傷を舐め合うJK日常百合物語

八澤

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ラーメン、初めて 01

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「もう唐揚げは勘弁してくださいな……」

 レイはすすり泣くような声色で私に訴えかける。
 さて、このままカラオケに向かい、レイの美声に酔いしれようかしら──と思った矢先の発言だった。レイは私の手をぎゅっと握り、まるで私の思考を読み取り先手打つようでちょっと怖い。

「まだ何も言ってないじゃない」
「いやもう完全に今日もレイの歌声聞きたいじゃない! よし! カラオケに向かいましょう! って顔してた!」
「……まぁしてた、かも」そこまで顔に出てしまうのか、と恥ずかしくなる。
「もう毎回カラオケで唐揚げ食べるの飽きた~やだ~」

 ──揚げ物を食べると喉が油にコーディングされて声が枯れにくい、と聞いた私はカラオケでは毎回唐揚げを注文してレイに食べさせた。確かに最近は以前のように喜んで頬張らなくなったわね。

「もっとなんかさっぱりした、非コッテリした食べ物を所望してるぞ」
「じゃあ……」
「カフェも、タピオカは一生分食べた気がしますのでパス……。体に良さそうなヘルシィな料理を提案しろ」
「ヘルシィって……なんか商店街の隅にある小さなお店な感じ?」
「あそこは……いやぁ……うーん無農薬やら何やら書いてるから体に良さそうだけどデカデカと貼ってあるポスターに『元氣!』って楽しげに『幸せ』について語ってるのが気になる……」
「もうワガママばかり言って」

 その時、レイはふと立ち止まるとスンスン……と鼻で匂いを嗅ぎ始めた。漫画やアニメで良く見かける光景だけど、こうしてリアルに目の当たりにするとわざとらしくて笑いそう。まぁ可愛いからいいけど。

「いい匂いがする」
「そう?」
「あ! ラーメン……」

 レイの視線に先には、小さなラーメン屋さんが建っていた。チェーン店ではなく個人経営のラーメン屋さん。

「ラーメンとか、どう?」レイはポツリと言った。
「コッテリの極み!」
「や~わかってますよ、確かに先程の発言と大きく矛盾しているのは私もわかる。そこは反省──はい終わり。なんだサクラその顔は! いつまでもグチグチ過去を引きずるな、明るい未来を見よう。で、ラーメンラーメン! ちょうどお腹も空いてることだしさぁ」
「え、……いや別に」何故かレイは私のお腹を撫でている。「何?」「いつもならお腹がぐぅぅ~って返事してくれるのにぃ」

 レイは悔しがりながら私のお腹を滅茶苦茶擦る。摩擦で暖かい。

「まぁ別にラーメンでもいいけど」
「サクラのその好ましくない反応──まさかラーメン屋入ったことないの?」
「あるわよ」
「えぇ、絶対ウソ! 麺をズルズル啜るから外国かぶれのサクラ・ヒイラギ=サンは麺を啜るなんてCrazy Janai! って嫌がるでしょ?」
「普通に啜るわよ」

 レイはお腹を擦っていた手を止め、不意に私の指を掴んだ後に心底驚いた顔をする。

「マジか、サクラはこういうお店入ったことないと思っていた」
「まぁ一人では入らないけど、知り合いにラーメン大好きな人が居て、……母のお弟子さんなんだけど、よく連れて行って貰ったの」

 ラーメンを食べる時はまるで気合を入れるかのように長髪を結び、落ち着いた普段の表情のはずなのに、鬼気迫る雰囲気で食べる姿が記憶に強く残っている。

「ふうん、つまりサクラはラーメン・マスターか」
「マスター名乗れるほど食べてないわよ」
「うぅぅ、せっかく初めてのラーメン屋のラーメンってのを色々教えてやろうと思ったのに……。麺から食べちゃ駄目で、スープをまず口にしないとお皿下げられるんだよ! ってデマカセ教えようとしたのに……」
「で、入る? 私も高校生になってからお店で食べてないし、ここのお店結構美味しそうじゃない?」

 私が促すとレイはう~んと首を揺らし始めた。ニギニギ握っている私の手を離して、私とラーメン屋を交互に見つめる。

「サクラがそう言うなら……」
「いやいやレイが入りたいって言ったんじゃない」
「そうだっけ?」
「……そうよ。レイ?」

 レイの妙にそわそわした態度に──察した。

「あんた、ラーメン屋さんに入ったことないのね」
「あ、あるよぉ」
「はい嘘」「え?」「あんた嘘つくとすぐ髪を弄るのよね」「は、え、こ……ホント? 癖なんかな──あっ」

 レイは何故か私の手を再び掴む。

「カマかけたね」
「どうして触ってくるのよ」
「私は、サクラに触れると思考が読めるから」真面目な顔で冗談言うから笑っちゃう。でも──。
「なんか最近本当にそれ疑ってるんだけど……」
「嘘だよ。ただ癖なんだ、サクラに触っちゃうの──」
 レイは自分の髪を滅茶苦茶弄り始めた。しかし、レイの瞳には明らかに動揺の色が浮かんでいた。レイのちょっと珍しい姿に妙な快感を覚えた。

「でも、ふふっ動揺し過ぎよね」
「……サクラに裏切られたから、非道い、鬼、悪魔ゾ」「アクマゾ?」「悪魔とマゾが合体しちゃった……」「あぁ、うん……いや私マゾじゃないし、別に裏切ってないわよ。ってかあんたが勝手に調子こいたんでしょ?」
「やだぁ……なんか恥ずかしいよぉ。そーなんですぅ、私は中学の頃とか体重制限してたんであまりラーメンとか食べたことないのぉ」
「ダイエット?」
「まぁそんな感じ……。はぁ、しかしサクラはラーメン知ってるとは……」
「とにかく、お店の前でグダグダするのもアレだから、さっさと入りましょうよ」
「うぅ……はい。でもラーメン・ソムリエのサクラ様のお口に合うか心配でヤンスよ。もし不味かったらサクラにラーメンの具にされちゃう」

 レイはぶつくさ呟きながら、私の背中に隠れるようについてくる。まさかレイがラーメン屋さんに怯えるとは夢にも思わず、大人の影に隠れる子どもみたいな姿が微笑ましくて笑っちゃう。あと、まるで小動物が怯えるような姿のレイに私の体にゾクゾクと震える走る。

「ここって何ラーメンなの?」
「豚骨じゃないの?」
「やっぱり。ってか店のラーメンってみんな豚骨だよね? 醤油ラーメンってスーパーで売ってる奴しかないの?」
「いやいや普通にあるわよ。……以前連れて行って貰ったお店は醤油ベースでね、あっさりしていたけど甘いスープが美味しくて、ご飯にかけても絶品だったわ」
「あ、ホントにラーメン屋行ったことあるんだ」
「だからそう言ってるでしょ」
「だってなんか漫画みたいにベラベラ味について語り始めてさ、ラーメン食べるとみんな饒舌になるのかな?」
「……知らない」
「旨すぎると服とかはだけるタイプ?」
「はだけません」

 食券機で普通のラーメンを買う。レイはほっと胸を撫で下ろしながら「よかった、私店員さんにラーメンいっちょ! ってお願いするの怖かったから食券助かる」
「カフェやファミレスでも普通に頼めてるじゃない」
「だってラーメン屋の店員さんってタオルを頭に巻いて店の名前が入った黒いシャツに腕組んでるのなんか怖いじゃん……」
「そんなお店……たまにあるけど、今時コテコテなの珍しいわよ。ここは……優しそうね」

 レイも同じくラーメンを購入し、私たちはカウンター席に座った。まだ時間が早いからか、お客さんの数は少ない。いや、もしかしたら評判が悪い店──ううん、以前このお店を見かけた時、お客さんが並んでいたので美味しいはず。

 ……私は不安を覚えたので、スマホでこのお店について調べようとすると「あ、サクラちょっとまって!」とレイが手で画面を塞ぐ。

「何?」
「そうやってすーぐネットの力に頼るのよく無いよ。自分の舌で判断しようぜ」ペロ! っとキャンディの常に舌を出しているキャラクターのように舌を魅せた。ベロ出すレイ……か、可愛すぎる──。ベロを摘みたい……。いや、なんかレイの舌にあまり芳しくない記憶があるような……ん、気のせいかしら……。

「まぁ、確かにレイの言う通り、かも」もしも美味しいと評価されていたら妙にハードル上げてしまうし、不味いと書かれていたら後悔してしまう。
「ね! それにネットの評価サイトとかさ、お金払わないとレビューの評価弄られちゃうんだよ。信用し過ぎるのもよく無いぞ!」と昨日辺りにSNSでバズったことをさも自分が言ったかのように口にする。

 店員さんが私達の食券を回収に現れた。麺の硬さを問われたので「硬め」と答える。レイは「サクラ! 硬さって何?」と戸惑っているのが可愛い──。私はしばらくその姿を観察したい欲求を必死に堪えて、「初めてなら普通でいいんじゃない」とフォローする。

「……上から目線、初心者には硬いと荷が重いわね、と言わんばかり。じゃあ……私も硬めでお願いします」
「あら、大丈夫?」
「ノープロブレム。私この前虫歯だった親知らず抜いたじゃん。もう今なら何でも余裕で噛み切れるから!」
「え、噛み切れる? ……ふふっ、そ、それは関係ないわ……よ……フフフ……あはははっ!」

 レイの自信満々な顔がツボに入ってしまい、笑いが止まらない。


// 続く
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