ヤンデレ王子と哀れなおっさん辺境伯 恋も人生も二度目なら

音無野ウサギ

文字の大きさ
7 / 13

ほしいのは全部

しおりを挟む
リヒトが部屋に戻るとゲオハルトは部屋の外に続くテラスにいた。
 どうやら侍従が屋敷に彼のものを取りに行ったのが間に合ったようだ。辺境伯として相応しい落ち着いた上着とズボンは彼の明るい焦げ茶の髪色に似合っていた。

 ゲオハルトは物思いにふけっているのかテラスの柵に斜めに腰かけて遠くを見ている。さみしげな横顔に私がそばにいて差し上げますわ。というご令嬢の一人や二人いたのではとリヒトは思うが、まぁゲオハルトがその気にならなかったのは幸いだった。

(さてと、初恋の人をしあわせにしなくては)

 リヒトの昨夜からの行いが一般的には初恋の人をしあわせにする振る舞いからは遥かに遠いということには本人は気づいていない。

 テラスへの扉を開くとゲオハルトは一瞬虚につかれていたがすぐにリヒトへと怒気のこもった視線を向けてきた。

「ゲオハルト身体の具合はどうかな?歩くのに支障はないのか?」

 リヒトがにこやかに微笑みながらそばに寄り腰を撫でるとゲオハルトの肩がはねた。

「あの程度なんてことはありません」

 ぶっきらぼうに吐き捨てられた言葉だったがリヒトから顔を背けるゲオハルトの表情を見てリヒトは心の中で喝采をあげた。

「食事はとったか?」

 更に距離をつめ耳元でささやくと今度はビクリと腰が跳ねる。

「いただきました」

 相変わらずリヒトの方を見ないがゲオハルトの耳が赤く染まっているのを見てリヒトの心は満たされた。

(羞恥心。わるくない)

「じゃあ中に戻ろう。書類にサインをしてほしい」

 リヒトはひらりと左手に持った書類をみせた。

「これは?」

「婚姻誓約書」

 その言葉に流石にゲオハルトがリヒトを見た。
 理解し難いと顔に書いてある。

「といいたいけれど愛人契約書だ。君の立場の保証だよ」

 さらに狂人を見る目をむけられたのでリヒトはニヤリと笑った。いたずらは成功だ。

「冗談だ。私との雇用契約書だ」

 まだ納得の行かない顔でゲオハルトはリヒトを見つめている。

「悪いが辺境伯としての肩書は私がいただくことになったからな。お前には私の補佐として働いてもらう。報酬面に関しては変化はない。王族をお前の下に置くわけには行かないのであくまで形式的なものだ。共にこの素晴らしい王国をささえていこうな」

 リヒトが言葉を重ねる度にゲオハルトの顔色が悪くなった。

「期限は?」

「期限?そんなものはないが?」

「昨日のような振る舞いをしておいて私を側に置く?屈辱を晴らすために殺されるとは思わないのですか?」

「思わないな。私はお前が思うよりお前のことを知っている。昨晩でもっとよく知れた。私なしでは生きていけなくなるのはすぐだと思うがどうだろうか?」

「……」

 顔を伏せたゲオハルトは沈黙を守った。

「それとも、もう、そうなっているのかな?」

「……」

 リヒトが正面に回り込みゲオハルトの顔を覗き込む。

「言葉に出来ないなら身体に聞くまでだ」

 リヒトは柵に両手を付きゲオハルトが抜け出せないように閉じ込めた。

 ゲオハルトがやっと顔を上げたが背の高さがほぼ変わらないので自然と二人の目線があう。

「なぜ、私なんですか?」

「初恋の人だからだよ」

「私は男です」

「椅子や机じゃないのだから構わないと父は言っていた」

「子は産めません」

「生まれたほうが面倒になる」

「貴方には他の人が相応しい」

「それは私が決めることだな」

「好きな人がおります」

「でも身体は私を受け入れているようだが」

 リヒトはゲオハルトの足の間に己の足を割り込ませた。彼の性器がリヒトの腰にあたる。しっかりと立ち上がったそれは隠すことの出来ない興奮を示していた。

「恥じることはないさ。身体から始まる恋もある。お前が恋しい人を忘れるときまで抱いてやる。心配するな」

 支配者の瞳がゲオハルトを見据えていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

変異型Ωは鉄壁の貞操

田中 乃那加
BL
 変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。  男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。  もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。  奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。  だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。  ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。  それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。    当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。  抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?                

雪解けに愛を囁く

ノルねこ
BL
平民のアルベルトに試験で負け続けて伯爵家を廃嫡になったルイス。 しかしその試験結果は歪められたものだった。 実はアルベルトは自分の配偶者と配下を探すため、身分を偽って学園に通っていたこの国の第三王子。自分のせいでルイスが廃嫡になってしまったと後悔するアルベルトは、同級生だったニコラスと共にルイスを探しはじめる。 好きな態度を隠さない王子様×元伯爵令息(現在は酒場の店員) 前・中・後プラスイチャイチャ回の、全4話で終了です。 別作品(俺様BL声優)の登場人物と名前は同じですが別人です! 紛らわしくてすみません。 小説家になろうでも公開中。

【完結】おじさんはΩである

藤吉とわ
BL
隠れ執着嫉妬激強年下α×αと誤診を受けていたおじさんΩ 門村雄大(かどむらゆうだい)34歳。とある朝母親から「小学生の頃バース検査をした病院があんたと連絡を取りたがっている」という電話を貰う。 何の用件か分からぬまま、折り返しの連絡をしてみると「至急お知らせしたいことがある。自宅に伺いたい」と言われ、招いたところ三人の男がやってきて部屋の中で突然土下座をされた。よくよく話を聞けば23年前のバース検査で告知ミスをしていたと告げられる。 今更Ωと言われても――と戸惑うものの、αだと思い込んでいた期間も自分のバース性にしっくり来ていなかった雄大は悩みながらも正しいバース性を受け入れていく。 治療のため、まずはΩ性の発情期であるヒートを起こさなければならず、謝罪に来た三人の男の内の一人・研修医でαの戸賀井 圭(とがいけい)と同居を開始することにーー。

惚れ薬をもらったけど使う相手がいない

おもちDX
BL
シュエは仕事帰り、自称魔女から惚れ薬を貰う。しかしシュエには恋人も、惚れさせたい相手もいなかった。魔女に脅されたので仕方なく惚れ薬を一夜の相手に使おうとしたが、誤って天敵のグラースに魔法がかかってしまった! グラースはいつもシュエの行動に文句をつけてくる嫌味な男だ。そんな男に家まで連れて帰られ、シュエは枷で手足を拘束された。想像の斜め上の行くグラースの行動は、誰を想ったものなのか?なんとか魔法が解ける前に逃げようとするシュエだが…… いけすかない騎士 × 口の悪い遊び人の薬師 魔法のない世界で唯一の魔法(惚れ薬)を手に入れ、振り回された二人がすったもんだするお話。短編です。 拙作『惚れ薬の魔法が狼騎士にかかってしまったら』と同じ世界観ですが、読んでいなくても全く問題ありません。独立したお話です。

給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき
BL
 魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。  ただ、その食事風景は特殊なもので……。  元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師  まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。  他サイトにも掲載しています。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

処理中です...