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十五章 ~毀れる足下~ キンバリーの世界
戦いの女神
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感染予防の為に全身身を包んだ黒い細身の防水性のある戦闘服。本来なら味もそっけもないもの。しかしマグダレンが身に着けると意味は変わってくるようだ。元々聖女としての参加の為ため金の装飾がつき一般のものより華やかにはなっている。それに加え女性らしい胸の膨らみ女性らしい靭な体型をより強調していた。
敵と向き合い無駄も惑いもない動きで戦う姿と動き。戦闘と言うより舞をまっているかのようにすら見える。
イサールの部下も鋭く俊敏に敵を倒していってはいる。しかしそれは淡々と任務をこなしているというだけでマグダレンのような優美さはない。まあこんな場面で華麗さなど不必要なのだが、マグダレンの動きは美しいという感情をイサールに抱かせた。本人は決して戦う事を好み楽しんでいる訳では無いのだろう。しかしその戦っているマグダレンは最も輝いていた。
亜種は幼きマグダレンらが苦戦したというのは分かる程、確かに能力は一般の堕人に比べ高い。その抵抗する力も今までの戦闘とは異なり、精度と強さを備えてはいる。より強い闇を帯びた力は面倒と言ったら面倒。とは言えそれはイサールと部下にとってはやや面倒だがやれないでもない。能力を上げ成長したマグダレンにとって、脅威という程のものではなかった。
マグダレンが先に相手を挑発し理性を飛ばしてくれたこともプラスに働いている。挑発にのり激怒した者、その態度に恐れを抱いた者、混乱するものに別れさせ統率力を欠く。時間の経過と共に立ち向かっていた亜種は倒され数を減らしていった。残った者は怯えから挙措を失い、愚かにも思えるような動きで自ら滅亡へと驀進してくる。
イサールは相手のそういった反応を見て、敵の外敵に対する対応の未熟さを察する。
ジャグエ家を影で操る事で、食料である巫の調達、交配させ増産する体制も作り上げた。そうして亜種はより安全な生活を手に入れることには成功する。だがその事が、亜種全体としての戦闘力を下げていたのだろう。
亜種の中で実戦経験のあるものはごく一部。恐らくは、過去にイサールらとぶつかった体験をもつ第一世代らしか、こういった大規模な戦いをしていない。
だからこそ仲間を救う為に、戦えるものは死にものぐるいで立ち向かってきていた。
これは彼女達の戦いだという意味もあるのだろう。ここでの戦いでは、マグダレンは前面に立ち戦闘している。亜種を挑発した事で敵意を一心に集める事が、残りの二人をより動きやすく敵を倒しやすくしていた。
相手の煽り方、引き込み方は絶妙。アイビスもそれに気付き、マグダレンへの認識を改めているようだ。場を読み的確な動きを示す部下を確認しつつ、イサールは結界で三人を援護しながら、敵をなぎ倒していく。
イサールは改めてマグダレンという人物を見て面白いと思う。非論理的で感情的。どちらの言語でも心話であっても会話が噛み合わない。苦手な相手ではあった。しかしこうして戦いという場面では、一番的確な行動をする。誰よりも冷静に冷淡に。
マグダレンに限らずこの一族はイサールの予想をいつも思わぬ形で裏切る。そこが面白い所であり怖い所。
マグダレンはあれ程まで復讐を抱き、憎悪に心を燃やし挑んでいた。しかしいざ亜種との戦いが始まると、人が変わったように冷静になった。もし別の所で戦っている巫らが見たら、本物の聖女と崇め平伏す程の神々しさすら感じるだろう。その動きに迷いもなく、相手に優しさすら感じる表情で滅していく。
マグダレンは戦闘の出来る最後の亜種のメンバーを剣で割き燃やした。清廉な笑みさえ浮かべ、マグダレンはゆっくり振り返る。その背後には亜種の燃える炎を背に残った亜種に視線を巡らせる。
無抵抗の巫を嬲り殺す事は出来ても、戦う事は出来ない。そんな亜種のほとんどは死の恐怖から動く事も出来ない。
恐怖に苛まれながらも、勇気をふるい立ち向かってくる亜種から倒されていく。そこ後の事象は戦闘と呼べる物ではなく、一方的な殺戮だった。
イサールは草を刈るように、亜種を滅していく。亜種は草とは異なり恐慌の中泣き叫びながらも懇願し生にしがみつく。そんな亜種の感情を一切無視して、駆除という名の殺戮を淡々と行う三人。イサールは視線を部下に向ける。アイビスが冷静に作業として浄化を行っている。
自分が命じたとはいえ人間の愚かさや醜さを目の当たりにする任務も彼はこなしてきている。その姿に頼もしさを覚えると共に、此処にキンバリーが居なくて良かったと思う。
広間に続く小部屋で、亜種を一掃し大きな戸棚に目を向けた。亜種の子供二人がその中で怯え震えている。本人は隠れているつもりでも、彼等が出す闇の気が隠しきれず漏れておりその存在感を示していた。
大きな子供が、小さな子供を抱きしめ棚の扉越しにコチラを伺っている。余りにも脅えているその様子に、イサールはつい安心するように微笑みかけてた。意味はないことだが、せめても彼等にしてあげられる慈愛だった。
イサールは強めのルークスの気を、戸棚に放つ。二人の子供は悲鳴を上げ、いや痛みすら感じる間もなく塵と化した。
探査術で周囲の様子を探る。このエリアの亜種はほぼ一掃されたようだ。僅かに残り隠れている者もマグダレンとアイビスによって狩られている。殲滅も時間の問題だろう。
領城の闘いも、ほぼ決着がついているようだ。ジャグエ家の領主も縄に縛られ捕えられている。
堕人となれば、裁判もなしに処分されるのが普通だが、今回は公の立場の者が禁忌を犯した。それだけに公の場にて裁き処刑をする政治的な一手間が必要となる。
【ここ以外の亜種は?】
イサールはこの戦場を遠くから俯瞰の視点で見守る部下に声をかける。
【現在残っているのは七体……いや全て駆除完了。領城の方を指揮していた間に一体も既に処理されたようです】
その言葉を聞きながら、ローレンスとキンバリーの方に意識を向ける。慣れぬ気の使い方をしてキンバリーはかなり体力を消耗しているようだ。
【まあ、島の外に生き残りがいる可能性はまだある。引き続き調査を続けろ】
イサールはアイビスに指示を出し、キンバリーの元に飛ばせる。
【闇と濃厚接触したカエルレウスの子、発症の様子はない。そちらに送る。受け入れ体制をとれ】
指示を方々に飛ばし、マグダレンの元に向かった。戦いの終了を伝えるために。
天窓からの光刺すサロンの中央にマグダレンはいた。伝えるまでもなく戦闘の終わりを分かっていたのだろう。マスクをフードも外しオレンジの髪が日光により燃えるように輝いている。緑の瞳を眩し気に細めて、天窓の先にある青空を見つめている。
近づいてきたイサールに、マグダレンは緩慢な動きで視線を向ける。
『お疲れ様。終わったよ』
どこかボンヤリと気だるげに目でイサールを見つめてくるマグダレン。
『ラリーは?』
イサールは頷き、マグダレンを抱き寄せ労を労うよういその背中を叩く。
『無事だ。治療室へと送る事にする。あの子はちゃんと仕事をこなした』
マグダレンは珍しくイサールに甘えるように身体を寄せる。
『そう……良かった』
そう呟くような小さい声がイサールの胸から伝わり響く。ついイサールがその背中を撫で、その髪にキスを落としてもマグダレンは何も反応を示さない。
『呆けている場合ではないぞ。ローレンス殿の分まで仕事をしよう。この戦いを最後まで見守らないと。聖女、聖人としてね』
マグダレンは動きを一瞬止めるが、フーと息を吐いてからイサールから離れる。
イサールが見守る中、マグダレンは虚ろな瞳に徐々に強い光を灯していく。
『じゃ、行くか! 最後のショーを行う為に』
ニヤリと不敵に笑い歩き出す様子は、もういつものマグダレンに見える。イサールには近くで意識を失わせているローレンスや、疲労困憊状態のキンバリーよりも危うく感じた。
敵と向き合い無駄も惑いもない動きで戦う姿と動き。戦闘と言うより舞をまっているかのようにすら見える。
イサールの部下も鋭く俊敏に敵を倒していってはいる。しかしそれは淡々と任務をこなしているというだけでマグダレンのような優美さはない。まあこんな場面で華麗さなど不必要なのだが、マグダレンの動きは美しいという感情をイサールに抱かせた。本人は決して戦う事を好み楽しんでいる訳では無いのだろう。しかしその戦っているマグダレンは最も輝いていた。
亜種は幼きマグダレンらが苦戦したというのは分かる程、確かに能力は一般の堕人に比べ高い。その抵抗する力も今までの戦闘とは異なり、精度と強さを備えてはいる。より強い闇を帯びた力は面倒と言ったら面倒。とは言えそれはイサールと部下にとってはやや面倒だがやれないでもない。能力を上げ成長したマグダレンにとって、脅威という程のものではなかった。
マグダレンが先に相手を挑発し理性を飛ばしてくれたこともプラスに働いている。挑発にのり激怒した者、その態度に恐れを抱いた者、混乱するものに別れさせ統率力を欠く。時間の経過と共に立ち向かっていた亜種は倒され数を減らしていった。残った者は怯えから挙措を失い、愚かにも思えるような動きで自ら滅亡へと驀進してくる。
イサールは相手のそういった反応を見て、敵の外敵に対する対応の未熟さを察する。
ジャグエ家を影で操る事で、食料である巫の調達、交配させ増産する体制も作り上げた。そうして亜種はより安全な生活を手に入れることには成功する。だがその事が、亜種全体としての戦闘力を下げていたのだろう。
亜種の中で実戦経験のあるものはごく一部。恐らくは、過去にイサールらとぶつかった体験をもつ第一世代らしか、こういった大規模な戦いをしていない。
だからこそ仲間を救う為に、戦えるものは死にものぐるいで立ち向かってきていた。
これは彼女達の戦いだという意味もあるのだろう。ここでの戦いでは、マグダレンは前面に立ち戦闘している。亜種を挑発した事で敵意を一心に集める事が、残りの二人をより動きやすく敵を倒しやすくしていた。
相手の煽り方、引き込み方は絶妙。アイビスもそれに気付き、マグダレンへの認識を改めているようだ。場を読み的確な動きを示す部下を確認しつつ、イサールは結界で三人を援護しながら、敵をなぎ倒していく。
イサールは改めてマグダレンという人物を見て面白いと思う。非論理的で感情的。どちらの言語でも心話であっても会話が噛み合わない。苦手な相手ではあった。しかしこうして戦いという場面では、一番的確な行動をする。誰よりも冷静に冷淡に。
マグダレンに限らずこの一族はイサールの予想をいつも思わぬ形で裏切る。そこが面白い所であり怖い所。
マグダレンはあれ程まで復讐を抱き、憎悪に心を燃やし挑んでいた。しかしいざ亜種との戦いが始まると、人が変わったように冷静になった。もし別の所で戦っている巫らが見たら、本物の聖女と崇め平伏す程の神々しさすら感じるだろう。その動きに迷いもなく、相手に優しさすら感じる表情で滅していく。
マグダレンは戦闘の出来る最後の亜種のメンバーを剣で割き燃やした。清廉な笑みさえ浮かべ、マグダレンはゆっくり振り返る。その背後には亜種の燃える炎を背に残った亜種に視線を巡らせる。
無抵抗の巫を嬲り殺す事は出来ても、戦う事は出来ない。そんな亜種のほとんどは死の恐怖から動く事も出来ない。
恐怖に苛まれながらも、勇気をふるい立ち向かってくる亜種から倒されていく。そこ後の事象は戦闘と呼べる物ではなく、一方的な殺戮だった。
イサールは草を刈るように、亜種を滅していく。亜種は草とは異なり恐慌の中泣き叫びながらも懇願し生にしがみつく。そんな亜種の感情を一切無視して、駆除という名の殺戮を淡々と行う三人。イサールは視線を部下に向ける。アイビスが冷静に作業として浄化を行っている。
自分が命じたとはいえ人間の愚かさや醜さを目の当たりにする任務も彼はこなしてきている。その姿に頼もしさを覚えると共に、此処にキンバリーが居なくて良かったと思う。
広間に続く小部屋で、亜種を一掃し大きな戸棚に目を向けた。亜種の子供二人がその中で怯え震えている。本人は隠れているつもりでも、彼等が出す闇の気が隠しきれず漏れておりその存在感を示していた。
大きな子供が、小さな子供を抱きしめ棚の扉越しにコチラを伺っている。余りにも脅えているその様子に、イサールはつい安心するように微笑みかけてた。意味はないことだが、せめても彼等にしてあげられる慈愛だった。
イサールは強めのルークスの気を、戸棚に放つ。二人の子供は悲鳴を上げ、いや痛みすら感じる間もなく塵と化した。
探査術で周囲の様子を探る。このエリアの亜種はほぼ一掃されたようだ。僅かに残り隠れている者もマグダレンとアイビスによって狩られている。殲滅も時間の問題だろう。
領城の闘いも、ほぼ決着がついているようだ。ジャグエ家の領主も縄に縛られ捕えられている。
堕人となれば、裁判もなしに処分されるのが普通だが、今回は公の立場の者が禁忌を犯した。それだけに公の場にて裁き処刑をする政治的な一手間が必要となる。
【ここ以外の亜種は?】
イサールはこの戦場を遠くから俯瞰の視点で見守る部下に声をかける。
【現在残っているのは七体……いや全て駆除完了。領城の方を指揮していた間に一体も既に処理されたようです】
その言葉を聞きながら、ローレンスとキンバリーの方に意識を向ける。慣れぬ気の使い方をしてキンバリーはかなり体力を消耗しているようだ。
【まあ、島の外に生き残りがいる可能性はまだある。引き続き調査を続けろ】
イサールはアイビスに指示を出し、キンバリーの元に飛ばせる。
【闇と濃厚接触したカエルレウスの子、発症の様子はない。そちらに送る。受け入れ体制をとれ】
指示を方々に飛ばし、マグダレンの元に向かった。戦いの終了を伝えるために。
天窓からの光刺すサロンの中央にマグダレンはいた。伝えるまでもなく戦闘の終わりを分かっていたのだろう。マスクをフードも外しオレンジの髪が日光により燃えるように輝いている。緑の瞳を眩し気に細めて、天窓の先にある青空を見つめている。
近づいてきたイサールに、マグダレンは緩慢な動きで視線を向ける。
『お疲れ様。終わったよ』
どこかボンヤリと気だるげに目でイサールを見つめてくるマグダレン。
『ラリーは?』
イサールは頷き、マグダレンを抱き寄せ労を労うよういその背中を叩く。
『無事だ。治療室へと送る事にする。あの子はちゃんと仕事をこなした』
マグダレンは珍しくイサールに甘えるように身体を寄せる。
『そう……良かった』
そう呟くような小さい声がイサールの胸から伝わり響く。ついイサールがその背中を撫で、その髪にキスを落としてもマグダレンは何も反応を示さない。
『呆けている場合ではないぞ。ローレンス殿の分まで仕事をしよう。この戦いを最後まで見守らないと。聖女、聖人としてね』
マグダレンは動きを一瞬止めるが、フーと息を吐いてからイサールから離れる。
イサールが見守る中、マグダレンは虚ろな瞳に徐々に強い光を灯していく。
『じゃ、行くか! 最後のショーを行う為に』
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