ソウシソウアイ?

野草こたつ/ロクヨミノ

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◇五話◇

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 帰りたくなかった。
 正しくは、ランヴァルドに会いたくなかった。
(はぁ……最初から分かっていたことではありませんか)
 ふらふらと街を歩きながらオデットは考える。
 あてもなく歩き続けたせいか、時間としてはそろそろランヴァルドが屋敷に戻ってくるころだろう。
(幸い、私とねえさんは似ていませんし……面影を重ねるようなことはないと思いますが。
 やはり、触れられるのはいやです)
 優しく愛をささやかれて、キスをされて、そんな関係が悲しくてしようがない。
(私はただ、魔術師としてあなたの役にたてればそれでよかったのに)
 妻になりたいなんて、望んでいなかった。
 同僚として、彼の役にたてればそれだけで幸せだったのに。
(いけません、三日後にはおおきな作戦があるのです。
 しっかりしないと……)
 ぱちんと頬をたたいて、屋敷への道を歩きだす。
(いやでもなんでも私はあのひとの妻なのです、役割をはたさなくては……)
 悲しい気持ちがこみあげてくる、むなしさもあった。
 けれどオデットは帰り道を急いだ。

 ……。
 結局、オデットが戻るとすでにランヴァルドは屋敷にいて。
 それはもうすがすがしいほどの作り笑いで出迎えてくれた。
 怒っているのは傍目にもあきらかで、覚悟はしていたのだが。

 現在オデットはベッドの上でランヴァルドにうしろから抱きしめられていた。
 頬をなぞる指先がくすぐったい。
「――あの、ランヴァルド様……眠れません」
 昼間見た姉とランヴァルドのこともあって、今日ははやく寝てしまいたいのに。
 なにより、勘違いしそうになってしまう自分がいやでたまらないのだ。
「オデット、今日もユーグと仲がよさそうだったね」
「っ、見ていらしたのですか⁉」
 オデットからはランヴァルドの表情をうかがえないが、
 唇を彼の指がなぞり、頤をなぞり首筋をたどる。
「きみたちは本当にただの幼馴染かい?」
「疑っていらっしゃるのですか?」
「きみは、彼といるときよく笑うからね」
「そ、れは……」
 ランヴァルドの前で笑顔になれないのは、
 どうしても彼の言葉を信じられないからだ。
 もしも愛されていると思ったら、きっとうれしくて、うれしくて。
 それがもし嘘だったときに、耐えきれなくなってしまう。

「ユーグとはつきあいがながいので、楽なのです。それだけですよ」
「私もきみとはそれなりにながいつきあいだと思うのだがね」
「あ、あなたは、地位も立場も違います。私にとっては雲の上のひとで……っ」
 ランヴァルドの唇がうなじに触れて、オデットの言葉がとだえる。
「そう、じゃあきみにとっては彼のほうが私より身近に感じられるわけだ」
「――ずるいですよ、そんな言いかた」
「やきもちだよ、きみがほかの男にばかり笑いかけて、楽しそうにするから」
「っ……もう、眠りませんか。体調管理をしておきませんと」
 もっともらしいことを言うなり、オデットは目を閉じた。
「お、おやすみなさい、ランヴァルド様」
「……ああ、おやすみ。オデット」
 ランヴァルドは青い瞳を細めて、オデットの髪にキスをする。

 しばらく、彼は起きていた。
 腕のなかですうすうと寝息をたてはじめた無防備なオデットを見つめて。
「……、オデット。私を信じてはくれないのかい」
 ユーグよりも、身近に感じてほしかった。
 たしかにオデットは結婚話がでるより前からランヴァルドに一定の距離を置いていた、その理由も知っている。
 だが、ランヴァルドよりもユーグのほうを身近に感じるという言葉を聞いたとき。
 彼女の声がかれるまで啼かせてやりたいと思った。
「……、おやすみ、オデット」
 愛しているのに、壊してしまいたくなる。
 その矛盾を抱えながら、ランヴァルドも眠りについた。
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