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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。
03
しおりを挟む発作が収まった魔王はニマニマと口角を緩ませながらパチン、と指を鳴らし、そばのテーブルに紅茶セットを召喚した。
そしてそのまま二人がけのテーブルの片方に、王族らしく優雅な所作で着く。
長い足を組んで満足げに不敵な笑みを浮かべる姿は、やはり絵になった。
魔王とのお茶会はここ最近の恒例だ。俺は特に許可を取らず、向かいの席に着いた。
「シャル」
「あぁ。そういえば俺の名前は、シャルじゃない。俺もきちんと名前を言うよ。大河 勝流……ショウリュウだ」
「なっなにっ!? んんッ、いや、わかったぜ。ショォル……」
「ショウリュウ」
「シャウルー?」
「違う。ショウリュウだ」
「チッ、異世界の名前ってのは聞き取りにくくされてんだ。名前が遺ると困るからな」
「そうなのか……じゃあ、シャルでいい。この世界の人には言いにくいんだと思っていたが、聞き取りにくかったんだな」
「む……」
ちゃんと本名を言えない魔王は不満そうだったが、俺は謎が解けてスッキリとした心地なので、重ねて構わないと言った。
むくれて頬杖をつく彼を見ながら紅茶を飲む。柑橘系の香りがする飲みやすい紅茶はとても好みの味だ。
この世界に来てからほとんど味わっていなかった穏やかな空気は、この城に来てから日常となりつつあった。
退屈だ、とは言ったが……申し訳なさが際立つ。与えられているばかりでなにも報いている気がしない。
「アゼル。俺は逃げたりしないから、なにか仕事をくれないか? 雑用ならやり慣れているぞ」
「ダメだ。お前みてぇな貧弱脆弱虚弱なトリプル弱い種族にできる仕事はねェ」
「お前人間をなんだと……」
きっぱりと拒否された。
アゼルの中で人間はどれほど弱い生き物だと思っているのだろう。ハムスターかなにかと勘違いしているんじゃないか?
更に言い募ろうとする俺が言葉を発する前に、アゼルは一刀両断する。
「魔力も封じられて剣も持たないお前なんか、ただのちょっとした強化人間だろォが! いいか? 人間ってのは、うっかり加減を間違えると軍隊ごと塵になるんだッ!」
「いや、待て。それは塵にできる魔王のポテンシャルの問題だろう。どんな加減を間違えたら塵になるんだ……!?」
「なっ、仕方ねぇだろっ。俺は通常攻撃が広範囲攻撃で三回攻撃、確率で状態異常なんだよ!」
「そういえばそうだったな!」
ギャーギャーと文句を言うアゼルは、確かに以前戦った時は無理ゲーの擬人化みたいな戦闘力だった。
ゲームだったらとっくにコントローラーを投げている。
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