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二部
◇噂話◆
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……それからしばらく経った頃。
ランヴァルドは明朝に出て深夜に戻るのをくりかえしていて、オデットは彼の身体が心配でならなかった。
すこし、さしいれを持ってようすを見に行こうと屋敷を出たのだが、騎士団につくなり彼は留守だということと、昔の同僚たちが口々に同じようなことを言い始めた。
「オデット、副団長とはうまくやれてるの? なんだか最近、あなたたちがうまくいってないって噂をよく聞くわ」
一人目はそんなことを言っていた。
「なんだか副団長、とっても隣国のお姫様に気にいられたみたいだね。オデット、あなたと別れて私と一緒になってって、誘われてるみたいよ」
副団長にかぎってありえないけどね、と、二人目はそんなことを言っていた。
三人目はユーグだった。
「副団長に会いに来たのか? あのひとならいないぞ、いつもいつも姫君に連れまわされてるからな」
どうやら今ランヴァルドが護衛しているのは隣国の姫君のようだし、
連れまわされているというのも分からないではないのだが……。
「そんな顔するなよオデット、あのひとなら問題ないだろ。
あんまり考えると身体に障るぞ」
「そう、ですね……ありがとうございます、ユーグ」
微笑んでそう言って、彼とわかれ街に出ようとしたときだった。
「あら? あらあらぁ~? もしかしてアーノルト伯爵夫人ですかぁ?」
「え?」
ふりかえると桃色の髪に薄い緑の瞳を持つ女性騎士に声をかけられた。
「どちらさまでしょう?」
「あぁ、すみませぇん、驚かせちゃいましたよねぇ?
わたし、アニタ=ローレリアと申します、昨日は同僚のザクセンさんがお世話になったと聞きましてぇ、ぜひぜひっ、お礼をしないとと思いまして~」
やけに媚びた口調、にこにこと微笑み、にじりよってくるその迫力にオデットはわずかにあとずさった。
「あ、あの、お礼でしたら、だいじょうぶですからっ」
「まぁ~っ! 謙虚でいらっしゃるのですね! でもでもっ、これっ、いまこっちの王都ではやっているものなんですけど、どうぞぉっ」
「あ、ありがとうございます……」
隣の国の焼き菓子をさしだされ、オデットはおずおずとそれを受け取った。
なぜだろう、悪い人には見えないが、同時にいい人にも見えない。
あからさまな演技に恐怖さえ感じる。
「おいアニタ、そのひとが困ってるだろう、やめろ気持ち悪い」
ふと昨日聞いた声がして、オデットはそちらへ視線を向けた。
「ふえぇ~? 気持ち悪いなんてザクセンさんってばなにゆってるんですかぁ?
わたしぃ、いつもどおりですよお?」
「もういいどっか行け、露骨に媚び売りやがって」
一瞬舌打ちが聞こえたような気はしたのだが、オデットは気のせいだと自らに言い聞かせた。
これ以上踏みこんではいけない気がする。
「もうしわけありませんオデット様、うちの同僚が失礼を」
「――あの、私にそんな言葉づかいは必要ありません、すくなくとも今は公の場ではないのですし、普通に接してくださると……」
「……そうか、ではそのようにさせてもらう。ありがとう、オデット」
「はい。そのほうがおちつきます」
微笑むオデットを見て、ザクセンは青い瞳を優しげに細めた。
……しかし、とてもおおきな疑問がたった今わいた。
「お二人は姫様の護衛でいらしたのでは、ないのですか?」
なぜおそらくそのために来ている二人が、ここに居るのか?
「えーっとぉ、それは話せば長いような短いようななんですけどぉ、
簡単に言うとこんなキノコはえそうな見た目陰気のモブとは一緒に居たくないそうでぇ」
「そしてこんなあからさまな性格ブスの女を護衛に連れて行きたくはない、という理由から俺たちは置いて行かれたわけだ」
心なしかザクセンとアニタのあいだで冷気が漂っている気がする。
「まっ、はやい話が真っ白な王子系騎士様と二人きりでデートしたいからだそうですっ!」
アニタの言葉に、オデットはちくりと胸が痛んだ。
なるほど、噂は嘘でもないようだ。
(ランヴァルド様がそうなのはいつものことですし……)
重いため息がこぼれそうになった。
彼は女性に好まれる、かんたんに想像できる話だ。
「すまないオデット、きみにはつらいことだろうが……しばらく辛抱してくれると助かる」
「だいじょうぶですよ、ランヴァルド様は昔からそうでしたし」
「……きみはよくそのうえであいつと一緒にいられるな」
「そ、それは……その……」
頬を赤くそめて恥じらうオデットを見て、ザクセンの笑顔が固まったような気がしたが、彼はかぶりを振るとオデットに手をさしのべた。
「屋敷へ戻るんだろう? おくっていこう」
「そんな、ひとりで――」
「昨日のようになにが起きるか分からないんだ、身重のきみをひとりで帰すことはできない」
「……、ありがとうございます」
オデットはザクセンの手をとり、二人で歩きだした。
それを見送って、アニタはちいさく舌打ちをする。
「――ったく、いくら初恋でも人妻になっちまったンなら諦めなってのに」
しかも身籠ってるし、と、つけたしながら、彼女は彼女で行動を開始した。
ランヴァルドは明朝に出て深夜に戻るのをくりかえしていて、オデットは彼の身体が心配でならなかった。
すこし、さしいれを持ってようすを見に行こうと屋敷を出たのだが、騎士団につくなり彼は留守だということと、昔の同僚たちが口々に同じようなことを言い始めた。
「オデット、副団長とはうまくやれてるの? なんだか最近、あなたたちがうまくいってないって噂をよく聞くわ」
一人目はそんなことを言っていた。
「なんだか副団長、とっても隣国のお姫様に気にいられたみたいだね。オデット、あなたと別れて私と一緒になってって、誘われてるみたいよ」
副団長にかぎってありえないけどね、と、二人目はそんなことを言っていた。
三人目はユーグだった。
「副団長に会いに来たのか? あのひとならいないぞ、いつもいつも姫君に連れまわされてるからな」
どうやら今ランヴァルドが護衛しているのは隣国の姫君のようだし、
連れまわされているというのも分からないではないのだが……。
「そんな顔するなよオデット、あのひとなら問題ないだろ。
あんまり考えると身体に障るぞ」
「そう、ですね……ありがとうございます、ユーグ」
微笑んでそう言って、彼とわかれ街に出ようとしたときだった。
「あら? あらあらぁ~? もしかしてアーノルト伯爵夫人ですかぁ?」
「え?」
ふりかえると桃色の髪に薄い緑の瞳を持つ女性騎士に声をかけられた。
「どちらさまでしょう?」
「あぁ、すみませぇん、驚かせちゃいましたよねぇ?
わたし、アニタ=ローレリアと申します、昨日は同僚のザクセンさんがお世話になったと聞きましてぇ、ぜひぜひっ、お礼をしないとと思いまして~」
やけに媚びた口調、にこにこと微笑み、にじりよってくるその迫力にオデットはわずかにあとずさった。
「あ、あの、お礼でしたら、だいじょうぶですからっ」
「まぁ~っ! 謙虚でいらっしゃるのですね! でもでもっ、これっ、いまこっちの王都ではやっているものなんですけど、どうぞぉっ」
「あ、ありがとうございます……」
隣の国の焼き菓子をさしだされ、オデットはおずおずとそれを受け取った。
なぜだろう、悪い人には見えないが、同時にいい人にも見えない。
あからさまな演技に恐怖さえ感じる。
「おいアニタ、そのひとが困ってるだろう、やめろ気持ち悪い」
ふと昨日聞いた声がして、オデットはそちらへ視線を向けた。
「ふえぇ~? 気持ち悪いなんてザクセンさんってばなにゆってるんですかぁ?
わたしぃ、いつもどおりですよお?」
「もういいどっか行け、露骨に媚び売りやがって」
一瞬舌打ちが聞こえたような気はしたのだが、オデットは気のせいだと自らに言い聞かせた。
これ以上踏みこんではいけない気がする。
「もうしわけありませんオデット様、うちの同僚が失礼を」
「――あの、私にそんな言葉づかいは必要ありません、すくなくとも今は公の場ではないのですし、普通に接してくださると……」
「……そうか、ではそのようにさせてもらう。ありがとう、オデット」
「はい。そのほうがおちつきます」
微笑むオデットを見て、ザクセンは青い瞳を優しげに細めた。
……しかし、とてもおおきな疑問がたった今わいた。
「お二人は姫様の護衛でいらしたのでは、ないのですか?」
なぜおそらくそのために来ている二人が、ここに居るのか?
「えーっとぉ、それは話せば長いような短いようななんですけどぉ、
簡単に言うとこんなキノコはえそうな見た目陰気のモブとは一緒に居たくないそうでぇ」
「そしてこんなあからさまな性格ブスの女を護衛に連れて行きたくはない、という理由から俺たちは置いて行かれたわけだ」
心なしかザクセンとアニタのあいだで冷気が漂っている気がする。
「まっ、はやい話が真っ白な王子系騎士様と二人きりでデートしたいからだそうですっ!」
アニタの言葉に、オデットはちくりと胸が痛んだ。
なるほど、噂は嘘でもないようだ。
(ランヴァルド様がそうなのはいつものことですし……)
重いため息がこぼれそうになった。
彼は女性に好まれる、かんたんに想像できる話だ。
「すまないオデット、きみにはつらいことだろうが……しばらく辛抱してくれると助かる」
「だいじょうぶですよ、ランヴァルド様は昔からそうでしたし」
「……きみはよくそのうえであいつと一緒にいられるな」
「そ、それは……その……」
頬を赤くそめて恥じらうオデットを見て、ザクセンの笑顔が固まったような気がしたが、彼はかぶりを振るとオデットに手をさしのべた。
「屋敷へ戻るんだろう? おくっていこう」
「そんな、ひとりで――」
「昨日のようになにが起きるか分からないんだ、身重のきみをひとりで帰すことはできない」
「……、ありがとうございます」
オデットはザクセンの手をとり、二人で歩きだした。
それを見送って、アニタはちいさく舌打ちをする。
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