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40話
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屋上の改築により、リナの笑顔と将来的なポーション供給の目処が立った。
一件落着……と言いたいところだが、拠点の足元では新たな問題が発生していた。
(……うるさい。そして、揺れる!)
俺は意識を1階の[N]闘技場への回廊に向ける。
そこでは、先日進化したばかりの破壊の化身──[R]オーク・デストロイヤーが特に意味もなく咆哮を上げながらウロウロしていた。
「■■■■ッ!!」
ドスンドスンと足音が響くたびに周囲の空気がビリビリと震える。
彼のSTR(筋力)は65。ただ歩くだけで脅威だ。しかも[常時バーサーク]のせいで理性がなく殺気だっている。
「プ、プヨォ……」
「キャン……」
威圧感に当てられ資源回収のために1階を通過しなければならない[C]スライムや[N]コボルト・マイナーたちが怯えきってしまっている。
壁際にへばりつくように移動しており、作業効率が明らかに低下していた。
「グルァ!(貴様、じっとしていろと言っただろう!)」
見かねた[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラルが定期的に怒鳴りつけ[軍団指揮]スキルで無理やり大人しくさせているが、またすぐに雄叫びをあげてしまう……。
(まずいな。最強の矛を手に入れたのはいいが鞘がない状態だ)
このままでは味方の士気に関わるし最悪の場合、癇癪を起したデストロイヤーがスライムを踏み潰しかねない。
彼を制御、あるいは無害化する手段が必要だ。
俺はリストと状況を確認し、対策を練った。
(アイテムで縛り付ける? 隔離する? いや、違うな)
俺は首を横に振る……石だから振れないけど、気分的に。
[R]オーク・デストロイヤーは、これから俺たちの「最強の矛」として最前線で暴れてもらわなきゃならない存在だ。
そんな奴を檻に閉じ込めたり薬漬けにして大人しくさせるのは、戦力の損失でしかない。
狂戦士とはいえ本能はあるはずだ。 群れの中で「誰が一番強いか」を体で分からせれば大人しく従うはずだ。
(コマンダー……いや、ジェネラル! お前に任せる!)
俺は1階でデストロイヤーを睨みつけている[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラルに意識を向けた。
(あいつを外……森まで連れ出して叩きのめしてこい! 完膚なきまでに叩きのめして、誰がボスか教え込んでやるんだ!)
塔の中で暴れられたらせっかく作った[N]闘技場への回廊が半壊しかねない。
場所は森だ。
「グルァ!(承知した!)」
ジェネラルは静かに頷くと、暴れるデストロイヤーの前に進み出た。
言葉は通じない。だが、ジェネラルが放った強烈な殺気と挑発にデストロイヤーが反応した。
「■■■■ッ!?」
ジェネラルが背を向け森の方へと歩き出す。 デストロイヤーは怒り狂い、涎を撒き散らしながらその後を追った。
(……よし、始まったな)
俺は心配するスライムたちを塔に残し、ジェネラルの[視点共有]に切り替えてその後を追った。
場所は拠点から少し離れた開けた森の中。
かつて[N]オークと戦った古戦場だ。
「ブゴオオオオオオオオオッ!!!」
デストロイヤーが待ちきれないとばかりに吠える。
対するジェネラルはマントを風になびかせ、ゆっくりと[将軍の魔剣]を抜いた。
(頼むぞ、ジェネラル! STR(筋力)は向こうが上だ(STR 38 vs 65)。まともに受けたら吹き飛ばされるぞ!)
ステータス差は歴然だ。腕力勝負ならデストロイヤーはジェネラルの倍近い力を持っている。 だが勝負は筋力だけで決まるものじゃない。
「グルァ!(来い!)」
ジェネラルが剣先を向ける。
理性を失ったデストロイヤーにとってそれは攻撃の合図でしかなかった。
「■■■■■ッ!!!」
地面を爆発させたかのような踏み込み。 [猪突猛進 (Lv.1)]スキルが乗った突撃はまさに生きた砲弾だ。
巨大な[殺戮のグレートアックス]が、ジェネラルの脳天めがけて振り下ろされる!
(速い……!?)
AGI 18とは思えない迫力だ。
だが、ジェネラルの目はその軌道を完全に見切っていた。
「フンッ!」
ジェネラルは真っ向から受け止める愚を犯さず紙一重で半歩、体をずらす。
大斧がジェネラルの残像を切り裂き、地面に深々と突き刺さった。土砂が舞い上がりクレーターができる。
(当たれば即死級だな……!)
斧が地面にめり込んだ一瞬の隙。 歴戦の英雄が見逃すはずがない。
「シィッ!」
銀色の閃光が走る。
[将軍の魔剣 (Lv.1)]による鋭い斬撃が、デストロイヤーの手首を正確に打ち据えた。
「ギィッ!?」
デストロイヤーが苦悶の声を上げるが[常時バーサーク]の効果で痛みなど無視して強引に斧を引き抜き裏拳で薙ぎ払おうとする。
ジェネラルは冷静だ。暴風のような裏拳を剣の腹で受け流し、回転力を利用して背後へと回り込む。
「グルァァッ!!」
背後からの三連撃。
分厚い筋肉と脂肪に覆われたデストロイヤーの背中に、鮮血の花が咲く。
「■■■■ーッ!!」
デストロイヤーが吠え、めちゃくちゃに暴れ回る。木々をなぎ倒し、岩を砕く暴力の嵐。
だが、ジェネラルはその嵐の中心にいながら木の葉のように舞い、決定打を許さない。
(すごい……! これが技量の差か!)
知性なき暴力 VS 技と知性の結晶。
戦いの構図は明らかだった。 デストロイヤーの攻撃は空を切り、ジェネラルの剣だけが確実に肉を削いでいく。
そして数分後。
「ハァァァッ!!」
ジェネラルの渾身の一撃──柄頭による強烈な一撃が、デストロイヤーの眉間を打ち抜いた。
「ガ……ッ……!?」
脳を揺らされた衝撃にはさすがのバーサーカーも耐えられなかったらしい。 デストロイヤーの巨体がぐらりと揺れ、地響きを立ててその場に倒れ伏した。
「グルル……(終わりだ)」
ジェネラルは荒い息一つ吐かず、倒れたデストロイヤーの首筋に剣を突きつけた。
殺気は消えている。これは処刑ではない。服従の儀式だ。
「……ブ……ブヒ……」
デストロイヤーがうっすらと目を開ける。そこにあったのは先ほどまでの狂気ではなく、圧倒的な強者に対する恐怖と本能的な服従の色だった。
彼は震える体でゆっくりと頭を垂れ、腹を見せるように身を縮こまらせた。
(……勝った!)
力による完全なる制御。
これでデストロイヤーは、ジェネラルの忠実な「武器」となった。
「グルァ(戻るぞ。立て)」
ジェネラルが剣を納め背を向ける。
デストロイヤーはのろのろと起き上がると今度は暴れることなく、大人しくジェネラルの後ろをついて歩き出した。
叱られた大型犬のように……。いや、大型豚……?
これで塔の平和は保たれた……はず!
(よかったよかった……って、あれ?リナ?)
ジェネラルがデストロイヤーを力ずくでねじ伏せ、一件落着……と安堵したのも束の間だった。
(おい待て! リナ!? なんで降りていくんだ!)
俺の制止をよそに屋上の工房から戻ってきたリナがトテトテと階段を駆け下り、1階の[N]闘技場への回廊へと姿を現したのだ。
彼女の視線の先には、ジェネラルにボコボコにされて伸びている[R]オーク・デストロイヤーの巨体がある。
(だめだリナ! 近づくな! そいつは[常時バーサーク]だぞ! 理性なんてない殺戮マシーンなんだ!)
ジェネラルには服従したかもしれないが、か弱い人間であるリナに対してどう出るかは分からない。
もし丸太のような腕が裏拳でも入ればリナなんてひとたまりも──!
「オークさん、大丈夫……?」
リナは俺の心配など露知らず、躊躇なくデストロイヤーの鼻先に駆け寄った。
そして、あろうことか血まみれの巨体にそっと手を伸ばす。
(やめろぉぉぉっ!!)
俺が絶叫し、ジェネラルが剣に手をかけたその瞬間。
「……ブヒィ♡」
(……は?)
耳を疑うような間抜けな音が響いた。 さっきまで「■■■■ッ!!」とこの世の終わりみたいな絶叫を上げていた破壊の化身が、つぶらな瞳でリナを見上げ甘えるように鼻を鳴らしたのだ。
「ブヒ、ブヒィ……(痛いよぉ、お姉ちゃん……)」
と言わんばかりの情けない声。
リナの手が、オークのゴツゴツした頬に触れる。
「痛かったね……すぐに治してあげるからね」
リナが[UC]乙女の聖杖を振るう。
柔らかな光がデストロイヤーを包み込み、ジェネラルに刻まれた傷がみるみる塞がっていく。
「ブヒュゥゥ……♪」
デストロイヤーは気持ちよさそうに目を細めされるがままになっている。
……なんだこいつ。さっきまでの暴虐の限りを尽くした狂戦士はどこへ行った?
もしかして、[常時バーサーク]ってのは演技だったのか? 実は知性があって可愛い女の子に介抱されたかっただけなのか?
(……いや、ステータスを見る限り INT 1 のままだ)
俺は呆然としながら分析する。
おそらく、本能だ。ジェネラルには「力」による恐怖と服従を。 そしてリナには……自分を癒やしてくれる「母性」や「庇護者」としての絶対的な安心感を感じ取り、本能レベルで懐いているのだ。
「グルァ……(呆れた奴だ)」
傍らで見ていた[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラルも、やれやれといった風情で肩をすくめている。
彼は剣を収め、これ以上威圧する必要はないと判断したようだ。
治療が終わると、デストロイヤーはのっそりと起き上がりリナの頭に自分の巨大な顔を擦り付けようとした。
だが、その鼻先はジェネラルの盾によってガチン!と阻まれた。 ジェネラルが「調子に乗るな、主の客人だぞ」とばかりに睨みつけると、デストロイヤーは「スンッ」と大人しくなり、リナの足元でお座りをした。
(……うん。まぁ、いいか)
最強の矛が最強のペットになった瞬間だった。
結果として、リナの安全も確保され、デストロイヤーの制御も完璧になったわけだ。
「みんな仲良くしてね……私、みんなが傷つくところを見たくないんだ」
「ブヒブヒ……」
「グルゥ……」
(リナ、お前は大物になるよ……)
俺はほっこりとしつつも、このカオスな光景を受け入れた。
これで憂いはなくなった。 DPも溜まっている。次の一手を考える時だ。
♢ ♢ ♢
[現在の拠点状況] 拠点名: (未設定・円形の塔)
階層: 6階建て + 屋上 DP: 7300(時間経過で微増)
訪問者: 1名(リナ)
召喚中:
総司令官: [R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラル (Lv.20)
狩猟部隊長: [R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフ (Lv.15)
突撃隊長: [R]オーク・デストロイヤー (Lv.15)
偵察部隊長: [N]ヴァンパイアバット (Lv.8)
防衛部隊長: [N]スケルトン・ガーディアン (Lv.13)
(他、[N][UC][C]ランク多数) 侵入者: なし その他: デストロイヤーがリナに懐く。拠点の安全性が(精神的な意味でも)向上。
♢ ♢ ♢
一件落着……と言いたいところだが、拠点の足元では新たな問題が発生していた。
(……うるさい。そして、揺れる!)
俺は意識を1階の[N]闘技場への回廊に向ける。
そこでは、先日進化したばかりの破壊の化身──[R]オーク・デストロイヤーが特に意味もなく咆哮を上げながらウロウロしていた。
「■■■■ッ!!」
ドスンドスンと足音が響くたびに周囲の空気がビリビリと震える。
彼のSTR(筋力)は65。ただ歩くだけで脅威だ。しかも[常時バーサーク]のせいで理性がなく殺気だっている。
「プ、プヨォ……」
「キャン……」
威圧感に当てられ資源回収のために1階を通過しなければならない[C]スライムや[N]コボルト・マイナーたちが怯えきってしまっている。
壁際にへばりつくように移動しており、作業効率が明らかに低下していた。
「グルァ!(貴様、じっとしていろと言っただろう!)」
見かねた[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラルが定期的に怒鳴りつけ[軍団指揮]スキルで無理やり大人しくさせているが、またすぐに雄叫びをあげてしまう……。
(まずいな。最強の矛を手に入れたのはいいが鞘がない状態だ)
このままでは味方の士気に関わるし最悪の場合、癇癪を起したデストロイヤーがスライムを踏み潰しかねない。
彼を制御、あるいは無害化する手段が必要だ。
俺はリストと状況を確認し、対策を練った。
(アイテムで縛り付ける? 隔離する? いや、違うな)
俺は首を横に振る……石だから振れないけど、気分的に。
[R]オーク・デストロイヤーは、これから俺たちの「最強の矛」として最前線で暴れてもらわなきゃならない存在だ。
そんな奴を檻に閉じ込めたり薬漬けにして大人しくさせるのは、戦力の損失でしかない。
狂戦士とはいえ本能はあるはずだ。 群れの中で「誰が一番強いか」を体で分からせれば大人しく従うはずだ。
(コマンダー……いや、ジェネラル! お前に任せる!)
俺は1階でデストロイヤーを睨みつけている[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラルに意識を向けた。
(あいつを外……森まで連れ出して叩きのめしてこい! 完膚なきまでに叩きのめして、誰がボスか教え込んでやるんだ!)
塔の中で暴れられたらせっかく作った[N]闘技場への回廊が半壊しかねない。
場所は森だ。
「グルァ!(承知した!)」
ジェネラルは静かに頷くと、暴れるデストロイヤーの前に進み出た。
言葉は通じない。だが、ジェネラルが放った強烈な殺気と挑発にデストロイヤーが反応した。
「■■■■ッ!?」
ジェネラルが背を向け森の方へと歩き出す。 デストロイヤーは怒り狂い、涎を撒き散らしながらその後を追った。
(……よし、始まったな)
俺は心配するスライムたちを塔に残し、ジェネラルの[視点共有]に切り替えてその後を追った。
場所は拠点から少し離れた開けた森の中。
かつて[N]オークと戦った古戦場だ。
「ブゴオオオオオオオオオッ!!!」
デストロイヤーが待ちきれないとばかりに吠える。
対するジェネラルはマントを風になびかせ、ゆっくりと[将軍の魔剣]を抜いた。
(頼むぞ、ジェネラル! STR(筋力)は向こうが上だ(STR 38 vs 65)。まともに受けたら吹き飛ばされるぞ!)
ステータス差は歴然だ。腕力勝負ならデストロイヤーはジェネラルの倍近い力を持っている。 だが勝負は筋力だけで決まるものじゃない。
「グルァ!(来い!)」
ジェネラルが剣先を向ける。
理性を失ったデストロイヤーにとってそれは攻撃の合図でしかなかった。
「■■■■■ッ!!!」
地面を爆発させたかのような踏み込み。 [猪突猛進 (Lv.1)]スキルが乗った突撃はまさに生きた砲弾だ。
巨大な[殺戮のグレートアックス]が、ジェネラルの脳天めがけて振り下ろされる!
(速い……!?)
AGI 18とは思えない迫力だ。
だが、ジェネラルの目はその軌道を完全に見切っていた。
「フンッ!」
ジェネラルは真っ向から受け止める愚を犯さず紙一重で半歩、体をずらす。
大斧がジェネラルの残像を切り裂き、地面に深々と突き刺さった。土砂が舞い上がりクレーターができる。
(当たれば即死級だな……!)
斧が地面にめり込んだ一瞬の隙。 歴戦の英雄が見逃すはずがない。
「シィッ!」
銀色の閃光が走る。
[将軍の魔剣 (Lv.1)]による鋭い斬撃が、デストロイヤーの手首を正確に打ち据えた。
「ギィッ!?」
デストロイヤーが苦悶の声を上げるが[常時バーサーク]の効果で痛みなど無視して強引に斧を引き抜き裏拳で薙ぎ払おうとする。
ジェネラルは冷静だ。暴風のような裏拳を剣の腹で受け流し、回転力を利用して背後へと回り込む。
「グルァァッ!!」
背後からの三連撃。
分厚い筋肉と脂肪に覆われたデストロイヤーの背中に、鮮血の花が咲く。
「■■■■ーッ!!」
デストロイヤーが吠え、めちゃくちゃに暴れ回る。木々をなぎ倒し、岩を砕く暴力の嵐。
だが、ジェネラルはその嵐の中心にいながら木の葉のように舞い、決定打を許さない。
(すごい……! これが技量の差か!)
知性なき暴力 VS 技と知性の結晶。
戦いの構図は明らかだった。 デストロイヤーの攻撃は空を切り、ジェネラルの剣だけが確実に肉を削いでいく。
そして数分後。
「ハァァァッ!!」
ジェネラルの渾身の一撃──柄頭による強烈な一撃が、デストロイヤーの眉間を打ち抜いた。
「ガ……ッ……!?」
脳を揺らされた衝撃にはさすがのバーサーカーも耐えられなかったらしい。 デストロイヤーの巨体がぐらりと揺れ、地響きを立ててその場に倒れ伏した。
「グルル……(終わりだ)」
ジェネラルは荒い息一つ吐かず、倒れたデストロイヤーの首筋に剣を突きつけた。
殺気は消えている。これは処刑ではない。服従の儀式だ。
「……ブ……ブヒ……」
デストロイヤーがうっすらと目を開ける。そこにあったのは先ほどまでの狂気ではなく、圧倒的な強者に対する恐怖と本能的な服従の色だった。
彼は震える体でゆっくりと頭を垂れ、腹を見せるように身を縮こまらせた。
(……勝った!)
力による完全なる制御。
これでデストロイヤーは、ジェネラルの忠実な「武器」となった。
「グルァ(戻るぞ。立て)」
ジェネラルが剣を納め背を向ける。
デストロイヤーはのろのろと起き上がると今度は暴れることなく、大人しくジェネラルの後ろをついて歩き出した。
叱られた大型犬のように……。いや、大型豚……?
これで塔の平和は保たれた……はず!
(よかったよかった……って、あれ?リナ?)
ジェネラルがデストロイヤーを力ずくでねじ伏せ、一件落着……と安堵したのも束の間だった。
(おい待て! リナ!? なんで降りていくんだ!)
俺の制止をよそに屋上の工房から戻ってきたリナがトテトテと階段を駆け下り、1階の[N]闘技場への回廊へと姿を現したのだ。
彼女の視線の先には、ジェネラルにボコボコにされて伸びている[R]オーク・デストロイヤーの巨体がある。
(だめだリナ! 近づくな! そいつは[常時バーサーク]だぞ! 理性なんてない殺戮マシーンなんだ!)
ジェネラルには服従したかもしれないが、か弱い人間であるリナに対してどう出るかは分からない。
もし丸太のような腕が裏拳でも入ればリナなんてひとたまりも──!
「オークさん、大丈夫……?」
リナは俺の心配など露知らず、躊躇なくデストロイヤーの鼻先に駆け寄った。
そして、あろうことか血まみれの巨体にそっと手を伸ばす。
(やめろぉぉぉっ!!)
俺が絶叫し、ジェネラルが剣に手をかけたその瞬間。
「……ブヒィ♡」
(……は?)
耳を疑うような間抜けな音が響いた。 さっきまで「■■■■ッ!!」とこの世の終わりみたいな絶叫を上げていた破壊の化身が、つぶらな瞳でリナを見上げ甘えるように鼻を鳴らしたのだ。
「ブヒ、ブヒィ……(痛いよぉ、お姉ちゃん……)」
と言わんばかりの情けない声。
リナの手が、オークのゴツゴツした頬に触れる。
「痛かったね……すぐに治してあげるからね」
リナが[UC]乙女の聖杖を振るう。
柔らかな光がデストロイヤーを包み込み、ジェネラルに刻まれた傷がみるみる塞がっていく。
「ブヒュゥゥ……♪」
デストロイヤーは気持ちよさそうに目を細めされるがままになっている。
……なんだこいつ。さっきまでの暴虐の限りを尽くした狂戦士はどこへ行った?
もしかして、[常時バーサーク]ってのは演技だったのか? 実は知性があって可愛い女の子に介抱されたかっただけなのか?
(……いや、ステータスを見る限り INT 1 のままだ)
俺は呆然としながら分析する。
おそらく、本能だ。ジェネラルには「力」による恐怖と服従を。 そしてリナには……自分を癒やしてくれる「母性」や「庇護者」としての絶対的な安心感を感じ取り、本能レベルで懐いているのだ。
「グルァ……(呆れた奴だ)」
傍らで見ていた[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラルも、やれやれといった風情で肩をすくめている。
彼は剣を収め、これ以上威圧する必要はないと判断したようだ。
治療が終わると、デストロイヤーはのっそりと起き上がりリナの頭に自分の巨大な顔を擦り付けようとした。
だが、その鼻先はジェネラルの盾によってガチン!と阻まれた。 ジェネラルが「調子に乗るな、主の客人だぞ」とばかりに睨みつけると、デストロイヤーは「スンッ」と大人しくなり、リナの足元でお座りをした。
(……うん。まぁ、いいか)
最強の矛が最強のペットになった瞬間だった。
結果として、リナの安全も確保され、デストロイヤーの制御も完璧になったわけだ。
「みんな仲良くしてね……私、みんなが傷つくところを見たくないんだ」
「ブヒブヒ……」
「グルゥ……」
(リナ、お前は大物になるよ……)
俺はほっこりとしつつも、このカオスな光景を受け入れた。
これで憂いはなくなった。 DPも溜まっている。次の一手を考える時だ。
♢ ♢ ♢
[現在の拠点状況] 拠点名: (未設定・円形の塔)
階層: 6階建て + 屋上 DP: 7300(時間経過で微増)
訪問者: 1名(リナ)
召喚中:
総司令官: [R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラル (Lv.20)
狩猟部隊長: [R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフ (Lv.15)
突撃隊長: [R]オーク・デストロイヤー (Lv.15)
偵察部隊長: [N]ヴァンパイアバット (Lv.8)
防衛部隊長: [N]スケルトン・ガーディアン (Lv.13)
(他、[N][UC][C]ランク多数) 侵入者: なし その他: デストロイヤーがリナに懐く。拠点の安全性が(精神的な意味でも)向上。
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ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
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