傷を舐め合うJK日常百合物語

八澤

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崩壊した世界、ふたりきり 01

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「サクラ、お金か~してッ!」
「無い」
「で、でたぁ~サクラちゃんの伝家の宝刀【お断りします】の派生技。これやられちゃ何も言えません──ってわけにはいかないッ」
「ホントに無いから」
「……お願いしますぅサクラ様~、あと一回、あと一回で当たるんです」
「絶対当たらないから」

 学校を終え、私たちは帰路につき、その途中で寄った商店街のスーパーで、くまたんグッズを中心としたクジ引きコーナーを見つけた。地方の弱小ゆるキャラのクセにこういうところはちゃっかりしているというか、強引というか、生き残るための生命力は凄い。

 で、レイはそのクジに挑んだ。
 一回500円のクジ。
 既に、6回も。
 当たった景品は、全てキーホルダーだった。
 1等は……くまたんが描かれたマフラータオル、だった。もっと高そうなフィギュアやグッズを期待したけど、そこは商店街の限界なのか、でも真心籠もったマフラータオルは可愛いわ。で、レイはそのマフラータオルを目指して必死にクジを引いている。他にもクリアファイルや消しゴムもあるけど、既に持っているらしい。つまり、今まで商店街で売りさばいていた売れ残りくまたんグッズを一等のマフラータオルで釣ろうとしている。そんな餌に、って思うけど、私の隣でこれでもかと食らいついてる人が居る……。

「待って~、マフラータオルが欲しいんですよぉお!」
「キーホルダーは全種類揃ったんでしょ? それでいいじゃない」
「いくない! 嗚呼、くまたんのタオルで体を……ゴシゴシと拭くことができたらさぁ……もうほんっっと最高にゴージャスな気分に浸れる──そんな私のささやかな夢を潰さないで」
「いちいちホント大げさ。ほら、お店の人も困ってるわ」
「サクラが金貸さないからだよ」「責任転換しないで」「もうなりふり構っていられる状態じゃないッ。お願いします、あと一回だけ……。そしたら出るぅ」
「出、な、い」
「サクラも前にゲームに課金した時と同じ状況。ね、あの時最後に出たじゃん」」
「いやそれは……まぁ」

 痛いところを突かれた。レイはその隙を見逃さないと言わんばかりに畳み掛ける。

「サクラ、自分に置き換えて考えよ。攻略に役立って可愛いこれはもう是非とも欲しい限定SSRガチャがあるとします。この期間を逃したら半永久的に手に入らない。復刻も数年先かもしれない……。さぁ……サクラならどうする?」
「出るまで回す」自分でも驚くほどすんなり言葉が出てきた。レイは一瞬うわぁ……って顔をする。
「それ! ね!? 私も同じ状況でございます!」
「かもしれないわ。でも貸さない」
「はぁ……。やれやれ、そこだねぇ~サクラちゃんの欠点というか、駄目なところ、は。ね、見て見て! あなたの友人が崖っぷち状態に立たされてますよ! もう闇金にも手を出す勢いさ。でも借りたら返済できず尻の毛まで抜かれる。ほら目尻に涙も浮かんでる。ギリギリで堪えてるけど泣きそうなんだよ。ねぇ、こんな可哀想な姿を目の当たりにしてもサクラはそうやって簡単に見捨てるの? そんな薄情な人間じゃないって私は信じてる。私はサクラの一点の曇りなき純粋無垢な良心に問うてます」
「残念ね、私は薄情な人間なのよ」
「そんなことないよ。サクラほど心の温かい人間を私は知らない」コイツ、白々しい嘘。顔笑ってるじゃない。
「お金は自分で出しなさい」
「そうしたいのは山々だけど、あと20円しかない……」

 レイは財布の中身を私に堂々と見せつけてくる。小銭入れに虚しく十円玉が二枚入っているだけ。チャリーン、と音すら鳴らない。レイは瞳をウルウルと滲ませている。お強請りワンパターン過ぎる。けど効く……。潤む瞳の真意を理解しつつも、その凶悪な顔で見つめられると心が揺れる。

「──はぁ、一回だけよ」
「あ、あ、ありがとうございますぅ」ダメ押しと言わんばかりに抱きつかれる。これでなんか満足しちゃう私が憎い。
「くっつかないで。早くクジを引きなさい」
「神様仏様サクラ様……お願い、しますぅぅううううううとぉおおおおおおりゃあぁ!! ……あ、またキーホルダー……。サ、ク、ラ! サ、ク、ラ! サ、ク、ラ!」
「帰る」
「マジでお願いします。このまま見過ごすと……最終手段を実行します。私、ここで子供みたいに寝転がって駄々こねるぞ! いいのか、16歳の女子高校生がそんなことしちゃうんだよ! や~逃げないで~」

 しかし、レイのあまりの嘆きっぷりに同情した店員さんが、特別賞としてマフラータオルをプレゼントしてくれた。有頂天で喜ぶレイ。1等の商品を譲っていただいて大丈夫なのかと確認したけど、商店街側が在庫整理を兼ねてノリでクジを開催し、予備は残っているからまぁ問題は無いとのこと。レイは首にタオルを巻いて喜んでいる。ま、いっか……。疲れたし、それにほら……無邪気にはしゃぐレイを眺めていると癒やされるというか、なんか私まで嬉しくなるじゃない。

☆★☆★

「ねぇ、サクラは駄菓子屋入ったことある?」
「あるわよ」……幼い頃、連れて行って貰ったことが数回あった。
「へぇ」
「何よ、その意外!? って顔は」
「だってお嬢様が下町のガキの溜まり場を訪れるなんて信じられないから……」
「昔、連れて行って貰ったことがあるの」
「ふーん。1000円出して無双とかしたの?」
「100円くらいしか使わなかった」「駄菓子屋で100円あれば豪遊できる……」
「でも何で駄菓子屋?」
「ん、ほら前にあるじゃん」

 レイが指差す先に、小さな駄菓子屋がポツンと立っていることに気づく。いつも何気なく通っている道なので、視界に入れているはずなのにあまり記憶に無いわね。

「ホントだ」
「ねぇ、久しぶりに入らない?」
「いいけど」

 レイに導かれるように駄菓子屋に入った。こじんまりとした店内に所狭しと駄菓子が並んでいる。懐かしいお菓子から、私の知らないお菓子がたくさん。壁にはられたポスターは時代を感じさせ、その下で10年以上は吊るされているであろう玩具を見ると、なんかノスタルジィを感じた。

「何買おうかな~」
「なるほど、あんた今20円しか」「みなまで言わんでいい。はぁ、そこらの小学生以下の全財産の私には駄菓子屋が相応しいの」

 レイは乾いた笑いをしながら、ぎゅっと首にかけたタオルを握る。指先に力が籠もっているのか、白く変色してるじゃない。私の視線に気づいたのか、ぶるぶると指を震わせた。

「わざとらしい」
「帰りたくない……」「怒られるから?」「うん、だってうちお小遣い制だもん。無駄遣いして! って……お母さんにボコボコにされる」
「自分の運の無さを呪いなさい」
「そうだ、サクラにカツアゲされたってことにしていい?」
「え、そうね──あ、アホッ!」突飛な物言いにツッコミが追いつかない。
「じゃあ寄付したとか。現実味が無いかな。あ~なんか私に非が無い感じの言い訳思いつかない?」
「素直に謝罪しろ」
「非道い……」

 レイはそこそこ大きな飴玉を二つ購入した。
 私は、特に食べたいモノが無かったのでスルー。お店の奥で半分寝ていたおばあちゃんにお金を払い、店を後にする。

☆★☆★

「美味しい?」
「甘っ! なにこれ……砂糖の塊みたい。涎がドロドロ出てくる。ん……あげないよ?」
「別に、私はコンビニでアイスでも買うから」
「友人として恐れながら進言するけど、そういう無意識か意識しているかはともかく、財力をひけらかすのはあまり良くないと思うぞ」
「あんたが自滅したんでしょ」
「まぁ、でも一つくらいは分けてあげないことも……」

 ──ビュゥウッッ!
 その時、突風が吹き荒れる。
 私たちの間を通り抜けるように。

「わっ」
「やだ、目に砂が……」
「ああっ!!」

 隣でレイが声を上げる。どうにか目から砂を拭い取ると「くまたん!」レイのタオルが宙を舞い、それを追いかけているレイの姿が映る。
 突風で首にかけていたタオルが吹き飛ばされたのね。

「ちょっと、レイ待って」

 私は慌ててレイを追いかけるもレイは凄まじい速度でぐんぐんと加速する。
 早過ぎ……。
 私は息を切らしながらレイを追いかけた。タオルは風に流され、まるで飛ぶように空を進んでいる。
 気が付くと、レイは街から少し離れたところにある小さな公園に入っていく。私も続いて侵入した。けど、思わず立ち止まる。何故なら、その公園の中心には巨大な穴が空いているからだ。

 穴。

 なんていうか、人工的に抉られたような巨大な穴だった。どうして公園の中にこんな穴が? と不思議で堪らない。直径2メートルほどで、その中に……くまたんのマフラータオルは吸い込まれるように入ってしまった。
 レイは穴の前で立ちすくんでいる。
 私はレイの隣まで進み、そっと穴を覗いた。
 夕暮れで、周りに街灯も無く、暗闇が穴の中に溜まっているみたいだった。
 穴の中はどれだけ深いかわからない。

「はぁ……はぁ……はぁ……。もしかして、この中に落ちたの?」
「うん」
「ってか何これ、工事でもしてるの? 危ない……じゃない……」
「工事、そうかも。ほら……ハシゴがついてる」

 レイの言う通り、ハシゴの先端が縁にかけられていた。穴の中に溶けるように続いている。

「……レイ、あんたまさか」
「ちょっと降りてみる」
「冗談やめて。深さもわからないのに……。それにこの公園、ちょっと変じゃない? ベンチしかないし。なんか怖いというか」
「ふ、相変わらずびびりなんだから」

 レイの乾いた笑いにむかっとしつつも、ぞくっと背筋が凍った。
 改めて見渡すと、この小さな公園の雰囲気はどこかおかしい。寂れたベンチだけが虚しくあるだけの空間。すぐ隣に私たちの生活圏があるなんて信じられない。まるで時代に、いや……私たちの世界から取り残されたような、不気味な公園だった。

「サクラ、降りてる間にハシゴを抑えてて」レイはハシゴにそっと足をかける。
「え、今から降りるの? 嘘でしょ」
「ハシゴがあるってことはつまり底についてるってこと。降りてくまたんを救出したらすぐ戻ってくるから」
「いやいやいや……。ね、誰か人に、警察とかにお願いしましょう」
「……くまたんをそのままにしておけない」

 レイはきりっとした顔で言う。その決意の籠もった凛々しい顔に思わず見惚れる。可愛いのに格好良さも兼ねているなんて反則──じゃなくて、「何言っても無駄ね……。はぁ、すぐに戻りなさいよ」と私は投げやりに言った。

 レイはカツンカツン、と一歩一歩ハシゴを降りていく。少し進むと一気にレイが見えなくなった。まるで暗闇に溶けてしまったようで動揺する。私はハシゴの先を両手で強く掴んだ。振動が指に伝わり、レイが降りていくのがわかり、少しだけ安心した。
 が、それも束の間、指に振動が伝わらなくなってしまった。

「レイ、どうしたの?」

 返事も、帰って来ない。
 ……もう下に着いたのかしら?
 それとも……落ちた?

「レイ~~返事しなさーい!」

 無音──。
 どうして何も言ってこないのよ!
 ぞくぞくっと膨れ上がる何かを必死に押さえ込みながら、スマホを取り出す。レイに電話……と思ったところで圏外の文字が目に入った。
 一瞬で無力化したスマホに戸惑う。私たちの住む街は、別にど田舎ってわけじゃない。ってことは電波障害が発生したとか? こんな時に?

「レイ! 何か言ってよ!」

 相変わらず返事がない。
 嫌な予感。
 途中で足を踏み外し、レイは悲鳴も言う間も無く落ちてしまったの? でもそれなら振動とかで伝わるはず。けど、レイはまるで途中で消えてしまったかのように……。
 あ、もしかして穴の中には変な気体が充満していて、それを吸ってしまったレイは……レイは……あ……あぁ……あ……。

「レイ~~~~~~!!!!!」

 私は肺の中の空気を吐き出すように叫んだ。
 それでも返事がない。
 どうしてどうしてどうしてよ!?

「ふざけてるなら怒るわよ! レイ! お金も倍返しさせるから!」

 返事無し。
 もう一度スマホを取り出すけど、あぁもう電波が入ってないじゃない。

「ちょっと、本気で何かあったの? 返事しないなら人を呼ぶわよ」

 私はハシゴから離れ、ゆっくりと立ち上がる。

「あと5秒だけ待つ……。いくわよ、1、2……3……4……」

 少し泣きそう。
 怖くて。
 ガタガタと体が震えそうになる。
 5を数えて、耳を澄ましても何も聞こえない。びっくりするほど静か、だった。音も、この公園と外で遮断されたみたいに何も聞こえない。
 
「人呼ぶから……。大人しく待ってなさい」

 私は踵を返し、どこか近くに交番、もしくはコンビニでもいいから、誰かにレイを……助けて──。

 ずるっ

 と、足が滑った。
 滑った時にはふわっと体が宙に浮かぶ浮遊感を覚えた。
「え?」と声が口から出た瞬間、落下が始まる。
 視界の端にさっきまで抑えていたハシゴが映る。
 嘘、でしょ……。
 私、足を滑らせて、穴に落ちてる。
 まるで吸い込まれるかのように──。

 落ちる最中に空を見上げると、普段の夕暮れと違い、なんか……赤色と黄色の絵の具を無理やり引き伸ばしたみたいな不思議な色に染まっていた。

☆★☆★


// 02に続く
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