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十五章 ~毀れる足下~ キンバリーの世界
無に帰せよ
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最も危険な前方をマグダレンとイサールが進み、後ろからキンバリーとローレンスがついてくる。
前からの敵に対してマグダレンとイサールは排除。後ろに続くローレンスとキンバリーは前衛の二人をフォローし上手く動いていた。不意打ちをかけようとする敵はイサールの部下とやらが上手く排除している。その姿は見せないが陰ながら、嫌になるほど的確に処理しており順調な戦いには見えた。
《ラリー、キンバリーを少し気にかけてやって》
自分にではなくローレンスにそう指示を飛ばされる声を感じる。キンバリーの心がやや疲弊していっているのをマグダレンも気が付いていた。チラリとローレンスに視線を向けると、ローレンスは戦闘下でありながら青い目に喜の感情を宿らせる。それをマグダレンの目は見逃さなかった。その声をかけられた悦びに。最も求めている存在が自分を必要とし命令を下して来たことが嬉しかったのだろう。マグダレンはローレンスから目を逸らすように戦闘に意識を戻す。半尋程進み敵を二体倒し、剣を返して影から襲ってきた敵に力を放ち心臓をぶち抜き燃やす。
優しすぎるキンバリーに戦場は思った以上に苛烈だったようだ。マグダレンのように敵を憎む、もしくはローレンスやイサールのように割りきる事が出来ていたら良かった。神からの愛に満ちた教えの元に生きてきたキンバリーには愚かな堕人も憐れな迷い人なのだ。
キンバリーの心を護る為に、マグダレンはより速い決着を目指し戦闘のペースを上げることにする。
イサールもマグダレンの意図に気が付いたようだ。頷き同意を示した時にそれは起る。ローレンスの声が響き振り向いた時は最悪な事態が起こった後だった。
ローレンスの手に食い込む程食らいついたと思われる堕人の姿。マグダレンは身体に冷たい水をかけられたような震えを感じる。イサールが気を放ち周囲にいた堕人を吹き飛ばした。マグダレンは咄嗟に四人を囲むように反射結界を貼り振り向く。キンバリーを抱き寄せイサールは力を放ち噛みつかれているローレンスの腕を切り落とす。堕人を背後に飛ばし距離を取らせてから滅する。イサールの部下が表に出てきて四人を護るように立ち、敵をハッタと睨む。それらの事は一瞬ともいえる時間で実行された。
一瞬固まった状態から最初に動いたのはローレンスだった。屈み左手で堕ちている右手と共にある剣を拾おうと動く。ローレンスの意図に気が付きキンバリーが咄嗟に剣を蹴飛ばし遠くに飛ばした。
ローレンスは信じられないという顔でキンバリーを見上げる。キンバリーは震えながら頭を横に振った。キンバリーから視線を逸らしマグダレンへ無言で穢れを負った自分を浄化しろとローレンスは命じる。
マグダレンの脳裏に、過去の記憶が蘇る。救いを求め命乞いをする穢れた仲間に優しく笑いかけ自らの手で浄化した兄。顔は微笑んでいたが激しく畝り爆発しそうな感情はマグダレンにだけは感じていた。
マグダレンは込み上げてくる激情を抑えるために深呼吸をする。剣を握る手に力を入れ、覚悟を決めて前に進むのをイサールは手を横に伸ばし止める。同時にローレンスの身体が体勢を崩し倒れた。
「ローレンス!」
キンバリーがイサールの腕の中で暴れるが片腕だけで抑えているというのに抜け出す事も出来ない。
ローレンスは身体を捩り抵抗するように動く。手も足も縛られているかのように芋虫のよう地面に身体を擦り付けるかのように動くしか出来ない。
マグダレンはローレンスが捕縛術によって身動きを封じられた事を察する。
「キンバリー落ち着け。マギー、ローレンス殿は治療がまだ可能だ。だから処分はまて!」《マギー私がローレンスを必ず救う。だからお前は……》
『治療』という言葉にキンバリーは暴れるのを止める。マグダレンはイサールの言葉と同時に聞こえてきた心話に頷く。そして背後にある依然として存在する戦場を確認した。
イサールの部下の雲雀とやらが、四人の代わりに堕人と向き合い戦っている。敵を翻弄するスピードと確実に敵をしとめる能力。黒い装束で顔も目以外追われて容姿はまったく分からないが、華奢で細く若い人物に見えた。しかし明らかにマグダレン以上の戦闘力をもつその人物に感心をする。
視線を戻すと、巫としての死を求め叫ぶローレンスに諭すように話しかけるイサール。動揺しながら震えているキンバリーは、やり取りを見つめている事しか出来てないようだ。イサールだけが冷静に言葉を紡ぐ。
《マグダ、いけ! ラリーの事は任せて》
イサールが振り向き、マグダレンに声に従うように促す。
了解の意思を返し、マクダレンは深呼吸をする。
「ローレンス、大丈夫あの人が貴方を助ける。だから落ち着いて。
キンバリーローレンスは救える。貴女に任せた。
アイツらとの決着は、私がつけるから心配することは無い」
目の前の事に必死でキンバリーの耳には届かなかったようだ。ローレンスは動きを止めマグダレンと視線を合わせる。その視線にマグダレンは微笑み、力強く頷き踵を返す。戦いの舞台に戻る為に。イサールだけが「直ぐに俺も戦闘に戻る」と言葉を返してきただけだった。
参戦してきたマグダレンに、雲雀は驚いたよう碧の眼を見開きマグダレンに視線を向ける。
『私はアイビスと申します』
口早に名乗り、すぐに戦闘に意識を戻し風のような動きで三体倒す。
『私はマグダレンだ』
アイビスは目を細め怪訝そうな感情を返すが何か納得したのか頷く。
『存じております。貴方の事は全て……』
マグダレンはアイビスの言葉に眉をよせ鼻でフンと息を吐く。迫ってきた敵二体に炎をぶつけ怯ましてから一気に切り殺す。アイビスは先ほどまでと異なり、マグダレンを護るかのような戦い方に変化させている。近づいてきたタイミングで視線を合わせ目を伏せた。相手の表情にマグダレンへの嫌悪感や蔑みの感情がない事には、少しだけホッとする。今の状況下で悪意を持っている人物との共闘は辛い。
『申し訳ありませんでした。あのような事態を避けられずに……』
それどころか相手が謝ってきた事に、マグダレンは反応に困り首を横にふる。この人物はちゃんと自分の任をしっかり果たしていた。懐かしき言語の響き。美しいイントネーションで語られた言葉使いから、育ちの良さを感じさせる。
『戦場において、絶対という言葉はない。私も兄も理解し、覚悟して戦っている』
そうとだけ返す。ローレンスとマグダレンは闘いの世界で生きたので、覚悟はもっていた。
『しかしあの少女は……』
マグダレンはその言葉にキリリと心に痛みを感じる。キンバリーとローレンスを里から出すべきではなかったのではという後悔も沸き起こる。
歪んだ優しい世界で監視されているものの平和に穏やかに生きていける。キンバリーをこのように傷つくこともなかった。
キンバリーを守る為、より世界を学ばせ強くする為という大義名分を己に周りに言い聞かせてきた。
結局はキンバリーまでを失う事を恐れて逃げただけだ。いや自分の罪から逃げる為。
『そもそも后である貴方や幼い少女に、闘いに参加させること事態が間違えています。ソーリス様らは貴方がたを好き勝手にさせ過ぎる。これ以上の被害を出す前にお下がりくださると助かります』
敵を吹き飛ばしつつ塵と化させて、少し感情的に話すアイビスにマグダレンは苦笑する。素直な性格な為か、真っすぐに言いたい事を言ってくる。それがマグダレンに多少耳が痛いことも。今はキンバリーを傷つけ、ローレンスを穢れを負わせた自分を誰かに責めて欲しい。だから愚痴とも文句ともいえるアイビスの言葉はマグダレンには有難かった。
『誤解するな。コレは私達の闘い。私達が決着をつけないといけない責任がある。アレは私のいた組織が作り出した!』
『そのようですが、そもそも女性が闘うなんて、ありえないでしょうに』
アイビスは溜息をつく。アチラの世界で生きてきたである男からしてみたらそういう感覚なのだろう。女性は保護して護るべき存在。しかし生まれながら持った能力から当然のように戦う事を教えられたマグダレン。その言葉を言われてもこまるしかない。
二人は今そんな事を今議論する気もないので会話は終わる。起こってしまった事に対する、言葉にならない苛立ちや悔いの方が強い。
闘いながらもローレンスの様子を確認する。しかしイサールがはったであろう結界が、中の様子をまったく見えなくしていた。
イサールは気休めを言う男では無い。信じているが、安心はできない。身内を喪う中で穢れ堕とされることは考えられる中で最悪な形。近いうちにローレンスを自分は失う事を覚悟はしていたが、こういう形ではなかった。
自分達にとって因縁の相手とも言うべき亜種にこんなときにそしてタイミングで再会する。その事の皮肉さにも笑うしかない。
神の導き?
マグダレンは鼻で笑う。だとしたら神とやらは性格が相当歪んだ性格の悪い奴と言える。
「マグダ、お前が祓魔師の道を選んだのは、あの白髪で赤い眼の堕人に復讐する為か? 俺は違う、アイツらを浄化してやる為だ」
ローレンスの言葉が記憶から蘇る。
「まって、子供も産めると言うことは、それは堕人ではなく、人……いや巫ともいえない?」
亜種に対してのキンバリーの言葉。彼らが自分達と同じだという……。
同じ経緯で産まれ成功例となった自分達と、失敗例として産まれた子供達。結果こそ違えど生まれた経緯は確かに同じと言ったら同じ。
自分達と亜種、二者の存在がマグダレンの心の中にいる二人の子供の姿に重なる。同じ母親から産まれ誉れの子となった子供と罪の子となった子供。マグダレンは頭を横に振り叫び剣を振るい目の前の堕人を裂く。
『今は、雑念を捨てて闘いに集中しろ』
イサールの声がマグダレンの耳に響く。マグダレンはいつの間にか追いついていたイサールにチラリと視線をむけ口角を上げる。
『私はいたって冷静だ』
イサールは苦笑してからアイビスに視線を向ける。
アイビスは小さく頷き右側に移動し、イサールはマグダレンの左前方に立つ。二人でマグダレンを保護しながら戦う陣形をとる。
『安心しろ、お前達は逞しい。
ローレンス殿もルークスにより守られていた土地で暮らしていた。腐の耐性はかなり強い。一般の巫と同じに考えるな』
アイビスもいる事から、イサールは自分の母国語で話す。この言語は外の世界で使えるものはほぼいない。敵には到底その内容が理解出来ない。心話のようにうっかり漏れる事もないから、かえって都合も良いのかもしれない。
『二人きりにしたのか?』
マグダレンの問いにイサールは振り向きもせずに前方の敵を散らす。
『アイツに任せた。二人はもう落ち着いているし、結界でシッカリ護っている』
マグダレンは頷き気持ちをさらに引き締める。今は少し先の未来の事等を 気にしている場合ではない。それ以上の会話を交わすことも無く戦いに専念する。
離宮の中央にある大ホールの大きな扉をイサールが吹き飛ばす。
中に五十人ほどの人物が集まっていた。ホールに繋がった小部屋にもそれぞれ人がいるのを感じる。皆洒落た衣装に身を包んでいる。男性はレースのついたブラウスに華やかな色のジャケットに裾の細まったパンツ。女性は美しいドレスを着ており身なりはよく、パッと見た感じ貴族の集会のようだ。その集団はどこか異様な雰囲気を醸しだしている。髪と肌は色素などないように白く、目は禍々しい赤い色。堕人ではなく白い髪に赤い目の集団であったのに気付きマグダレンは足を止める。
相手は激しい怒りを帯びた目で乱入者三人を睨みつけている。マグダレンは、相手以上の激しい感情からくる気迫の篭もった瞳で睨み返す。本当ならばジャグエ家を盾にして、逃げる予定だった。アイビスによって隠し通路をルークスの印章で尽く塞がれ此処に残らざる得なくなっていた。秘密扉があるはずの大ホールに集い脱出を試みて、ここもダメだったことで途方に暮れていたのだろう。
「貴様ら、何者だ……」
中央にいる顔の半分を爛れさせた赤い服の男が三人に問いかけてくる。腕や手も顔と同じ状態で爛れている。魔の者であるのにルークスの力を浴びた事による熱傷。おそらくは必死に印章を解こうとしてけがを負ったと見えた。マグダレンは鼻で笑う。
「立場的には天から遣わされ、お前達を葬りさりに来たものという感じかな」
亜種の言葉に、イサールは長閑な、口調で答える。
イサールに頷きながらマグダレンは視線を前に戻し剣を構える。
「巫山戯るな! 貴様らどこから湧いた!
そしてこの力はなんなんだ!?」
彼らからしてみたらそういう、感覚のようだ。彼等なりの平和で穏やかな生活がいきなり壊された。
「寂しいな。久しぶりにこうして再会したというのに」
マグダレンは二人の前に出て顔を覆っていた布を外し放る。相手が警戒したところで青い石に込めて剣を横に振り力を放つ。相手は咄嗟に結界をはり構えるが想定した攻撃波はなく呆然としているようだ。マグダレンが放ったのはアクアの石をつかったもの。このような室内では水しぶきを感じる程度の被害しかない。しかしその力を受ける事で相手の表情は憤怒に変わる。
「この気は……貴様ら~!
やはり生きていたとは!」
マグダレンらの顔は覚えていなくても、アクアの気は覚えていたようだ。
「ああ。そうして戻ってきてやったぞ。
お前達とのこの忌々しくも哀しい因縁を終わらせる為にな」
今までは感情的になっていて見えていなかった。相手から向けられるマグダレンらへの深い憎しみの感情と改めて向き合う。不思議とマグダレンは冷静になってくる。マグダレンが彼らを憎む以前に彼らはマグダレンらのいた国を憎んでいた。
マグダレンだけの復讐の戦いではなく、ローレンスらの想いを引き継いでの戦い。あの国にいたものとしての務め。自国を滅ぼされたのは亜種の所為というより、罰とも言うべき事だったと言える。
亜種を生み出し量産した事で国を滅ぼされ追われたマグダレンたち。イサールらに逆に襲われ手にした土地を追われた亜種。そしてそれぞれが安住のを求め自ら作り出した。安住の地を求める想い気持ちはよく分かるが、それを認める訳にはいかない。
マグダレンは微笑む。まるで聖母のように優しく穏やかに。
「無に帰せよ!」
低く通るマグダレンの声が部屋に響いた。
前からの敵に対してマグダレンとイサールは排除。後ろに続くローレンスとキンバリーは前衛の二人をフォローし上手く動いていた。不意打ちをかけようとする敵はイサールの部下とやらが上手く排除している。その姿は見せないが陰ながら、嫌になるほど的確に処理しており順調な戦いには見えた。
《ラリー、キンバリーを少し気にかけてやって》
自分にではなくローレンスにそう指示を飛ばされる声を感じる。キンバリーの心がやや疲弊していっているのをマグダレンも気が付いていた。チラリとローレンスに視線を向けると、ローレンスは戦闘下でありながら青い目に喜の感情を宿らせる。それをマグダレンの目は見逃さなかった。その声をかけられた悦びに。最も求めている存在が自分を必要とし命令を下して来たことが嬉しかったのだろう。マグダレンはローレンスから目を逸らすように戦闘に意識を戻す。半尋程進み敵を二体倒し、剣を返して影から襲ってきた敵に力を放ち心臓をぶち抜き燃やす。
優しすぎるキンバリーに戦場は思った以上に苛烈だったようだ。マグダレンのように敵を憎む、もしくはローレンスやイサールのように割りきる事が出来ていたら良かった。神からの愛に満ちた教えの元に生きてきたキンバリーには愚かな堕人も憐れな迷い人なのだ。
キンバリーの心を護る為に、マグダレンはより速い決着を目指し戦闘のペースを上げることにする。
イサールもマグダレンの意図に気が付いたようだ。頷き同意を示した時にそれは起る。ローレンスの声が響き振り向いた時は最悪な事態が起こった後だった。
ローレンスの手に食い込む程食らいついたと思われる堕人の姿。マグダレンは身体に冷たい水をかけられたような震えを感じる。イサールが気を放ち周囲にいた堕人を吹き飛ばした。マグダレンは咄嗟に四人を囲むように反射結界を貼り振り向く。キンバリーを抱き寄せイサールは力を放ち噛みつかれているローレンスの腕を切り落とす。堕人を背後に飛ばし距離を取らせてから滅する。イサールの部下が表に出てきて四人を護るように立ち、敵をハッタと睨む。それらの事は一瞬ともいえる時間で実行された。
一瞬固まった状態から最初に動いたのはローレンスだった。屈み左手で堕ちている右手と共にある剣を拾おうと動く。ローレンスの意図に気が付きキンバリーが咄嗟に剣を蹴飛ばし遠くに飛ばした。
ローレンスは信じられないという顔でキンバリーを見上げる。キンバリーは震えながら頭を横に振った。キンバリーから視線を逸らしマグダレンへ無言で穢れを負った自分を浄化しろとローレンスは命じる。
マグダレンの脳裏に、過去の記憶が蘇る。救いを求め命乞いをする穢れた仲間に優しく笑いかけ自らの手で浄化した兄。顔は微笑んでいたが激しく畝り爆発しそうな感情はマグダレンにだけは感じていた。
マグダレンは込み上げてくる激情を抑えるために深呼吸をする。剣を握る手に力を入れ、覚悟を決めて前に進むのをイサールは手を横に伸ばし止める。同時にローレンスの身体が体勢を崩し倒れた。
「ローレンス!」
キンバリーがイサールの腕の中で暴れるが片腕だけで抑えているというのに抜け出す事も出来ない。
ローレンスは身体を捩り抵抗するように動く。手も足も縛られているかのように芋虫のよう地面に身体を擦り付けるかのように動くしか出来ない。
マグダレンはローレンスが捕縛術によって身動きを封じられた事を察する。
「キンバリー落ち着け。マギー、ローレンス殿は治療がまだ可能だ。だから処分はまて!」《マギー私がローレンスを必ず救う。だからお前は……》
『治療』という言葉にキンバリーは暴れるのを止める。マグダレンはイサールの言葉と同時に聞こえてきた心話に頷く。そして背後にある依然として存在する戦場を確認した。
イサールの部下の雲雀とやらが、四人の代わりに堕人と向き合い戦っている。敵を翻弄するスピードと確実に敵をしとめる能力。黒い装束で顔も目以外追われて容姿はまったく分からないが、華奢で細く若い人物に見えた。しかし明らかにマグダレン以上の戦闘力をもつその人物に感心をする。
視線を戻すと、巫としての死を求め叫ぶローレンスに諭すように話しかけるイサール。動揺しながら震えているキンバリーは、やり取りを見つめている事しか出来てないようだ。イサールだけが冷静に言葉を紡ぐ。
《マグダ、いけ! ラリーの事は任せて》
イサールが振り向き、マグダレンに声に従うように促す。
了解の意思を返し、マクダレンは深呼吸をする。
「ローレンス、大丈夫あの人が貴方を助ける。だから落ち着いて。
キンバリーローレンスは救える。貴女に任せた。
アイツらとの決着は、私がつけるから心配することは無い」
目の前の事に必死でキンバリーの耳には届かなかったようだ。ローレンスは動きを止めマグダレンと視線を合わせる。その視線にマグダレンは微笑み、力強く頷き踵を返す。戦いの舞台に戻る為に。イサールだけが「直ぐに俺も戦闘に戻る」と言葉を返してきただけだった。
参戦してきたマグダレンに、雲雀は驚いたよう碧の眼を見開きマグダレンに視線を向ける。
『私はアイビスと申します』
口早に名乗り、すぐに戦闘に意識を戻し風のような動きで三体倒す。
『私はマグダレンだ』
アイビスは目を細め怪訝そうな感情を返すが何か納得したのか頷く。
『存じております。貴方の事は全て……』
マグダレンはアイビスの言葉に眉をよせ鼻でフンと息を吐く。迫ってきた敵二体に炎をぶつけ怯ましてから一気に切り殺す。アイビスは先ほどまでと異なり、マグダレンを護るかのような戦い方に変化させている。近づいてきたタイミングで視線を合わせ目を伏せた。相手の表情にマグダレンへの嫌悪感や蔑みの感情がない事には、少しだけホッとする。今の状況下で悪意を持っている人物との共闘は辛い。
『申し訳ありませんでした。あのような事態を避けられずに……』
それどころか相手が謝ってきた事に、マグダレンは反応に困り首を横にふる。この人物はちゃんと自分の任をしっかり果たしていた。懐かしき言語の響き。美しいイントネーションで語られた言葉使いから、育ちの良さを感じさせる。
『戦場において、絶対という言葉はない。私も兄も理解し、覚悟して戦っている』
そうとだけ返す。ローレンスとマグダレンは闘いの世界で生きたので、覚悟はもっていた。
『しかしあの少女は……』
マグダレンはその言葉にキリリと心に痛みを感じる。キンバリーとローレンスを里から出すべきではなかったのではという後悔も沸き起こる。
歪んだ優しい世界で監視されているものの平和に穏やかに生きていける。キンバリーをこのように傷つくこともなかった。
キンバリーを守る為、より世界を学ばせ強くする為という大義名分を己に周りに言い聞かせてきた。
結局はキンバリーまでを失う事を恐れて逃げただけだ。いや自分の罪から逃げる為。
『そもそも后である貴方や幼い少女に、闘いに参加させること事態が間違えています。ソーリス様らは貴方がたを好き勝手にさせ過ぎる。これ以上の被害を出す前にお下がりくださると助かります』
敵を吹き飛ばしつつ塵と化させて、少し感情的に話すアイビスにマグダレンは苦笑する。素直な性格な為か、真っすぐに言いたい事を言ってくる。それがマグダレンに多少耳が痛いことも。今はキンバリーを傷つけ、ローレンスを穢れを負わせた自分を誰かに責めて欲しい。だから愚痴とも文句ともいえるアイビスの言葉はマグダレンには有難かった。
『誤解するな。コレは私達の闘い。私達が決着をつけないといけない責任がある。アレは私のいた組織が作り出した!』
『そのようですが、そもそも女性が闘うなんて、ありえないでしょうに』
アイビスは溜息をつく。アチラの世界で生きてきたである男からしてみたらそういう感覚なのだろう。女性は保護して護るべき存在。しかし生まれながら持った能力から当然のように戦う事を教えられたマグダレン。その言葉を言われてもこまるしかない。
二人は今そんな事を今議論する気もないので会話は終わる。起こってしまった事に対する、言葉にならない苛立ちや悔いの方が強い。
闘いながらもローレンスの様子を確認する。しかしイサールがはったであろう結界が、中の様子をまったく見えなくしていた。
イサールは気休めを言う男では無い。信じているが、安心はできない。身内を喪う中で穢れ堕とされることは考えられる中で最悪な形。近いうちにローレンスを自分は失う事を覚悟はしていたが、こういう形ではなかった。
自分達にとって因縁の相手とも言うべき亜種にこんなときにそしてタイミングで再会する。その事の皮肉さにも笑うしかない。
神の導き?
マグダレンは鼻で笑う。だとしたら神とやらは性格が相当歪んだ性格の悪い奴と言える。
「マグダ、お前が祓魔師の道を選んだのは、あの白髪で赤い眼の堕人に復讐する為か? 俺は違う、アイツらを浄化してやる為だ」
ローレンスの言葉が記憶から蘇る。
「まって、子供も産めると言うことは、それは堕人ではなく、人……いや巫ともいえない?」
亜種に対してのキンバリーの言葉。彼らが自分達と同じだという……。
同じ経緯で産まれ成功例となった自分達と、失敗例として産まれた子供達。結果こそ違えど生まれた経緯は確かに同じと言ったら同じ。
自分達と亜種、二者の存在がマグダレンの心の中にいる二人の子供の姿に重なる。同じ母親から産まれ誉れの子となった子供と罪の子となった子供。マグダレンは頭を横に振り叫び剣を振るい目の前の堕人を裂く。
『今は、雑念を捨てて闘いに集中しろ』
イサールの声がマグダレンの耳に響く。マグダレンはいつの間にか追いついていたイサールにチラリと視線をむけ口角を上げる。
『私はいたって冷静だ』
イサールは苦笑してからアイビスに視線を向ける。
アイビスは小さく頷き右側に移動し、イサールはマグダレンの左前方に立つ。二人でマグダレンを保護しながら戦う陣形をとる。
『安心しろ、お前達は逞しい。
ローレンス殿もルークスにより守られていた土地で暮らしていた。腐の耐性はかなり強い。一般の巫と同じに考えるな』
アイビスもいる事から、イサールは自分の母国語で話す。この言語は外の世界で使えるものはほぼいない。敵には到底その内容が理解出来ない。心話のようにうっかり漏れる事もないから、かえって都合も良いのかもしれない。
『二人きりにしたのか?』
マグダレンの問いにイサールは振り向きもせずに前方の敵を散らす。
『アイツに任せた。二人はもう落ち着いているし、結界でシッカリ護っている』
マグダレンは頷き気持ちをさらに引き締める。今は少し先の未来の事等を 気にしている場合ではない。それ以上の会話を交わすことも無く戦いに専念する。
離宮の中央にある大ホールの大きな扉をイサールが吹き飛ばす。
中に五十人ほどの人物が集まっていた。ホールに繋がった小部屋にもそれぞれ人がいるのを感じる。皆洒落た衣装に身を包んでいる。男性はレースのついたブラウスに華やかな色のジャケットに裾の細まったパンツ。女性は美しいドレスを着ており身なりはよく、パッと見た感じ貴族の集会のようだ。その集団はどこか異様な雰囲気を醸しだしている。髪と肌は色素などないように白く、目は禍々しい赤い色。堕人ではなく白い髪に赤い目の集団であったのに気付きマグダレンは足を止める。
相手は激しい怒りを帯びた目で乱入者三人を睨みつけている。マグダレンは、相手以上の激しい感情からくる気迫の篭もった瞳で睨み返す。本当ならばジャグエ家を盾にして、逃げる予定だった。アイビスによって隠し通路をルークスの印章で尽く塞がれ此処に残らざる得なくなっていた。秘密扉があるはずの大ホールに集い脱出を試みて、ここもダメだったことで途方に暮れていたのだろう。
「貴様ら、何者だ……」
中央にいる顔の半分を爛れさせた赤い服の男が三人に問いかけてくる。腕や手も顔と同じ状態で爛れている。魔の者であるのにルークスの力を浴びた事による熱傷。おそらくは必死に印章を解こうとしてけがを負ったと見えた。マグダレンは鼻で笑う。
「立場的には天から遣わされ、お前達を葬りさりに来たものという感じかな」
亜種の言葉に、イサールは長閑な、口調で答える。
イサールに頷きながらマグダレンは視線を前に戻し剣を構える。
「巫山戯るな! 貴様らどこから湧いた!
そしてこの力はなんなんだ!?」
彼らからしてみたらそういう、感覚のようだ。彼等なりの平和で穏やかな生活がいきなり壊された。
「寂しいな。久しぶりにこうして再会したというのに」
マグダレンは二人の前に出て顔を覆っていた布を外し放る。相手が警戒したところで青い石に込めて剣を横に振り力を放つ。相手は咄嗟に結界をはり構えるが想定した攻撃波はなく呆然としているようだ。マグダレンが放ったのはアクアの石をつかったもの。このような室内では水しぶきを感じる程度の被害しかない。しかしその力を受ける事で相手の表情は憤怒に変わる。
「この気は……貴様ら~!
やはり生きていたとは!」
マグダレンらの顔は覚えていなくても、アクアの気は覚えていたようだ。
「ああ。そうして戻ってきてやったぞ。
お前達とのこの忌々しくも哀しい因縁を終わらせる為にな」
今までは感情的になっていて見えていなかった。相手から向けられるマグダレンらへの深い憎しみの感情と改めて向き合う。不思議とマグダレンは冷静になってくる。マグダレンが彼らを憎む以前に彼らはマグダレンらのいた国を憎んでいた。
マグダレンだけの復讐の戦いではなく、ローレンスらの想いを引き継いでの戦い。あの国にいたものとしての務め。自国を滅ぼされたのは亜種の所為というより、罰とも言うべき事だったと言える。
亜種を生み出し量産した事で国を滅ぼされ追われたマグダレンたち。イサールらに逆に襲われ手にした土地を追われた亜種。そしてそれぞれが安住のを求め自ら作り出した。安住の地を求める想い気持ちはよく分かるが、それを認める訳にはいかない。
マグダレンは微笑む。まるで聖母のように優しく穏やかに。
「無に帰せよ!」
低く通るマグダレンの声が部屋に響いた。
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王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
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