239 / 247
第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦
第232話 出場せずとも忙しい!
しおりを挟む
こうして生徒七人、意気揚々と天幕区を後にしたわけだが。
「……そういや、すっかり忘れている存在がいたな」
「誰だ?」
「エリス。あとカタリナとリーシャ。いつもこの十人でつるんでるじゃん」
「うおおおお!! 忘れてたぜ!!」
「というかここ数日会ってなくね? 訓練に夢中で忘れてたわ……」
「うう……後、謝る、する……」
「いや、それは必要ないと思うぞ」
「ん? 何か知ってるのか?」
「ああ……」
アーサーはここ最近の三人の様子を事細かく話す。
「え、最近私がエリスと一緒にいることが多いって!? そこまででもなくない!?」
とか言った直後にエリスと合流するリーシャとか、
「あ、アーサー……えっと……その……ばいばい!」
という感じで露骨に避けるカタリナとか、
「もーっ! わたしは大丈夫だから! ねっ! 訓練行っていいよ!」
どう見ても内緒にしたいオーラ全開のエリスとか。
「何か……隠し事をしてるんだろうけどな……」
「ああ、それなら敢えて訊くまでもねえな……」
「まあ、今日中に答えは出るでしょ。というわけで行くわよハンス」
「え、どこにだよ? ていうか何でぼくなんだよ?」
「多分ワタシとハンスには教えてくれるわ。だって武術戦に出ないもの。というわけでちょっくらしてくる」
「ちょっ、待てよーっ!?」
ハンスをずるずる連行して、女子天幕区に向かっていくサラ。見届けた後時は動き出す。
「……じゃあ、訓練すっか!!」
「早いもん勝ちだぜー!!」
「あっ、クラリア! おれも、行く!」
「やれやれ……」
<午前十一時 第十九森林区>
「茸はなー、属性特化してなくても毒入ってるやつとかあるから判別が難しいんだよなー」
「わぁ、この茸白くてきらきらしてます」
「それはマジカルマッシュルームだな。魔力が豊富な滋養強壮食材だ。採っても構わんぞ」
「マジックマッシュルームとは違うんですかー?」
「あれは幻覚作用のある毒茸だよ。微妙に傘がしぼんでいるのが違いだ。まあそんな危険物、人工であるこの森には生えてないけどな」
「はへぇ、わからないですぅ」
エリス、カタリナ、リーシャの三人は現在、カーセラムのおやっさんと共に森林区に出かけていた。
目的はマッシュルーム――属性もなければ幻覚作用もない、ただの美味しい茸の採取である。
「茸の判別方法って、結構盛んに研究されているっぽいぞ。ウィングレー家にも専門にしてる魔術師がいるぐらいだ」
「でもおやっさんは目で判別しますよね」
「この道ウン十年だ、舐めんじゃねーぞ? 魔法具なんかに頼るもんか!」
「いよーっ、おやっさんかっこいいーっ!」
ふとリーシャが足下を見ると、それがあった。
「おっとぉ、このこじんまりとした白い茸は!」
「おお、見つけたか。どれどれ……」
「何かいい匂いするし、これなんじゃないですか?」
「ああ……そうだな。これは普通に美味しいマッシュルームだ。身も結構詰まってるぞ」
「やったあ! 採ろう採ろう!」
「となると、今いる付近に群生しているな」
おやっさんが木の根元を掻き分けると、そこにもマッシュルームが。
「すごい、どうしてわかったんですか」
「茸ってのは自分のいる周辺にしか胞子を撒き散らせねえのさ。だから大体固まって生えてる。お嬢さんも覚えておきな」
「わたしの名前はエリスですよーっ」
「がっはっは、そうだったな! ユーリスさんちのエリスちゃんだったか!」
<午前十二時 運営本部前広場>
「牡丹肉は脂っこさがなくてどしどし食することができ且つ筋肉の成分となり得る有用食材ですぞ!!!」
「……生臭さも、そこまでない……」
「気になったんだけどさー、獣人の人って自分達の特性である獣の肉って、同族喰らいで躊躇わないの?」
「それはないですよー? 獣人は人の姿で生まれたことを誇ってますからね。人になれなかった獣なんて同族なんて思ったことありません」
「白い兎耳で可愛らしいのに、物騒なこと言うんだね……」
「私はこのように周囲から教わりましたっ!」
「んへえ、獣人貴族怖い」
レイチェルとチャールズが慣れた手付きで猪肉の下準備を行う様を、ソラは茶々を入れながら観察している。
「ふぅ、ふぅ……」
「うふふ、疲れちゃったかしらぁ~?」
「いえ!! まだまだいけます!! せんぱいに頼まれたんですからら頑張ります!!」
「そうね、その意気だわ!! さあもっと激しく!! 熱く!! 麺棒で生地をこねくり回してぇぇぇ!!!」
「はいいいいい!!!」
「……無理しないでね?」
「全く、変なスイッチ入っちゃったんだから……」
アリアの指導を受けながら、生地を平べったく伸ばすファルネア。アーサーとリップルはそんな彼女の隣に、不安な面持ちで立っている。
「ファルネアちゃん頑張ってるなあ……」
「あたし達も負けてられないねっ!」
「は、はい! そうですね、ルカ……さん」
「ん~? どした~?」
「……」
「何々? あたしの尻尾と角が気になる感じ? でもキアラちゃんだって、いいの持ってるじゃん!」
「……ありがとう、です」
「おいルカ、本人が困ってるみたいだからそれぐらいにしておけ。というかこっち手伝え」
「はいはーい。チェシャもやるんだからね~」
「んにゃぁ……」
ルカとキアラの竜族な二人は竜賢者の所に向かい、葉物野菜を和える仕事に戻る。
「ひっひっひっ、元気そうじゃないかトパーズ。最後に会ったのは半年ぐらい前だったか?」
「あらぁ~! 私二月にグレイスウィルに行ったじゃな~い! もう忘れちゃったのゼラちゃん!?」
「ああそうだったそうだった。いかんねえ、最近記憶が不安定になってきちまって」
「クーソーバーバーアーッ」
ガゼルとクオークが大量のじゃがいもを持って、二人の老人の前にごろごろ落とす。
「おらぁ駄弁ってんなら皮剥がすの手伝えや」
「はっ、折角淑女が会話を嗜んでいるって時に水を差すかい。いい度胸だね」
「もうゼラちゃんったら~。昔から相変わらずね! ついつい毒が出ちゃうんだから~!」
「昔っからそうなんですかこのババア」
「というか昔って大体いつぐらいからなんですか」
「最終戦争で魔術師やってた時ぐらいからね!」
「うっわすっごい昔!!」
「というか……え? 魔術師? いや、後でシャゼムの奴を問い質すか……」
二人はこの後も何とかかんとか言いながら、じゃがいもの皮を剥いていく。
「皆おはよう!! ガレアさんだよ!! 今回の武術戦では購買部に籠りっきりで久しぶりに外に出たガレアさんだよ!!」
「いいからアーモンドそこに置いていってください」
「冷たい!! アイスドリンク並みの冷たさだねマチルダちゃん!!」
「そうだガレアさーん、あのホイップのスプレーするやつ使わせてもらえないんですかー」
「あれちょっと使い方が難しい魔法具だから。君達素人には使わせられないノ=サ☆」
「うざい……顔は結構いい方なのにうざい……」
「そう言わずにマチルダ。わたくし達も使えてしまったら、ガレアさんの立つ瀬がないというものでしょう?」
「それもそうかー!!! そうだなガレアさんの面子を守ってあげなくちゃなー!!!」
「アザーリアちゃんもアザーリアちゃんで酷いなー!?!?」
演劇部の二人も含めた数名の女子生徒が、ガレアの指揮の元ドリンクの準備をせっせて行っている。
などなど、他にも学年を問わず生徒が集合しており、中央広場は大所帯。
「……何よこのカオスは」
「さあ……?」
広場には昨日までなかった天幕が大量に現れ、その中で様々な人とナイトメアが食材の仕込みをしていたのだ。
女子天幕区から移ってきたサラとハンスが、その光景に唖然としている所に――
「あっ、二人共! こっち来てたんだ!」
「……あら、恐らく諸悪の根源」
作業着に着替えて籠を背負ったエリス、同様のスタイルなカタリナとリーシャがやってきた。
「悪じゃないもん! 色んな人に声かけてたら、予想以上の大事になっちゃっただけだもん!」
「いやあ……逆に凄くねえか、それ」
「ハンスが感心してる! 珍しい!」
「殺すぞ氷女」
「ところでその恰好と……マッシュルームね。採ってきたのかしら」
「その通り!」
若々しい生徒達の間に、おやっさんものそのそと合流する。
「全く、おっちゃんを置いていくなよ。もう年なんだから早く走れないんだよ」
「そこは体力ないんですね?」
「筋力に振って走力には振ってないだけだよ。さあさあ、これを必要としている方の所まで、早く持ってってあげようぜ」
「そうだった! 行こう、二人共!」
「ワタシ達もついて行くわ。面白そうだし」
「一体何が始まるんだか……」
――手頃な大きさに切って筋を入れた猪肉、半月切りにした人参、アスパラガスを三本、採れたてのマッシュルームを五切れ程。最後にバターを一切れ、オリーブオイルを二匙程度。
「以上を木目の強い紙で包み込みましてえええええ!!!」
「十分程度蒸し焼きにしたのがこちらになりますうううううう!!!」
紙を開くと、香ばしい香りが解放され、目にも麗しい肉汁の滝。
「うっわー!! 美味しそう!!」
「美味しそうでなく美味しいんです! パルズミールではこうして食材を召し上がりますからね! さあさあ、昼食がてら食べちゃいましょう!」
レイチェルはささっとランチョンマットの準備を行う。各々がそこに座り、一息つく。
「……全員分あるの?」
「エリスちゃん、カタリナちゃん、リーシャちゃん、おやっさんさん、私、チャールズさん、ソラさん、そして貴女達二人の分! しーっかりと準備しましたよー!」
「……まあ腹が減ってるからな? 特別に食ってやろうじゃん?」
各自スプーンとフォークを手に取り、食前の挨拶をした後、その肉身に匙を入れていく。
そして肉が溶けていき、心は幸福に満たされる。
「美味しい……!」
「ほっぺがとろけるとはまさにこのことでありますなー! 某の筋肉も歓喜に打ち震えておりますぞ!」
「ロザリンにも食べさせてやりたかったな~。仕事が重なっちゃったからな~。そうだ、この包み焼きのことだけ美味しそうに語ってやろっと」
「嫌ったらしいわね……」
熱々の食材を頬張り、舌が鼓を打ちまくる。
「こんなに美味しいならきっと、アーサー達だって喜ぶに違いないねっ!」
「クラリアちゃん叫んで喜ぶねっ! 私も頑張る甲斐が出てくるってもんです!」
「あーそういうことね。アイツらを喜ばせようとしてこそこそやってたわけね」
「そうですそうです!」「そうなんです!」
「最初は私達の周囲にだけ声かけてたんだけどね~。クラリアの知り合い、ルシュドの知り合いって。で、イザークの知り合いって誰だろーってなった時に、トシ子さんに声かけて」
「シスバルド商会にまで話が回ったわけと。ほーん……」
「にしても凄い行動力だぁ。僕達の世代には学園総出で何かするってことはなかったぞぉ」
ぼちぼち食事を終え、匙と紙をまとめて片付けていく。
「ねえ、二人はこの後暇?」
「暇って言ったらこれに付き合わされるんでしょ」
「その通りだ、察しが良いなお嬢さん」
「っ……」
苺が山盛りに入った籠を抱えたユーリスが、一切の気配を出さずに、サラ達の背後に立っていた。
「君達食後にはデザート欲しくない? 欲しいよね?」
「まあ……そうね」
「てめえはデザート枠なのかよ」
「口の訊き方には気を付けた方がいいぞぉ!?」
「ああ!?」
「はいはい、落ち着いて。でも作ったのは食べてもいいよ?」
「んー……」
サラは考える素振りを見せたが、答えは決めていたも当然。
「そうね、今日はこっちに付き合いましょうか。訓練側に行くのも飽きてきたし」
「ぼくはあっち行ってもいいかな?」
「デザートいらないの?」
「黙れ。そんなことよりルシュドなんだよぼくは」
「ふーん……」
舐め回すように観察するサラ。直後ににやりと口角を上げる。
「……何だよ」
「別に?」
「あっそ。じゃあぼく行くからな」
「そうだハンス。行くならついでに、こっちに来るのは午後六時以降にしてって伝えておいてよ」
「ああ、そんぐらいならやるよ。じゃあね」
そう言ってハンスはその場を後にする。
その後サラがにやつくのを目撃していたエリスは、彼女から話を訊くことにした。
「サラ……ハンスとルシュドって、どんな関係なの?」
「友達みたいよ? 彼の口から聞いたわ」
「へぇ……それはよかった。よかったって表現が合ってるかどうかわからないけど」
「んでもまあ、よかった所で僕達も作業をしよう。美味しいスウィーツをお作りになられましょー!!」
「ユーリスさん、テンション高いなあ本当……」
「まあ自分の作った苺が関わってるしね?」
「……そういや、すっかり忘れている存在がいたな」
「誰だ?」
「エリス。あとカタリナとリーシャ。いつもこの十人でつるんでるじゃん」
「うおおおお!! 忘れてたぜ!!」
「というかここ数日会ってなくね? 訓練に夢中で忘れてたわ……」
「うう……後、謝る、する……」
「いや、それは必要ないと思うぞ」
「ん? 何か知ってるのか?」
「ああ……」
アーサーはここ最近の三人の様子を事細かく話す。
「え、最近私がエリスと一緒にいることが多いって!? そこまででもなくない!?」
とか言った直後にエリスと合流するリーシャとか、
「あ、アーサー……えっと……その……ばいばい!」
という感じで露骨に避けるカタリナとか、
「もーっ! わたしは大丈夫だから! ねっ! 訓練行っていいよ!」
どう見ても内緒にしたいオーラ全開のエリスとか。
「何か……隠し事をしてるんだろうけどな……」
「ああ、それなら敢えて訊くまでもねえな……」
「まあ、今日中に答えは出るでしょ。というわけで行くわよハンス」
「え、どこにだよ? ていうか何でぼくなんだよ?」
「多分ワタシとハンスには教えてくれるわ。だって武術戦に出ないもの。というわけでちょっくらしてくる」
「ちょっ、待てよーっ!?」
ハンスをずるずる連行して、女子天幕区に向かっていくサラ。見届けた後時は動き出す。
「……じゃあ、訓練すっか!!」
「早いもん勝ちだぜー!!」
「あっ、クラリア! おれも、行く!」
「やれやれ……」
<午前十一時 第十九森林区>
「茸はなー、属性特化してなくても毒入ってるやつとかあるから判別が難しいんだよなー」
「わぁ、この茸白くてきらきらしてます」
「それはマジカルマッシュルームだな。魔力が豊富な滋養強壮食材だ。採っても構わんぞ」
「マジックマッシュルームとは違うんですかー?」
「あれは幻覚作用のある毒茸だよ。微妙に傘がしぼんでいるのが違いだ。まあそんな危険物、人工であるこの森には生えてないけどな」
「はへぇ、わからないですぅ」
エリス、カタリナ、リーシャの三人は現在、カーセラムのおやっさんと共に森林区に出かけていた。
目的はマッシュルーム――属性もなければ幻覚作用もない、ただの美味しい茸の採取である。
「茸の判別方法って、結構盛んに研究されているっぽいぞ。ウィングレー家にも専門にしてる魔術師がいるぐらいだ」
「でもおやっさんは目で判別しますよね」
「この道ウン十年だ、舐めんじゃねーぞ? 魔法具なんかに頼るもんか!」
「いよーっ、おやっさんかっこいいーっ!」
ふとリーシャが足下を見ると、それがあった。
「おっとぉ、このこじんまりとした白い茸は!」
「おお、見つけたか。どれどれ……」
「何かいい匂いするし、これなんじゃないですか?」
「ああ……そうだな。これは普通に美味しいマッシュルームだ。身も結構詰まってるぞ」
「やったあ! 採ろう採ろう!」
「となると、今いる付近に群生しているな」
おやっさんが木の根元を掻き分けると、そこにもマッシュルームが。
「すごい、どうしてわかったんですか」
「茸ってのは自分のいる周辺にしか胞子を撒き散らせねえのさ。だから大体固まって生えてる。お嬢さんも覚えておきな」
「わたしの名前はエリスですよーっ」
「がっはっは、そうだったな! ユーリスさんちのエリスちゃんだったか!」
<午前十二時 運営本部前広場>
「牡丹肉は脂っこさがなくてどしどし食することができ且つ筋肉の成分となり得る有用食材ですぞ!!!」
「……生臭さも、そこまでない……」
「気になったんだけどさー、獣人の人って自分達の特性である獣の肉って、同族喰らいで躊躇わないの?」
「それはないですよー? 獣人は人の姿で生まれたことを誇ってますからね。人になれなかった獣なんて同族なんて思ったことありません」
「白い兎耳で可愛らしいのに、物騒なこと言うんだね……」
「私はこのように周囲から教わりましたっ!」
「んへえ、獣人貴族怖い」
レイチェルとチャールズが慣れた手付きで猪肉の下準備を行う様を、ソラは茶々を入れながら観察している。
「ふぅ、ふぅ……」
「うふふ、疲れちゃったかしらぁ~?」
「いえ!! まだまだいけます!! せんぱいに頼まれたんですからら頑張ります!!」
「そうね、その意気だわ!! さあもっと激しく!! 熱く!! 麺棒で生地をこねくり回してぇぇぇ!!!」
「はいいいいい!!!」
「……無理しないでね?」
「全く、変なスイッチ入っちゃったんだから……」
アリアの指導を受けながら、生地を平べったく伸ばすファルネア。アーサーとリップルはそんな彼女の隣に、不安な面持ちで立っている。
「ファルネアちゃん頑張ってるなあ……」
「あたし達も負けてられないねっ!」
「は、はい! そうですね、ルカ……さん」
「ん~? どした~?」
「……」
「何々? あたしの尻尾と角が気になる感じ? でもキアラちゃんだって、いいの持ってるじゃん!」
「……ありがとう、です」
「おいルカ、本人が困ってるみたいだからそれぐらいにしておけ。というかこっち手伝え」
「はいはーい。チェシャもやるんだからね~」
「んにゃぁ……」
ルカとキアラの竜族な二人は竜賢者の所に向かい、葉物野菜を和える仕事に戻る。
「ひっひっひっ、元気そうじゃないかトパーズ。最後に会ったのは半年ぐらい前だったか?」
「あらぁ~! 私二月にグレイスウィルに行ったじゃな~い! もう忘れちゃったのゼラちゃん!?」
「ああそうだったそうだった。いかんねえ、最近記憶が不安定になってきちまって」
「クーソーバーバーアーッ」
ガゼルとクオークが大量のじゃがいもを持って、二人の老人の前にごろごろ落とす。
「おらぁ駄弁ってんなら皮剥がすの手伝えや」
「はっ、折角淑女が会話を嗜んでいるって時に水を差すかい。いい度胸だね」
「もうゼラちゃんったら~。昔から相変わらずね! ついつい毒が出ちゃうんだから~!」
「昔っからそうなんですかこのババア」
「というか昔って大体いつぐらいからなんですか」
「最終戦争で魔術師やってた時ぐらいからね!」
「うっわすっごい昔!!」
「というか……え? 魔術師? いや、後でシャゼムの奴を問い質すか……」
二人はこの後も何とかかんとか言いながら、じゃがいもの皮を剥いていく。
「皆おはよう!! ガレアさんだよ!! 今回の武術戦では購買部に籠りっきりで久しぶりに外に出たガレアさんだよ!!」
「いいからアーモンドそこに置いていってください」
「冷たい!! アイスドリンク並みの冷たさだねマチルダちゃん!!」
「そうだガレアさーん、あのホイップのスプレーするやつ使わせてもらえないんですかー」
「あれちょっと使い方が難しい魔法具だから。君達素人には使わせられないノ=サ☆」
「うざい……顔は結構いい方なのにうざい……」
「そう言わずにマチルダ。わたくし達も使えてしまったら、ガレアさんの立つ瀬がないというものでしょう?」
「それもそうかー!!! そうだなガレアさんの面子を守ってあげなくちゃなー!!!」
「アザーリアちゃんもアザーリアちゃんで酷いなー!?!?」
演劇部の二人も含めた数名の女子生徒が、ガレアの指揮の元ドリンクの準備をせっせて行っている。
などなど、他にも学年を問わず生徒が集合しており、中央広場は大所帯。
「……何よこのカオスは」
「さあ……?」
広場には昨日までなかった天幕が大量に現れ、その中で様々な人とナイトメアが食材の仕込みをしていたのだ。
女子天幕区から移ってきたサラとハンスが、その光景に唖然としている所に――
「あっ、二人共! こっち来てたんだ!」
「……あら、恐らく諸悪の根源」
作業着に着替えて籠を背負ったエリス、同様のスタイルなカタリナとリーシャがやってきた。
「悪じゃないもん! 色んな人に声かけてたら、予想以上の大事になっちゃっただけだもん!」
「いやあ……逆に凄くねえか、それ」
「ハンスが感心してる! 珍しい!」
「殺すぞ氷女」
「ところでその恰好と……マッシュルームね。採ってきたのかしら」
「その通り!」
若々しい生徒達の間に、おやっさんものそのそと合流する。
「全く、おっちゃんを置いていくなよ。もう年なんだから早く走れないんだよ」
「そこは体力ないんですね?」
「筋力に振って走力には振ってないだけだよ。さあさあ、これを必要としている方の所まで、早く持ってってあげようぜ」
「そうだった! 行こう、二人共!」
「ワタシ達もついて行くわ。面白そうだし」
「一体何が始まるんだか……」
――手頃な大きさに切って筋を入れた猪肉、半月切りにした人参、アスパラガスを三本、採れたてのマッシュルームを五切れ程。最後にバターを一切れ、オリーブオイルを二匙程度。
「以上を木目の強い紙で包み込みましてえええええ!!!」
「十分程度蒸し焼きにしたのがこちらになりますうううううう!!!」
紙を開くと、香ばしい香りが解放され、目にも麗しい肉汁の滝。
「うっわー!! 美味しそう!!」
「美味しそうでなく美味しいんです! パルズミールではこうして食材を召し上がりますからね! さあさあ、昼食がてら食べちゃいましょう!」
レイチェルはささっとランチョンマットの準備を行う。各々がそこに座り、一息つく。
「……全員分あるの?」
「エリスちゃん、カタリナちゃん、リーシャちゃん、おやっさんさん、私、チャールズさん、ソラさん、そして貴女達二人の分! しーっかりと準備しましたよー!」
「……まあ腹が減ってるからな? 特別に食ってやろうじゃん?」
各自スプーンとフォークを手に取り、食前の挨拶をした後、その肉身に匙を入れていく。
そして肉が溶けていき、心は幸福に満たされる。
「美味しい……!」
「ほっぺがとろけるとはまさにこのことでありますなー! 某の筋肉も歓喜に打ち震えておりますぞ!」
「ロザリンにも食べさせてやりたかったな~。仕事が重なっちゃったからな~。そうだ、この包み焼きのことだけ美味しそうに語ってやろっと」
「嫌ったらしいわね……」
熱々の食材を頬張り、舌が鼓を打ちまくる。
「こんなに美味しいならきっと、アーサー達だって喜ぶに違いないねっ!」
「クラリアちゃん叫んで喜ぶねっ! 私も頑張る甲斐が出てくるってもんです!」
「あーそういうことね。アイツらを喜ばせようとしてこそこそやってたわけね」
「そうですそうです!」「そうなんです!」
「最初は私達の周囲にだけ声かけてたんだけどね~。クラリアの知り合い、ルシュドの知り合いって。で、イザークの知り合いって誰だろーってなった時に、トシ子さんに声かけて」
「シスバルド商会にまで話が回ったわけと。ほーん……」
「にしても凄い行動力だぁ。僕達の世代には学園総出で何かするってことはなかったぞぉ」
ぼちぼち食事を終え、匙と紙をまとめて片付けていく。
「ねえ、二人はこの後暇?」
「暇って言ったらこれに付き合わされるんでしょ」
「その通りだ、察しが良いなお嬢さん」
「っ……」
苺が山盛りに入った籠を抱えたユーリスが、一切の気配を出さずに、サラ達の背後に立っていた。
「君達食後にはデザート欲しくない? 欲しいよね?」
「まあ……そうね」
「てめえはデザート枠なのかよ」
「口の訊き方には気を付けた方がいいぞぉ!?」
「ああ!?」
「はいはい、落ち着いて。でも作ったのは食べてもいいよ?」
「んー……」
サラは考える素振りを見せたが、答えは決めていたも当然。
「そうね、今日はこっちに付き合いましょうか。訓練側に行くのも飽きてきたし」
「ぼくはあっち行ってもいいかな?」
「デザートいらないの?」
「黙れ。そんなことよりルシュドなんだよぼくは」
「ふーん……」
舐め回すように観察するサラ。直後ににやりと口角を上げる。
「……何だよ」
「別に?」
「あっそ。じゃあぼく行くからな」
「そうだハンス。行くならついでに、こっちに来るのは午後六時以降にしてって伝えておいてよ」
「ああ、そんぐらいならやるよ。じゃあね」
そう言ってハンスはその場を後にする。
その後サラがにやつくのを目撃していたエリスは、彼女から話を訊くことにした。
「サラ……ハンスとルシュドって、どんな関係なの?」
「友達みたいよ? 彼の口から聞いたわ」
「へぇ……それはよかった。よかったって表現が合ってるかどうかわからないけど」
「んでもまあ、よかった所で僕達も作業をしよう。美味しいスウィーツをお作りになられましょー!!」
「ユーリスさん、テンション高いなあ本当……」
「まあ自分の作った苺が関わってるしね?」
0
あなたにおすすめの小説
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
『異界酒場 ルーナ』
みぎみみ
ファンタジー
東京・渋谷から少し外れた路地の奥、築五十年のビルの地下一階。看板は小さく、知っている人しか辿り着けない。
カウンター八席、テーブル二卓。深夜零時から夜明けまでの営業。
ルーカス(本名:ルカシュ・ヴァルド)
異世界の小さな王国の第三王子として生まれたが、王位継承争いに巻き込まれ、魔法陣の暴走によって現代日本に転移してきた。外見は三十代前半の白人男性。銀灰色の髪と、光の加減で金色にも見える瞳を持つ。日本語は「声の魔法」で習得した。
他人の「最も深い渇望」が視える力を持つ——それは意識的な欲求ではなく、本人すら気づいていない魂の底の叫び。酒や料理を通じてその渇望に応える。
自分の力を「呪い」だと思っていた時期もある。今はただ、使い道を見つけた、という感覚でいる。
無能と追放された結界師、三十路のおっさんですが17歳の辺境伯令嬢と婚約して人生逆転します
みかん畑
ファンタジー
無能と蔑まれ、Aランクパーティを追放された結界師フィン。
行き場を失った彼を拾ったのは、辺境伯の娘リリカだった。
国土結界の恩恵が届かない辺境で、フィンの結界は本当の価値を発揮していく。
領地再建、政治の駆け引き、そして少女のまっすぐな想い。
これは無能と呼ばれた男が、辺境で居場所を見つけ、やがて年の差婚へと至る物語。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
手折れ花
アヒル
恋愛
王族から見捨てられ、とある村で暮らしていた第四王女だったが……。
侵略した王子×亡国の平凡王女のお話。
※注意※
自サイトでボーイズラブとして書いたお話を主人公を女の子にして加筆したものです。
(2020.12.31)
閲覧、お気に入りなど、ありがとうございます。完結していますが、続きを書こうか迷っています。
ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます
黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。
だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ!
捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……?
無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる