本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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序 勇者ってレア食材らしいぞ。

01

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 この世界において、俺──大河おおかわ 勝流しょうりゅうは、異世界から召喚された勇者である。

 こっちの世界では日本語の名前が言いにくいらしいので、語感でシャルと呼ばれている。ちなみに必死に名前を呼ばせようとしたが、却下されてコレだ。

 現世で仕事帰りに電車から降りた途端、周囲の様子が一変。おお勇者様! と群がる謎の白ローブ軍団。

 女で懐柔しようという意図がみえみえの王様によって、ニコリと笑った王女が語るテンプレ説明。

 この世界は魔物の脅威に晒されているので、異世界から勇者様を召喚しました。
 どうぞ救ってください。
 ちなみに帰る方法はありませんがどうします? 従うなら衣食住は保証しますよ?

 選択肢のない自由意志とはいかに。

 こういうことはなんというか、そういうことを楽しめる若者が選ばれるんじゃないのか? 俺はすっかりブラック企業で社畜と化した夢も希望も特にない御年二十六歳である。

 そういうと、異世界人は守護者なので衰えることはないらしい。

 そして寿命も人より長めらしい。
 やめろ。長期間こき使える設定やめろ。

 ──とまぁ、そんな感じで働かざるもの食うべからず。

 俺は勇者とは名ばかりの王国の雑用係として、都合よく荒事に駆り出されることになった。

 肩身は狭いが、追い出されて一人で生きていこうものなら落ち着く間もなく人攫いの餌食だからな。

 一応勉強をさせてもらっていたので、平和な現代日本人に優しくない世界であることは知っている。

 そうして散々いろんなことをさせられて、王国が強固な国になった頃。

 俺は突然〝魔王を倒してこい〟と城を単身追い出された。

 どうやら仕事をしまくったものだから、次期王は勇者なのでは? なんて噂やら世論やら面白くない風潮になったらしく、体良く厄介払いされたわけだ。

 だって魔王は、歴代のどの魔王でもクソ強い。今までのどんな歴史にも勇者が魔王を倒せたことはない。

 束になって強者をけしかけたって、簀巻きにされて返品されたらしい。

 それを俺単独で殺れるわけがない。

 しかし、仕事以外で城から出されなかった世間知らずな俺が、仲間が誰もいないぼっちの未知の世界で一人生きていくことはできない。無謀でも魔王を仕留めなければ、帰れる理由がないのだ。

 そういうわけで、決死の特攻。

 かなり頑張った。
 そりゃあもう死に物狂いで。

 そして負けた。
 魔王強すぎだろう。何段階形態だ。

 こうして語ると、波乱万丈な俺の異世界社畜人生もかくもあっけないものだ。血だまりに沈みながら死を覚悟し、意識を手放す。

 ──やっと休める。

 そう思ったのに──……どうしてか俺はまた、目を覚ましてしまった。


「なにも怪我人檻に入れるこたねぇだろ!? うっかり最終形態になっちまった俺が悪いんだ……ッ!」

「いけません魔王様! 勇者というのは魔物をサーチアンドデストロイするデンジャラスバーサーカーなんです! 噛みつかれたらどうするのですか!」

「か、噛むのか!?」


 うっすらと目を開けて、何度かゆるく瞬きをする。肌に感じる冷たい感触。
 確か、俺は魔王に負けて死んだ……にしては、身体が痛くない。

 目だけをキョロと動かし、どうにか寝惚けた頭で情報収集をする。

 冷たい感触は、鉄製の檻に入れられているからか。なるほど。しかしどうして天蓋付きのベッドに乗せられているのか。謎だ。

 そして視線を声の方向へ向けると、そこにはやたら豪奢な部屋の真ん中で口論をしている男が二人。




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