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二部
◇外伝:ザクセン◆
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彼がオデットを見かけたのは偶然だった。
久しぶりにランヴァルドの家を訪ねたついでに、こちらの騎士団の様子を見たいと頼んで来たときに――。
茶色のさらさらとした長い髪をサイドポニーにした、
華奢で、透き通るような白い肌の少女。
紫色の宝石のような瞳がこちらを見て、胸が高鳴るのを感じた。
だが同時に、彼女が見たのは自分ではない、隣を歩いている幼馴染であるときづく。
淡く頬を染めて恥じらうように目をそらした彼女を見て、彼女がこの男をどう思っているのかすぐに分かった。
この時ほど、ランヴァルドのことを疎ましく思ってしまったことはない。
友人であるだけに、罪悪感はあったのだが、その黒い感情を拭うことはできなかった。
それからも、こちらの騎士団に来ることがあれば彼女の姿を探していた。
合同演習があったときにも彼女の姿を探したが、どうやら普通の騎士ではないようで、その場にはいなかった。
後方支援に徹する治癒系統の所属か、あるいは魔術師の所属なのかもしれない。
なんにせよ、会えないときには残念に思うものだった。
その日も、こちらの王国へ姫の護衛として行くようにと命じられ、
やって来たはいいものの……。
『ザクセンはどっか行ってて、あなたがそばにいるとカビやキノコでもはえそうだわ』
と、いつも通り容姿のことを指摘されて護衛からはずされた。
それ自体は慣れているので、これ幸いと街を歩いていると、
泥棒、という声を聞いてそちらに駆けだした。
その泥棒、らしき人物は魔術によって転び――、
その魔術をはなったのであろう少女に視線を向けてザクセンは驚いた。
それはいつもいつも、こちらに来るたびに探していた少女。
その日は騎士の制服ではなく、可愛らしいドレス姿で、思わず目をうばわれた。
――彼女は魔術師だったのか。
だが、無防備にも武器も携帯せず男に近づいていく彼女を見て、あわてて走り出した。
いくら魔術が使えても、詠唱なしにはなてるわけではない。
相手が凶器を持っていればケガをしかねない。
かわりに男を拘束し、そのあと彼女に名前をたずねた。
しかし、その返答にザクセンの思考は一瞬停止した。
「オデット・アーノルトです」
アーノルト? それは幼馴染の姓ではないだろうか?
兄妹? いやそんなはずはない、彼女には姉がいて、そもそも家は違うはずで。
ということはなんらかの理由で彼の家に?
などと考えてなんとか言葉を絞りだすと、彼女は幸せそうに微笑んで告げた。
「まあ、ランヴァルド様をご存知なのですか? ふふっ、私はあのかたの妻になります」
――妻?
愕然とした。
あの男いつのまにしでかしてくれたのか。
だが、彼と立場が逆であれば同じようにするであろう確信があるのであまり文句も言えないのだが。
……。
「アンタあたしにあのじゃじゃうま押しつけてどこほっつき歩いてやがったンだこのくそ野郎ォ!」
普段ならまるで縁のない高級な宿屋に戻ってくると、鬼のような形相のアニタに出迎えられた。
「今はおまえの小言を聞いてる余裕はないんだほっといてくれ」
ぐったりとして部屋に戻っていこうとするザクセンを見て、アニタは片眉をあげる。
「ははーん? さては失恋ね? オンナね? あんたがしつこく追っかけてた美少女が人妻にでもなってたー?」
「……アニタ、おまえまさか知ってたんじゃないだろうな」
性格の悪いことで有名な同僚に、まさかと思い問いかけた。
「有っ名だもの! うちの女部隊にもダンナさまのあの騎士様に憧れてたコは多かったんだから!」
「知っていたなら教えてくれ!」
「どーせアンタいつもどおり手紙とかほったらかしにしてあるんでしょ?
その中にあったんじゃないの? 結婚式への招、待、状」
「誰が行くか!」
今にも倒れこみそうなほど憔悴しているザクセンをアニタは面白そうに見て言う。
「噂じゃ奥様のほうはいま身籠ってるらしーわよ、ご愁傷様」
「――このこと覚えておけよアニタ、いつかなにかしら仕返ししてやるからな」
それだけ言うと、ザクセンは部屋に戻っていった。
「……ま、これから一波乱ありそーだけどネ」
一言そう呟いて、アニタも姫の居る部屋へ戻ったのだった。
久しぶりにランヴァルドの家を訪ねたついでに、こちらの騎士団の様子を見たいと頼んで来たときに――。
茶色のさらさらとした長い髪をサイドポニーにした、
華奢で、透き通るような白い肌の少女。
紫色の宝石のような瞳がこちらを見て、胸が高鳴るのを感じた。
だが同時に、彼女が見たのは自分ではない、隣を歩いている幼馴染であるときづく。
淡く頬を染めて恥じらうように目をそらした彼女を見て、彼女がこの男をどう思っているのかすぐに分かった。
この時ほど、ランヴァルドのことを疎ましく思ってしまったことはない。
友人であるだけに、罪悪感はあったのだが、その黒い感情を拭うことはできなかった。
それからも、こちらの騎士団に来ることがあれば彼女の姿を探していた。
合同演習があったときにも彼女の姿を探したが、どうやら普通の騎士ではないようで、その場にはいなかった。
後方支援に徹する治癒系統の所属か、あるいは魔術師の所属なのかもしれない。
なんにせよ、会えないときには残念に思うものだった。
その日も、こちらの王国へ姫の護衛として行くようにと命じられ、
やって来たはいいものの……。
『ザクセンはどっか行ってて、あなたがそばにいるとカビやキノコでもはえそうだわ』
と、いつも通り容姿のことを指摘されて護衛からはずされた。
それ自体は慣れているので、これ幸いと街を歩いていると、
泥棒、という声を聞いてそちらに駆けだした。
その泥棒、らしき人物は魔術によって転び――、
その魔術をはなったのであろう少女に視線を向けてザクセンは驚いた。
それはいつもいつも、こちらに来るたびに探していた少女。
その日は騎士の制服ではなく、可愛らしいドレス姿で、思わず目をうばわれた。
――彼女は魔術師だったのか。
だが、無防備にも武器も携帯せず男に近づいていく彼女を見て、あわてて走り出した。
いくら魔術が使えても、詠唱なしにはなてるわけではない。
相手が凶器を持っていればケガをしかねない。
かわりに男を拘束し、そのあと彼女に名前をたずねた。
しかし、その返答にザクセンの思考は一瞬停止した。
「オデット・アーノルトです」
アーノルト? それは幼馴染の姓ではないだろうか?
兄妹? いやそんなはずはない、彼女には姉がいて、そもそも家は違うはずで。
ということはなんらかの理由で彼の家に?
などと考えてなんとか言葉を絞りだすと、彼女は幸せそうに微笑んで告げた。
「まあ、ランヴァルド様をご存知なのですか? ふふっ、私はあのかたの妻になります」
――妻?
愕然とした。
あの男いつのまにしでかしてくれたのか。
だが、彼と立場が逆であれば同じようにするであろう確信があるのであまり文句も言えないのだが。
……。
「アンタあたしにあのじゃじゃうま押しつけてどこほっつき歩いてやがったンだこのくそ野郎ォ!」
普段ならまるで縁のない高級な宿屋に戻ってくると、鬼のような形相のアニタに出迎えられた。
「今はおまえの小言を聞いてる余裕はないんだほっといてくれ」
ぐったりとして部屋に戻っていこうとするザクセンを見て、アニタは片眉をあげる。
「ははーん? さては失恋ね? オンナね? あんたがしつこく追っかけてた美少女が人妻にでもなってたー?」
「……アニタ、おまえまさか知ってたんじゃないだろうな」
性格の悪いことで有名な同僚に、まさかと思い問いかけた。
「有っ名だもの! うちの女部隊にもダンナさまのあの騎士様に憧れてたコは多かったんだから!」
「知っていたなら教えてくれ!」
「どーせアンタいつもどおり手紙とかほったらかしにしてあるんでしょ?
その中にあったんじゃないの? 結婚式への招、待、状」
「誰が行くか!」
今にも倒れこみそうなほど憔悴しているザクセンをアニタは面白そうに見て言う。
「噂じゃ奥様のほうはいま身籠ってるらしーわよ、ご愁傷様」
「――このこと覚えておけよアニタ、いつかなにかしら仕返ししてやるからな」
それだけ言うと、ザクセンは部屋に戻っていった。
「……ま、これから一波乱ありそーだけどネ」
一言そう呟いて、アニタも姫の居る部屋へ戻ったのだった。
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