本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。

02

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「よくわからんが、筋トレぐらいしかすることがないんだ。部屋から出て「ダメだ」だろう? ここは牢屋にしては居心地がいいけれど……退屈だ。というかこんなイイ牢屋で大丈夫なのか? 俺の知っている牢屋じゃないぞ」

「うぅ、こ、これが魔族の牢屋だぜ。人間のお前の文化とはちげぇんだ。ここは紛れもない魔王城の牢屋だ」

「ん、ん……そうか。文化の違いなんだな……」


 他種族の文化の違いをあんまり指摘するのはちょっと良くない気がするので、魔王の説明に納得することにした。

 王国での捕虜の扱いは、逃げられない冷たく薄暗い強固な牢屋に拘束する。
 食事は簡素なものが二食と見張りも常についていたので、なんだか申し訳ない。

 俺は豪華な部屋住まいで、部屋には人間が通れない結界を張られてはいるものの魔力以外の拘束はなかった。

 食事は三食昼寝付きにおやつもあるものだから、牢屋の価値観が根こそぎひっくり返される。

 この話題は避けたいのか、微妙な顔をする俺をチラチラと見ながら、魔王は「んなことはどうでもいい!」とあからさまに話を投げた。


「お前は、俺を魔王って呼ぶ。それは不公平だと思うンだ。俺はシャルって呼んでやってんのに……」

「そうか? じゃあ人間って呼んでくれて構わないぞ。勇者でもいい」

「馬鹿野郎ちげぇ!」


 叫ぶ魔王からブワワッと闇オーラが出る。ちょっと目が光ったので、第二形態に移行寸前だ。


「俺の名前はアゼリディアス・ナイルゴウン! お前には特別にアゼルと呼ぶことを許す!」


 どうやら名前で呼んでほしかったらしい。

 地団駄踏んでガルルルっと唸る魔王は、魔王なのに中学生のようだ。
 そう思うとわかりにくくもかわいらしいところがある。まぁ世界を物理的に征服できるポテンシャルを持った中学生だが。

 しかし魔族の真名はそれを使って神官にアレコレされるとかなり大変なことになるぐらい、秘密にしないとイケないものだったと思うのだが……。

 マヌケな魔王が少しかわいく思えて、クスクスと笑ってしまった。


「はうっ、あぁ笑顔……浄化されちまう……うぅ……!」

「うん? じゃあお言葉に甘えて名前で呼ばせてもらおうか。アゼル」

「グハッ!」


 魔王は名前で呼べと言っておいて呼ばれたら口元を手で覆い、顔を背ける。そしてまた震え始めてしまった。


「……やっぱりやめておくか?」

「待っ違う、これは発作、持病の発作だっ。ちょっとだけ待ちやがれ……!」


 発作らしい。
 魔王も病気になるんだな……と妙にしみじみとした気持ちになった。




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