「ルシュド、こぼれてるこぼれてる」
「うああ……おれ、だめだ……」
「急いで食べるからだよ。ほらハンカチ」
「ありがと、ハンス」
「サラ!! お代わり!!」
「横ですーぐこれだもの。クラリア、アナタもこぼさないようにして食べなさい」
――それを受け入れ、認めてくれる、良き友人がいる。素晴らしいことではないか
「ふぅ……やはりセイロンはいい。透き通る味わいで頭がすっきりする」
「とか言いながらオマエ三杯目じゃねーか。水のように飲みやがるな」
「深みがあって赤みがついているだけの水だが」
「今ひでー持論を見た」
「そういうお前は何なんだ、朝からレモネードって」
「しゅわしゅわが頭をすっきりさせるんだよ」
「ふん、ならば紅茶と何ら変わりないな。実質紅茶だな」
「助けてルシュド……コイツ何言ってるかわかんない……」
「ほうした、いざーく?」
「ああ、あんなにも幸せそうにパイを食べちゃって……!」
(……希望)
(グレイスウィルに送り出して正解……)
(……)
「ヴィクトール? 飯冷めっぞ?」
「……ああ、悪いな」
かれこれ食べること二十分後。
「うぃ~食った食った~」
「何だか眠くなっちまったぜ……」
「今日はまだまだこれからでしょ。訓練追い込むんじゃなかったの」
「そうだぜそうだぜ! アタシは起きるぜ! しゃっきーん!」
「でも三十分は休もうぜー。食後すぐに動くと腹痛くなっからよー」
「……」
ヴィクトールは食後のコーヒーを飲んだ後六人を見回す。疑問を提示するには良い頃間だ。
「……それで、何故俺の天幕までやってきたんだ」
「アナタと話がしたいと思ったから」
「話とは?」
「ワタシは特にないんだけどね。でもコイツらなら何かあるんじゃないかしら」
「……そうなのか」
「んーまあそうなんだけど……」
どうやら皆揃って、細かい内容までは考えてはなかったらしい。
「……そうだ。明日の作戦内容、確認するってのはどうよ」
「それに何の意味がある?」
「後でにしとくと忘れそうだから」
「それにその内容を踏まえてこの後訓練が行える」
「おれ、忘れる、多分。だから、知りたい」
「……」
「……待っていろ」
ヴィクトールは自分の天幕に入って数分後、一枚の紙を持って戻ってきた。
「元々ケルヴィンは、魔術以外にも様々な学術的研究によって発展した国だ。哲学や数学、物理学や化学といった具合にな。単純な研究の成果なら……グレイスウィルよりも先を行っていると、俺はそう思う」
「そんな国の魔法学園だから、当然生徒も頭がいい者が多いんだ。より効率的に敵軍を攻略する作戦を考え、より効率的に技術を高める訓練を行う。そうした叡智が誇りに……奢りになっている所は、多少はあるのではないかな」
「ウィルバート――俺の弟は、特にその傾向が強い。何せケルヴィンを統べる賢者の血族で、加えて生徒会長だ。自分の力と叡智を、誰よりも強く自負している」
「自分が、自分達が最も強く賢い存在であることを証明するために、持ち上げてから完膚無きまで叩き潰す。彼奴はそういう奴で、他の生徒もそういう思考だから、疑うことなく彼奴に従う」
「故に連中は、敢えて罠を仕かけて誘導するのが主な戦い方だ――」
ヴィクトールが広げた地図には、フラッグライトの設置個所が事細かく描かれてある。
「え~っと……ケルヴィンが北、パルズミールが南西、ボクらが南東だよね」
「その通りだ。特に見てほしいのは、第八から第十六までだ。これらは中央のティンタジェル付近に設置されている。中央ということは、二つの軍をどちらも釣りやすいということだ」
「今までもやってたな、そういや。この辺を罠にして、他の軍の戦力を削ぎ落すんだよね」
「そうだ。連中、第一から第七を放り出して、真っ先にここを制圧に来るからな。先に取るのは不可能と言ってもいい」
「取った所で取り返されるでしょ。それも渾身の力で、叩きのめしてくる」
「そうだな――連中は文章を読み解く能力も高いからな。規定の隙を突いて、罰されない範囲の魔法を行使している。故に戦闘力も高いんだ」
「マジで問い合わせが殺到しているらしいぜ。各魔法学園から、特に貴族の親からのな」
炭酸が抜け切って、ただのレモン水となったレモネードをイザークは飲み干す。
「まあそれはいいとして、そんな連中にどう立ち向かうつもりだ?」
「……陽動作戦だ。連中と渡り合える――連中を前にしても怯まない者が単騎で突貫し、引き付ける。その隙に部隊が突撃し、自分の領土にするって算段だ。これを延々と繰り返し、地道に増やしていく」
「うし、方針はわかった。それでその、陽動を行うヤツが重要なんだよな? 誰がやるんだ?」
「幾人か腕の立つ者に声をかけている。陽動を行う者は補給部隊扱いにして、魔法も自由に使えるようにする予定だ」
「そして……その役目、貴様等にも任せたいと思っている」
アーサー、ルシュド、クラリア、イザーク。四人の瞳を、じっと見据えるヴィクトール。
「……ボクもなの?」
「別に倒す必要はない。ただ挑発して、妨害しながら時間を稼いでもらえばいい。貴様はそういうことは得意だろう?」
「うっへへぇ! 確かにぃ!」
「とはいえある程度の怪我は覚悟しておいた方がいい。それが怖いなら辞退してもいいが……」
「いや! やるよ! 頼まれたんならやるよ!」
「……」
ふと、ヴィクトールは黙り込み下を向いて俯く。
「……どした?」
「いや……」
「言いたいこと、ある。そうだ」
「……」
「言ってくれなければ理解できないのだが」
「しかし……」
「アタシ達はヴィクトールの友達だぜ!! だから言ってみるといいぜ!!」
「……」
それから数秒の沈黙を経て――
「……俺は」
「貴様等を……信頼しているんだ」
両手で顔を覆い、苦悶に満ち出した顔を隠す。
「先程、連中を前にしても怯まない者と言ったが……殆どの者がそれは不可能だと思う。連中は効率的、手段を選ばない冷酷な連中だ。そんなのを前にしたら、誰だって怖くなるさ」
「怯まないために必要なのは、覚悟だ。何を前にしても揺らぐことのない、強い心の根幹だ」
「……貴様等にはそれがあるだろう?」
「俺を……友人を馬鹿にした彼奴を、打ち負かせてくれると、強い覚悟を決めているのだろう?」
震えながら顔を上げた先にあったのは、
友人達の笑顔だった。
「……勿論、勿論、もっちろんだ!! 今日までずっと、その意気で訓練頑張ってきたからな!!」
「アタシはあいつを許せねえ!! だから絶対、目に物見せてやるって決めてんだ!!」
「馬鹿、される、嫌だ!! だから、おれ、頑張る!!」
「……オレ個人としては、言いたいことは山程あるが」
且つて脅しをかけた彼ですらも、今はすっかり微笑んでいる。
「今は不問にしておいてやる。だからこの剣を、お前のために振るうとしよう」
自分に対して笑顔を、真実だけを向けてくれている。
「……皆」
「……礼を言わせてもらうぞ……」
「んな堅苦しいのは無しだって!」
「ぐはぁ!」
「とりあえず、アタシの役割は陽動だな! 陽動……何訓練すればいいんだ!?」
「緊張の中でも戦えるように、素振りでもすればいいんじゃないかしら」
「それはいいな! アタシ、素振りしてくるぜー!」
「おれも、する。ハンス、行こう」
「わかったよルシュド。早く行っていい所取ろう」
「ボクらも行こうぜアーサー!」
「ああ、そうだな。ヴィクトールはどうする?」
「俺は他の生徒とも確認を行わないといけない。だから一緒には行けないな」
「そっか! んじゃあ、お互いできることを頑張ろうぜ!」
「うぇいうぇいおー!!」
「「「おー!!」」」
各人気合は十分。決戦前の一日はこうして始まった。
「……」
「何してんの。アナタもやんのよヴィクトール。ワタシもやるから、ハイオー!」
「……」
「……おー」
「……」
今日も今日とで、朝起きて顔を洗うヴィクトール。
いつもはすぐに顔を拭くのだが――
「……何だ」
眼鏡をかけていない主君の姿を取ったナイトメア・シャドウは、嬉しそうに彼を見つめる。
「……俺がこの所、生を実感していると」
忠騎士は小刻みに頷く。
「……貴様にはそう見えるのか」
主君は遠くを見つめて目を閉じる。
「……!」
目を閉じていたかと思うと、突然シャドウはかっと目を見開き――
ヴィクトールの服の裾をつまんで、一点を指差す。
「今度は何だ――っ!?」
先程まで誰もいなかったその場所に、男性が一人立っていた。
縮れた黒髪の、温厚そうな人物である。
「……久しいな、ヴィクトール」
「父上……」
戸惑う息子ヴィクトールをよそに、父――ヴィルヘルム・ブラン・フェルグスは近寄ってくる。
「いらしてくださったのですね……」
「息子達が戦う折角の機会だ。ミュゼアやアーノルドに無理を言って、休みを貰ったんだ。もっともあの二人も一緒に来たがな」
「そうでありましたか。私……我々のために、ありがとうございます」
「……」
言い直した姿に穏やかに微笑むヴィルヘルム。
一方のヴィクトールは、ここまでの会話のどこに微笑む要素があったのか、見当もついていない。
「ウィルバートの方にはご挨拶されたのですか?」
「いや、あいつにはこれから行く所だ」
「そうでありましたか。きっと喜ぶことでしょう」
「そうだな……何だかんだ言って、あいつは私やお前のことが好きだからな」
「……」
弱虫毛虫の、臆病で軟弱で、腑抜けで意気地なしのニンゲン――
いつか弟が言い捨てた言葉が想起される。
「父上……」
自分の失態は、恐らく耳に入っているだろう。
失望しているに違いないだろう――
「その……」
「私はもう行くよ。明日の試合、期待しているからな」
「……わかりました。ご挨拶に来ていただき、ありがとうございます」
元来た道を進み、手水場を後にするヴィルヘルム。その背中に、ヴィクトールは延々と礼をしていた。
もうこの会話は終わりなのだと、彼が感じた瞬間。
「ああ、そうだ――」
「お前も、色んなことをしてしまったみたいだがな」
「それを受け入れ認めてくれる、良き友人がいる。素晴らしいことではないか」
「――やはりお前は希望だ。グレイスウィルに送り出して、正解だったよ」
(……え?)
頭を上げてその言葉の意味を訊いた所で、
返事をしてくれる相手はどこにもいなかった。
「フィッシュアンドチップス! フィッシュアンドチップス! やっぱり朝はこれに限るぜ!」
「味が薄いからボク好きじゃないんだよね!」
「高血圧で死ぬぞ」
「何それひっど!!」
「すこーんすこーん、すここここーん」
「……ルシュド?」
「ジャムをかけたらすここここーん……どうした?」
「いや……何でもねえ……何でもねえよもう……」
「ハンス、やろう。すこーんすこーん」
「いい!! やんない!! 飲み物準備する!!」
「わかった。よろしく」
「あ、ああ……」
朝練帰りの一同は、現在焚き火に様々な食材を火にかけ、てきぱきと朝食を作っている。
「刻んだチーズもかけてあげましょ」
「んほー美味いやつ!!」
「チーズは最強食材。これ常識よ」
「山羊のチーズが最高に美味いんだ! アタシの好物だぜ!」
「ワタシは癖があって好きじゃないのよね。その辺の感覚は、獣人だと違うのだろうけど」
「おいハンス、オレのはセイロンだセイロン。オレはアールグレイは好きじゃないんだ」
「オマエ紅茶はホント拘るよなあ」
「あ~間違ってきみのセイロンにレモン汁入れちゃった~」
しゃきん
「残念だハンス、お前とは良い関係を築けていると思っていたのに」
「冗談だよ!! だから構え取るな!!」
「皆ー今日のパイはキャラメルアップルパイよー」
「おれ、林檎パイ、大好き!」
「ぜぇぜぇ……ぼく見たぞ、この女スターゲイジーに手ぇ伸ばしかけたの……」
「殺す気か!!」
「あのねえ、アナタ達散々スターゲイジースターゲイジーって馬鹿にしてるけどねぇ、これ魚料理なのよ? 栄養満点なのよ? まあワタシは食わないけど」
「やっぱり殺す気じゃねーか!!」
チーズがかかったマフィン、ブルーベリージャムのスコーン、フィッシュアンドチップス、キャラメルアップルパイ、その他諸々が好みの飲料。
それなりに豪華な朝食が出来上がった所に――
この天幕の本来の住人が戻ってきた。
「……」
「……あら、いい所に来たじゃない?」
「ヴィクトールおはようさん!! ボクらが来たぜ!!」
「……何を、しているんだ?」
「見りゃわかるだろ、朝食作ってたんだよ」
「いや、だがここは……」
「アナタに朝食振る舞いたいって言ったら、他の生徒は空気を読んでカーセラムの方行ったわよ」
「なっ……」
「紅茶とコーヒーとミルクどれがいい?」
「……コーヒー」
「あいよー。まあいいから座れや」
「アタシの隣が空いているぜー!!」
「……」
最初こそ戸惑う様子を見せたが、腹が減っているので自然と選択肢が減る。
ヴィクトールは言われるがままにクラリアの隣に座った。
「はいオマエの分のマフィンな!」
「ハギスのマフィンねそれは」
「えっ」
「冗談よ。ドッキリで仕込んでやろうと思ったけど、やめたわ。ふっつーのエッグマフィンよ」
「なあ今後こいつに食材調達頼むのやめようぜ?」
「……」
その後、フィッシュアンドチップスとスコーン、それからパイが配られ、
「んじゃ挨拶しようぜ!」
「マギアステル神とアングリーク神になんたらかんたらー」
「いただきまーす!!」
――お前も、色んなことをしてしまったみたいだがな
「うっひょおおおお!! うめえ!!」
「はぐはぐ……」
「ルシュド、こぼれてるこぼれてる」
「うああ……おれ、だめだ……」
「急いで食べるからだよ。ほらハンカチ」
「ありがと、ハンス」
「サラ!! お代わり!!」
「横ですーぐこれだもの。クラリア、アナタもこぼさないようにして食べなさい」
――それを受け入れ、認めてくれる、良き友人がいる。素晴らしいことではないか
「ふぅ……やはりセイロンはいい。透き通る味わいで頭がすっきりする」
「とか言いながらオマエ三杯目じゃねーか。水のように飲みやがるな」
「深みがあって赤みがついているだけの水だが」
「今ひでー持論を見た」
「そういうお前は何なんだ、朝からレモネードって」
「しゅわしゅわが頭をすっきりさせるんだよ」
「ふん、ならば紅茶と何ら変わりないな。実質紅茶だな」
「助けてルシュド……コイツ何言ってるかわかんない……」
「ほうした、いざーく?」
「ああ、あんなにも幸せそうにパイを食べちゃって……!」
(……希望)
(グレイスウィルに送り出して正解……)
(……)
「ヴィクトール? 飯冷めっぞ?」
「……ああ、悪いな」
かれこれ食べること二十分後。
「うぃ~食った食った~」
「何だか眠くなっちまったぜ……」
「今日はまだまだこれからでしょ。訓練追い込むんじゃなかったの」
「そうだぜそうだぜ! アタシは起きるぜ! しゃっきーん!」
「でも三十分は休もうぜー。食後すぐに動くと腹痛くなっからよー」
「……」
ヴィクトールは食後のコーヒーを飲んだ後六人を見回す。疑問を提示するには良い頃間だ。
「……それで、何故俺の天幕までやってきたんだ」
「アナタと話がしたいと思ったから」
「話とは?」
「ワタシは特にないんだけどね。でもコイツらなら何かあるんじゃないかしら」
「……そうなのか」
「んーまあそうなんだけど……」
どうやら皆揃って、細かい内容までは考えてはなかったらしい。
「……そうだ。明日の作戦内容、確認するってのはどうよ」
「それに何の意味がある?」
「後でにしとくと忘れそうだから」
「それにその内容を踏まえてこの後訓練が行える」
「おれ、忘れる、多分。だから、知りたい」
「……」
「……待っていろ」
ヴィクトールは自分の天幕に入って数分後、一枚の紙を持って戻ってきた。
「元々ケルヴィンは、魔術以外にも様々な学術的研究によって発展した国だ。哲学や数学、物理学や化学といった具合にな。単純な研究の成果なら……グレイスウィルよりも先を行っていると、俺はそう思う」
「そんな国の魔法学園だから、当然生徒も頭がいい者が多いんだ。より効率的に敵軍を攻略する作戦を考え、より効率的に技術を高める訓練を行う。そうした叡智が誇りに……奢りになっている所は、多少はあるのではないかな」
「ウィルバート――俺の弟は、特にその傾向が強い。何せケルヴィンを統べる賢者の血族で、加えて生徒会長だ。自分の力と叡智を、誰よりも強く自負している」
「自分が、自分達が最も強く賢い存在であることを証明するために、持ち上げてから完膚無きまで叩き潰す。彼奴はそういう奴で、他の生徒もそういう思考だから、疑うことなく彼奴に従う」
「故に連中は、敢えて罠を仕かけて誘導するのが主な戦い方だ――」
ヴィクトールが広げた地図には、フラッグライトの設置個所が事細かく描かれてある。
「え~っと……ケルヴィンが北、パルズミールが南西、ボクらが南東だよね」
「その通りだ。特に見てほしいのは、第八から第十六までだ。これらは中央のティンタジェル付近に設置されている。中央ということは、二つの軍をどちらも釣りやすいということだ」
「今までもやってたな、そういや。この辺を罠にして、他の軍の戦力を削ぎ落すんだよね」
「そうだ。連中、第一から第七を放り出して、真っ先にここを制圧に来るからな。先に取るのは不可能と言ってもいい」
「取った所で取り返されるでしょ。それも渾身の力で、叩きのめしてくる」
「そうだな――連中は文章を読み解く能力も高いからな。規定の隙を突いて、罰されない範囲の魔法を行使している。故に戦闘力も高いんだ」
「マジで問い合わせが殺到しているらしいぜ。各魔法学園から、特に貴族の親からのな」
炭酸が抜け切って、ただのレモン水となったレモネードをイザークは飲み干す。
「まあそれはいいとして、そんな連中にどう立ち向かうつもりだ?」
「……陽動作戦だ。連中と渡り合える――連中を前にしても怯まない者が単騎で突貫し、引き付ける。その隙に部隊が突撃し、自分の領土にするって算段だ。これを延々と繰り返し、地道に増やしていく」
「うし、方針はわかった。それでその、陽動を行うヤツが重要なんだよな? 誰がやるんだ?」
「幾人か腕の立つ者に声をかけている。陽動を行う者は補給部隊扱いにして、魔法も自由に使えるようにする予定だ」
「そして……その役目、貴様等にも任せたいと思っている」
アーサー、ルシュド、クラリア、イザーク。四人の瞳を、じっと見据えるヴィクトール。
「……ボクもなの?」
「別に倒す必要はない。ただ挑発して、妨害しながら時間を稼いでもらえばいい。貴様はそういうことは得意だろう?」
「うっへへぇ! 確かにぃ!」
「とはいえある程度の怪我は覚悟しておいた方がいい。それが怖いなら辞退してもいいが……」
「いや! やるよ! 頼まれたんならやるよ!」
「……」
ふと、ヴィクトールは黙り込み下を向いて俯く。
「……どした?」
「いや……」
「言いたいこと、ある。そうだ」
「……」
「言ってくれなければ理解できないのだが」
「しかし……」
「アタシ達はヴィクトールの友達だぜ!! だから言ってみるといいぜ!!」
「……」
それから数秒の沈黙を経て――
「……俺は」
「貴様等を……信頼しているんだ」
両手で顔を覆い、苦悶に満ち出した顔を隠す。
「先程、連中を前にしても怯まない者と言ったが……殆どの者がそれは不可能だと思う。連中は効率的、手段を選ばない冷酷な連中だ。そんなのを前にしたら、誰だって怖くなるさ」
「怯まないために必要なのは、覚悟だ。何を前にしても揺らぐことのない、強い心の根幹だ」
「……貴様等にはそれがあるだろう?」
「俺を……友人を馬鹿にした彼奴を、打ち負かせてくれると、強い覚悟を決めているのだろう?」
震えながら顔を上げた先にあったのは、
友人達の笑顔だった。
「……勿論、勿論、もっちろんだ!! 今日までずっと、その意気で訓練頑張ってきたからな!!」
「アタシはあいつを許せねえ!! だから絶対、目に物見せてやるって決めてんだ!!」
「馬鹿、される、嫌だ!! だから、おれ、頑張る!!」
「……オレ個人としては、言いたいことは山程あるが」
且つて脅しをかけた彼ですらも、今はすっかり微笑んでいる。
「今は不問にしておいてやる。だからこの剣を、お前のために振るうとしよう」
自分に対して笑顔を、真実だけを向けてくれている。
「……皆」
「……礼を言わせてもらうぞ……」
「んな堅苦しいのは無しだって!」
「ぐはぁ!」
「とりあえず、アタシの役割は陽動だな! 陽動……何訓練すればいいんだ!?」
「緊張の中でも戦えるように、素振りでもすればいいんじゃないかしら」
「それはいいな! アタシ、素振りしてくるぜー!」
「おれも、する。ハンス、行こう」
「わかったよルシュド。早く行っていい所取ろう」
「ボクらも行こうぜアーサー!」
「ああ、そうだな。ヴィクトールはどうする?」
「俺は他の生徒とも確認を行わないといけない。だから一緒には行けないな」
「そっか! んじゃあ、お互いできることを頑張ろうぜ!」
「うぇいうぇいおー!!」
「「「おー!!」」」
各人気合は十分。決戦前の一日はこうして始まった。
「……」
「何してんの。アナタもやんのよヴィクトール。ワタシもやるから、ハイオー!」
「……」
「……おー」
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