日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨

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第85話 車列ハ愈々えるふノ里ヘ

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 ハ号、九五式軽戦車を先頭に、車列は前進を続けた。
 
 道は、乾燥して硬い路面ではあるが、特に舗装もされていないので、雨降り時に泥濘を掘り返された凸凹がそのまま残っていて、結構荒れている。

 だから、車列は、慎重を期して時速15㎞ほどにスピードを落として走っているが、履帯で走るハ号や軽装甲、装甲兵車は、巻き上げる砂埃はともかく路面はさほど気にしないものの、車輪タイヤで走る乗用車と自動貨車トラックは、路面の凹凸をもろに拾ってしまうため、ひどく揺れていた。

「イタタタ…。お尻が痛いったらありゃしない。これじゃ、馬車の方がマシだわ。」

 ターニャが愚痴っぽく言うと、朝日大尉が

「あんまり喋っていると舌を噛むぜ、ターニャさん。それなら、『道を舗装する魔法』でも使ってみたらどうだい。」

とからかうように言った。

「こんな悪路、魔術でもどうにもならないと思うわ。あっ、またイタタ…。」

 九五式乗用車は、四起(4DW)ではあるが、乗用車であるからタイヤは小さめで、余計に道路の凹凸を拾ってしまう。
 もっとも、トラックも、物資を積載して重くなっていたから、悪路での揺れ方はこれまた酷いものであった。

 朝日は、大陸の悪路を思い出しながら、鼻歌のように歌い始めた。

  降れば泥濘 吹けば砂塵すな
  弾丸にゃ恐れぬ俺達も 
  泣けた悪路の幾百里
  よくも此処まで乗り切った
  流石自慢の国産車
  
  頼むタイヤとハンドルに
  生命いのちを懸けてまっしぐら
  敵地を衝いた勲功いさをし
  俺の度胸や腕よりも
  誇る快速はやさがもの言った

  補給の任務も通信も
  果たせど休む暇もない
  警備終わればしらじらと
  明ける東が故郷くにの空
  征くぞ明日も難コース

  自動車くるまと俺の魂が
  一つになって乗っ越した
  見ろよ山地のあの高さ
  今宵は休め故郷ふるさと
  村の木陰を夢に見る

  征野千里のそら晴れて
  今こそ仰ぐ日の御稜威みいつ
  轍も軽く大陸に
  響くエンジン勇ましく
  進む我等は自動車隊

 彼が大陸で戦っていた頃、輜重隊の運転兵が歌っていた「自動車部隊の歌」である。

 朝日が気が付くと、いつの間にか、運転の伍長も一緒に歌っている。

 ターニャが同乗しているが、前方を行く戦車のエンジンと履帯の音、それに車内に響く乗用車のVツインエンジンの独特の音が、塩梅良く下手くそな歌声を搔き消してくれている。

「戦車の轟音といい、俺たちの歌声といい、この静かな森の中じゃあ、どちらも騒音だな。」

 朝日が伍長に話し掛けると

「大尉殿は格別、自分のは完全に騒音でありますが、こういう運転も良いものであります。」

 伍長は、愉快そうに言った。

「何言ってんのよ。傍にいるアタシは堪んないわよ。」

 ターニャがむくれて言った。 

 自動貨車トラックといえば、戦車連隊の兵站段列隊にも配備されているが、朝日にとっては、あまり物を運ぶ輜重という感じはしなかった。

  嗚呼神州の空高く
  聳ゆる扶桑の揺るぎなく
  国の干城と集ひたる
  我に股肱の栄誉あり

  健軍遠き昔より
  正義に刃向かふ敵もなく
  意気軒高の益荒男が
  襟に輝く藍の色

「まぁた色々と歌うわね。今度は何の歌?」

 気分良さそうに鼻歌を歌う朝日に、ターニャが茶々を入れた。

「これは『輜重兵の歌』だよ。」
「シチョウヘイ?」

 難しそうな言葉に、ターニャが怪訝そうな顔をする。

「あー、弾薬や糧秣を輸送する部隊のことだよ。」
「へー、地味な部隊ね。」

 率直な物言いに、朝日は苦笑した。

「地味だが大切なんだ。昔から日本じゃ『腹が減っては戦ができぬ』って言うぐらいだからな。」
「まあ、そうね。それで、二ホン軍のシチョウヘイは、みんな、こんな便利な『ジドウシャ』に乗っているの?」
「いやぁ、それは敵の米軍だな。残念ながら我が日本軍は万年の車輛不足でね。馬もまだたくさん使っている。だから、さっきの輜重兵の歌も、先へ進むと『進めや馬の口をとり…』っていう歌詞があるんだ。」
「あら、そういうところは、どこの世界でも同じなのね。」

 ターニャは、妙に納得したように言った。

 車列が30分ほど進んだところで、鬱蒼とした森の前方が、明るく見えてきた。

 もうすぐ平地に出る前兆である。

 朝日は、完全に森を抜ける手前で車列を停止させた。
 それから、車列を、元の通り乗用車を先頭に並び替え、装甲兵車から斥候2名を出し、森の端の草藪から、前方を偵察させた。

 相手のエルフ族も、おそらくは、車列が森の中を前進中、誰かしらが監視していたのに違いなかったが、先ほどの襲撃以来、罠も襲撃もないところをみると、相手には、こちらの前進を止める意図はないと察せられる。

「森の前方約300mに集落があり、人影もちらほら見えますが、特に警戒している様子はありません。」

 斥候に出た兵長が、朝日に報告した。

「よし、ご苦労。」

 そう言ってから朝日は、装甲兵車に乗っていた鹿島少尉とエルフ傭兵ノアを呼び寄せ

「すまんが、二人は車列の前で先行してくれ。人の盾という訳ではないが、貴様…貴公らはエルフ族に顔が利くからな。よろしく頼む。万が一の時は、まあ、その場に伏せるとか、最良と思われる行動を採ってくれ。」

と頼んだ。
 頼みというより命令に近いが、朝日にはノアに命令する権限はないから、一応、依頼の形を執った。

「承知しました。」
「委細承知。」

 鹿島は敬礼をし、ノアは言った後で黙礼をして、車列の先頭に立った。

 一行は、いよいよエルフの里へ入る。
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