日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨

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第83話 魔術結界と石兵八陣

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 話は少し遡る。

 石油の探査と挺身隊員捜索を兼ねた調査隊の車列は、1月4日の朝8時にデ・ノーアトゥーンの街を出発してから、馬車も通う街道を順調に進んでいた。

 フレデリクと旧公国派が仕掛けた戦の跡を通過した折は、まだ処理し切れていない戦死体が見られるなど、あまり気持ちの良いものではなかったが、集落には住人が戻り、復興の兆しが見受けられるなど明るい材料もあった。

 街道は、トゥンサリル城の支城を避ける様にしていったん海側へ出て回り込み、岬を通ってから石の橋を渡ると、海沿いに進むルートと川沿いに山へ向かうルートに分岐していた。

 エルフの集落は、山奥の方角にあるので、川沿いに伸びた街道を流域に沿って登って行く。

 事前情報だと、主な街道には20ノイル、つまり約32㎞ごとに駅逓が置かれ、属領主府の早馬便や定期馬車は、必要に応じて馬を交換しているとのことであったが、先の戦いで、旧公国派が馬を徴発してしまったために、その補充に苦慮しているらしい。

 山道に入ってからは、街道の幅が狭まり崖が迫っているため慎重な走行を余儀なくされたり、曲がった川の流れに橋が架かっている箇所では、橋の丈夫さを点検してから渡ったりと、進む速さが、それまでの3分の1程度にまで、急激に遅くなってきた。

 それでも、昼過ぎには2番目の駅逓に到着し、ここで大休止とした。
 皆が持参した弁当で昼食を摂ったほか、将兵たちは煙草を存分に吸うなど、思い思いに休憩を取った。

「今は夜兎亭が持たせてくれた弁当を食えるが、夜からは、おまんまのほかは缶詰だからな。覚悟しておけよ。」

 軽戦車の車長の少尉が言うと

「蛇やトカゲを食わさるよりはマシであります。」

と誰かが冗談を言った。

「おいおい、ここは異世界であって、ガ島じゃないんだぜ。」

 ガダルカナル島の生き残りだという軍曹が、これを受けて言った。

「軍曹殿が言うと、冗談ではなくなりそうであります。」

 これを聞いた兵たちは、一斉に笑い出した。
 
「冗談抜きで、もう飢えるのはご免被るぜ。」

 笑われた軍曹は、しみじみと言った。

 他方、駅逓の主や逗留客などは、始めて見る戦車や装甲車に驚き、色々な質問を投げてきた。
 若い下士官が、自慢気に受け答えをしているが、古参の下士官兵たちは、機関銃弾にもプスプス貫通されるハ号(九五式軽戦車)の装甲を知り抜いているので、ちょっと苦笑いである。

 1時間ほどの休憩後、再び車列は動き出した。

 街道は、川が削ってできた急峻な谷間を縫うように伸びており、車列は、また同じように慎重に進んで行った。
 途中、馬車に出会うことはなかったが、数人の徒歩の旅人を追い越し、また、擦れ違ったが、皆、一様に戦車の姿に驚いていた。

 2時間ほど山間の街道を進み、もう少しで次の駅逓に到達すると思われた頃合いに、街道が、山間から平地に抜けた。
 
 街道の両側には、まるで道標のように、石が積まれた同じような塔が並んでいる。

「少尉殿。どうかしたのでありますか。」

 装甲兵車の中から辺りをキョロキョロ見回している鹿島少尉に、傍らの兵長が尋ねた。

「俺はエルフの集落からデ・ノーアトゥーンの街へ馬車で来た時に、同じ道を通っているはずなんだが、こんな景色は見た覚えがないんだ。」
「馬車の中で眠っておられたのではありませんか。」
「いや、山道ではウトウトとしていたんだが、平地では同行のエルフたちと話をしていたから、ちゃんと起きていたのさ。」

 そう言った鹿島が、同じ装甲兵車に乗っている同行のエルフ傭兵ノアを見ると、厳しい表情をしているのが分かった。

「ノア殿。何か問題がありそうですか。」

 鹿島が尋ねると、ノアは一言

「魔術。」

とだけ答えた。

「魔術、と言いますと…。」

 鹿島が言い掛けたとき、車列が停止した。

「どうしたんだ?」

 鹿島が運転員の伍長に聞くと

「先頭の乗用車が止まったようであります。」

と答えが返って来た。

「こんな所で妙だな。」

 改めて周囲を見渡すと、遠くの方がもやのようなもので霞んでいる。

 彼は、装甲兵車から降りると、先頭の乗用車へ駆け寄って行き、助手席の朝日大尉に尋ねた。

「大尉殿、一体どうしたのでありますか?」

 すると朝日は、地面を指差しながら

「貴様、気付かなんだか。俺たちは、今、同じ所をグルグル走り回っているらしいぞ。」

と答えた。

 言われた鹿島が地面をよく見ると、確かに、乗用車と自動貨車のタイヤや、戦車と装甲車の履帯の跡がくっきりと前方へ伸びている。

 それは、確かに車列が一度ここを通過した証である。

「そう言えば、エルフのノア殿が『魔術』とか言っておったであります。」
「それ、きっと魔術結界ね。」

 ターニャが口を挟んだ。

「結界、でありますか。そうすると、我々を近付けたくないということでありますなぁ。」

 鹿島は、考え込んでしまった。

「まるで『石兵八陣』だな。」

 朝日大尉が呟いた。

「石兵八陣…。ああ、諸葛亮孔明の用いた計略でありますな、確か。」

 鹿島は、昔読んだ「三国志演義」を思い出した。

「なあに、それ?」

 ターニャが聞いた。

「ああ、昔の軍師が使った計略であります。自軍が敗走して来るのを見越して、追跡して来た敵軍を惑わし陥れた計略が、視界を悪くして同じ景色の中に閉じ込める、というものだったのであります。」

 鹿島が、ターニャ相手でも相変わらず丁寧な軍隊言葉で説明した。

「へえ、そうなの。あのね、これは宮廷魔術師のソフィアさんが、出発の前に手渡してくれたのだけど…。」

 そう言ってターニャは、数珠のような玉飾りを取り出した。

「途中、魔術っぽいもので困ったことがあったら使いなさいって言って、くれた物なの。」
「はあ、なるほど。それで、どのように使うのでありますか。」

 鹿島が聞いても

「さあ、よく分からないわ。」

というターニャの頼りない返事であった。

「ちょっと、拝借してもよろしくありますか。」

 鹿島は遠慮がちにそう言い、その数珠のような玉飾りをターニャから受け取ると、少しばかり玉の中をよく見ようと頭上にかざしてみた。

 すると、その玉飾りは、突然、強い光を八方へ放ち始めたので、鹿島は、その強烈な光に目が眩み、思わず玉飾りを落としそうになったが、ようやくのことで耐えた。

「うわっ、何だこりゃ。」

 堪らず、彼は素で喋ってしまった。 
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