日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨

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第84話 「ハ号」ノ装甲ハ弓矢ヨリ強靭ナリ

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 鹿島少尉が手にした玉飾りから発せられた光は、やがて10mほどの上空で金色の光の環となり、回転を始めた。

 その回転の勢いが、環の外側へ伝播して行くと、車列の周囲を覆っていた靄を、遠心分離器に掛けた様に吹き飛ばし、スッキリと遠くを見渡せるようになった。
 そして、靄が完全に払われたかと思うと、光の環は、鹿島が手にした玉飾りに吸い込まれるように消滅した。

「何だこれは?」

 鹿島が呆れたように言うと

「これは、魔術払いの魔術ね。玉飾りの玉の中に、強い魔力で周囲の魔術を払ったり封じたりする術式を込めてあったのでしょうね。」

 ターニャが説明した。

「なるほど。ターニャ殿は、魔術に詳しいのでありますか?」

 説明を聞いた鹿島が反問すると、ターニャはケラケラ笑いながら答えた。

「アタシは魔術師じゃあないわよ。魔力もないしね。だから、ソフィアさんから玉に込められた魔術の説明はされたけれど、使い方は分からなかったって訳。まあ、その場になれぼ自然に発動するようになってたらしいわね。」
「なんだかいい加減でありますなぁ。」

 鹿島はキツネに抓まれたような顔をしている。

「鹿島少尉殿。ノア殿によれば、前方に見える森の向こう側にエルフの集落があるとのことであります。」

 装甲兵車で傍らにいた兵長がやって来て、鹿島に報告した。

「分かった。前進を再開しよう。大尉殿、よろしくありますか。」

 鹿島が朝日大尉に申し向けると、朝日は

「よし。」

と一言だけ答えた。

「しゅっぱーつ!」

 鹿島が大きな声で命じると、車列は動き出し、彼は動き始めた装甲兵車に側面の扉からヒョイと飛び乗った。

「そういえば、俺は森を抜けて来たっけな。」

 鹿島は、デ・ノーアトゥーンへの往路を思い出していた。

「それにしても、『石兵八陣』ってのは、諸葛亮孔明が陸遜に仕掛けた魔法か何かだったんじゃないか。三国志じゃあ、赤壁の戦いの『東南の風』みたいに、何でもありだからな。」

 同時に彼は、そんな変ことを考えていた。

 鹿島の思いはともかくとして、車列は森の中に進入して行った。
 道は、ほぼ真っ直ぐに続く一本道である。

 しばらく進むと、道の両側から一本ずつ、実に意味あり気に切り倒された丸太が転がされていた。
 これは、どう考えても罠か待ち伏せを示唆している。

 やむを得ず、車列はいったん停止した。

「『ハ号』は前へ出て進路を啓開、軽装甲は最後尾に回り、後ろからの襲撃に備えよ。装甲兵車は、全周を警戒せよ。」

 朝日大尉からの無線による指示があり、車列はその順番を入れ替えた。

「ハ号」、即ち九五式軽戦車の車長小林少尉は、砲塔から上半身を出し、前後に分かれたハッチの前半分に身を隠しながら、双眼鏡で前方を観察している。
 
 装甲兵車では、両側面を軽機関銃を構えた兵が警戒し、前後は、歩兵銃を構えた兵が数人、様子を探っており、最後尾の軽装甲車は、重機関銃を備えた砲塔を左右にゆっくりと振って、後方を警戒している。

 一同、緊張の中、しばらくは、木々の葉擦れや鳥の鳴き声だけが聞こえる静寂が続いていた。

 突然、車列の斜め前方の木立の中から

  ヒュッ ヒュッ ヒュッ…

と音がして何かが飛来し、小林少尉が盾代わりにしているハッチの前半分に当たり

  カツン カツン カツン…

といって弾き返された。

 放たれた矢である。

「敵襲ーッ!」

 小林少尉が大声で叫び車内へ潜り込み、矢が飛んで来ている方向へ37粍主砲を向けた時、装甲兵車から、飛んで来る矢をものともせずに傭兵ノアが走り出して来て車列の前方へ飛び出し、今までの寡黙さが嘘だったような大声で

「射るなっ!我はエルフ族傭兵ノアなり。今回は、故あって日本陸軍の皆様とエルフの里へ参ったものである。ここに、かの鹿島殿もおわす。いずれ、戦う意思はなきものである故、この場をお通し願いたい!」

と啖呵を切った。

 すると、前方の木立の間から

  ヒューイ

という鳥の鳴き声のような音がしたかと思うと飛来する矢が止み、元の静寂さが辺りを支配した。

「よろしいかと存ずる。」
 
 ノアは、後方の車列を振り返ると頷き、元の寡黙な彼に返ったかのように、一言だけ発した。

 それでも、先頭の軽戦車の小林少尉は、前方を舐めるように双眼鏡で見渡した後に、後方の乗用車の朝日に向かって左手を上げ

「前進ヨロシ」

の合図をした。

 朝日も、その合図を見てから

「前進する。前へッ!」

と無線で指示を出し、車列は前進を再開した。

 小林のヘッドセットがジジっと鳴り、前方機銃手の伍長が話し掛けて来た。

「少尉殿。自分らは招かれざる客のようであります。」
「そうだな。とりあえず歓迎されてはおらんな。もっともさっきは別の意味で歓迎されたが。」
「まったくであります。自分も、点視孔目掛けて矢が飛んで来た時は、ヒヤリとしたのでありますよ。」
「まあ、『ハ号』の装甲は、弓矢にはお釣りがくるほど強靭だったし、お互い無事で何よりだ。それよりも、先ほどのノア…殿だっけか。その話が通じたのか、攻撃が止んだ。今のうちに前進を続けるぞ。」
「了解であります。」

 短い遣り取りを終えた後、小林少尉は、改まるように

「前方の見張りを厳となせ。」

と命じた。
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