2 / 9
02.惚れ薬
しおりを挟む
それから数日、ポリーヌは落ち込んでいた。
「お姉さま、どうしたの?」
自室にこもって、ぼんやりと窓の外を見つめていると、妹のマノンがやって来た。
マノンは一つ年下で、十六歳の愛らしい少女だ。
「マノン……」
「最近、元気ないわね。何かあったの?」
「いいえ、大したことでは……」
ポリーヌは言い淀んだ。自分の恋の悩みなど、妹には聞かせにくい。
「……やっぱり、こんな茶色の髪と瞳の地味な女より、華やかな金髪に青い目の美人の方が、いいに決まってるわよね」
それでもつい、弱音が口から漏れてしまう。
ポリーヌは、自分の髪を一房つまんで、ため息をついた。
「え? お姉さま、急にどうしたの?」
マノンは驚いて姉を見つめてくる。
「私って地味だし、美人でもないし……。ジェレミーさまもきっとそう思ってるんだわ」
ポリーヌがまたため息をつくと、マノンは呆れたように言った。
「私も同じ色なんだけれど」
「マノンは巻き毛が可愛いし、明るくて人気者じゃない。私とは正反対」
ポリーヌはうなだれた。
「お姉さま、ジェレミーさまが好きなの?」
「え……」
ポリーヌは驚いて顔を上げる。
すると、目の前の妹は悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「やっぱり、そうなのね! 政略結婚でも、好きになることはあるわよね。良かったじゃない!」
「え、ええ……」
ポリーヌは、マノンの勢いに押されて頷いた。
「でも、ジェレミーさまは……」
見知らぬ令嬢と一緒にいたジェレミーのことを思い出し、ポリーヌはまた落ち込んでしまう。
マノンは、そんな姉を見てため息をついた。
「お姉さまは、ちょっと自信がなさすぎなのよ。でも、安心して! 実は、こんなものを用意したの!」
そう言って、マノンはポリーヌに小箱を差し出した。
「これは?」
ポリーヌは、小箱を開けてみる。
中に入っていたのは、花びらを使った可愛らしい砂糖菓子だった。ほのかに甘い香りが漂ってくる。
「惚れ薬よ!」
マノンは、胸を張って言った。
「惚れ薬……?」
「ええ。このお砂糖にはね、恋の魔法がかけられているの。これを食べさせれば、ジェレミーさまもお姉さまの虜よ!」
マノンは自信満々に言う。
ポリーヌは、じっと手の中にある砂糖菓子を見つめた。
「でも、惚れ薬なんて……禁制品じゃないの?」
「大丈夫! これは危険な薬ではなく、おまじない程度だから。それに、お姉さまがジェレミーさまに振り向いてもらえないと、私も困るのよ」
「え?」
ポリーヌは首を傾げた。
マノンは、姉を元気づけるように言った。
「だってお姉さまが無事に結婚してくれないと、私の縁談もこじれちゃうもの。早く幸せになってもらわないと困るわ」
「え、ええ……」
ポリーヌは戸惑ったが、妹に励まされたことで胸が温かくなった。
「ありがとう、マノン」
そう言って微笑んだポリーヌに、マノンも笑みを返した。
「お姉さま、どうしたの?」
自室にこもって、ぼんやりと窓の外を見つめていると、妹のマノンがやって来た。
マノンは一つ年下で、十六歳の愛らしい少女だ。
「マノン……」
「最近、元気ないわね。何かあったの?」
「いいえ、大したことでは……」
ポリーヌは言い淀んだ。自分の恋の悩みなど、妹には聞かせにくい。
「……やっぱり、こんな茶色の髪と瞳の地味な女より、華やかな金髪に青い目の美人の方が、いいに決まってるわよね」
それでもつい、弱音が口から漏れてしまう。
ポリーヌは、自分の髪を一房つまんで、ため息をついた。
「え? お姉さま、急にどうしたの?」
マノンは驚いて姉を見つめてくる。
「私って地味だし、美人でもないし……。ジェレミーさまもきっとそう思ってるんだわ」
ポリーヌがまたため息をつくと、マノンは呆れたように言った。
「私も同じ色なんだけれど」
「マノンは巻き毛が可愛いし、明るくて人気者じゃない。私とは正反対」
ポリーヌはうなだれた。
「お姉さま、ジェレミーさまが好きなの?」
「え……」
ポリーヌは驚いて顔を上げる。
すると、目の前の妹は悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「やっぱり、そうなのね! 政略結婚でも、好きになることはあるわよね。良かったじゃない!」
「え、ええ……」
ポリーヌは、マノンの勢いに押されて頷いた。
「でも、ジェレミーさまは……」
見知らぬ令嬢と一緒にいたジェレミーのことを思い出し、ポリーヌはまた落ち込んでしまう。
マノンは、そんな姉を見てため息をついた。
「お姉さまは、ちょっと自信がなさすぎなのよ。でも、安心して! 実は、こんなものを用意したの!」
そう言って、マノンはポリーヌに小箱を差し出した。
「これは?」
ポリーヌは、小箱を開けてみる。
中に入っていたのは、花びらを使った可愛らしい砂糖菓子だった。ほのかに甘い香りが漂ってくる。
「惚れ薬よ!」
マノンは、胸を張って言った。
「惚れ薬……?」
「ええ。このお砂糖にはね、恋の魔法がかけられているの。これを食べさせれば、ジェレミーさまもお姉さまの虜よ!」
マノンは自信満々に言う。
ポリーヌは、じっと手の中にある砂糖菓子を見つめた。
「でも、惚れ薬なんて……禁制品じゃないの?」
「大丈夫! これは危険な薬ではなく、おまじない程度だから。それに、お姉さまがジェレミーさまに振り向いてもらえないと、私も困るのよ」
「え?」
ポリーヌは首を傾げた。
マノンは、姉を元気づけるように言った。
「だってお姉さまが無事に結婚してくれないと、私の縁談もこじれちゃうもの。早く幸せになってもらわないと困るわ」
「え、ええ……」
ポリーヌは戸惑ったが、妹に励まされたことで胸が温かくなった。
「ありがとう、マノン」
そう言って微笑んだポリーヌに、マノンも笑みを返した。
333
あなたにおすすめの小説
私の婚約者は失恋の痛手を抱えています。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
幼馴染の少女に失恋したばかりのケインと「学園卒業まで婚約していることは秘密にする」という条件で婚約したリンジー。当初は互いに恋愛感情はなかったが、一年の交際を経て二人の距離は縮まりつつあった。
予定より早いけど婚約を公表しようと言い出したケインに、失恋の傷はすっかり癒えたのだと嬉しくなったリンジーだったが、その矢先、彼の初恋の相手である幼馴染ミーナがケインの前に現れる。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります
柚木ゆず
恋愛
婚約者様へ。
昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。
そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?
もうすぐ婚約破棄を宣告できるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ。そう書かれた手紙が、婚約者から届きました
柚木ゆず
恋愛
《もうすぐアンナに婚約の破棄を宣告できるようになる。そうしたらいつでも会えるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ》
最近お忙しく、めっきり会えなくなってしまった婚約者のロマニ様。そんなロマニ様から届いた私アンナへのお手紙には、そういった内容が記されていました。
そのため、詳しいお話を伺うべくレルザー侯爵邸に――ロマニ様のもとへ向かおうとしていた、そんな時でした。ロマニ様の双子の弟であるダヴィッド様が突然ご来訪され、予想だにしなかったことを仰られ始めたのでした。
記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
初恋の人を思い出して辛いから、俺の前で声を出すなと言われました
柚木ゆず
恋愛
「俺の前で声を出すな!!」
マトート子爵令嬢シャルリーの婚約者であるレロッズ伯爵令息エタンには、隣国に嫁いでしまった初恋の人がいました。
シャルリーの声はその女性とそっくりで、聞いていると恋人になれなかったその人のことを思い出してしまう――。そんな理由でエタンは立場を利用してマトート家に圧力をかけ、自分の前はもちろんのこと不自然にならないよう人前で声を出すことさえも禁じてしまったのです。
自分の都合で好き放題するエタン、そんな彼はまだ知りません。
その傍若無人な振る舞いと自己中心的な性格が、あまりにも大きな災難をもたらしてしまうことを。
※11月18日、本編完結。時期は未定ではありますが、シャルリーのその後などの番外編の投稿を予定しております。
※体調の影響により一時的に、最新作以外の感想欄を閉じさせていただいております。
【完結】愛していないと王子が言った
miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。
「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」
ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。
※合わない場合はそっ閉じお願いします。
※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる