28 / 901
一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。
25
しおりを挟む自分が今どういう状況か、しばらくわからなくなる。脱力していた十数秒が長い。
少し落ち着いて、荒れた呼吸を整えた。
ぐったりと体を横たえたまま、片手で受け止め切れるものじゃない濃厚な白濁が結局夜着も絨毯も汚したことを把握して、自己嫌悪。
未だに体は火照っているが、このくらいならじっとしていれば収まりそうだ。
のろのろと洗面所へ向かって手を洗い、ハンドタオルを湿らせて持ち、絨毯や服を清めた。貧血でふらつき二度倒れたが、もがきながら立ち上がる。
敏感な皮膚は布地が擦れると得も知れない快感を滲ませたが、節操なく喘ぐことはない。
ベッドに上がって深く潜ると、まだ腰回りのあたりがズクズクと切なく疼いた。
きつく目を閉じて、知らんふり。
「……アゼル……」
落ち着くと、すぐに頭の中へ浮かんだものは、かつてないほど落ち込んで部屋を出たアゼルの後ろ姿だった。
──良くしてやっていたうまい餌が牢から外出を許可した途端、言えない用事を作るなんて……逃げ出そうとしているのではないか?
そう疑うのは無理ない話だ。
だから勘違いして怒ったアゼルがあんなことを言いだし、咄嗟に本来の立場を知らしめようとするのも、深く理解できる。
手酷く貪られたが傷を治してくれたし、謝罪もしてくれた。
あの様子では、本当にまともに動けないほど容赦なく血を取るつもりはなかったのだろう。
やってしまったと、思った。
俺が逃げ出すのではないか、という疑惑を持たれるかもしれないということが過ぎらなかったわけじゃないが、あれほど取り乱すとは思わなかったのだ。
逃げられることをああも嫌がるほど、大事なものだと認識される理由がないから。
だって俺は、アイツを殺そうとしたのに。
それが現実は勘違いが加速して脅しをかけるくらいには、惜しまれていた。
──……あんなに悲しそうに部屋を出ていくようなことをさせてしまうなら、傲慢なしてやりたいをかざしたワガママなんて、言わなければ良かったんだ。
アゼルのしたことより自分がしたことのほうが、俺の胸に後悔を沸き上がらせる。
この三週間いつも優しく、騒がしく、少し変わっているけれどかわいくて素直じゃないアゼルを、傷つける羽目にならなかったはずだ。
俺はあんなことをされて、怯えたり、怒ったり、嫌になったり、そんな気持ちは欠片も抱いていない。
俺はアイツにとって餌だが、所詮ただの餌だったのだと自分を憐れむような扱いはされていなかったから。
人よりも、ずっと大切に扱ってくれていた。
それはほんの少しのすれ違いで崩れるような感謝ではないのだ。
出会った時の言葉も、ありのままにぶつかってくる全ても、心から感謝している。
だからただ、ひたすらに申し訳ない。
酷いことをさせたことも、酷いことを言ったことも、謝りたい。
謝って、仲直りがしたい。
「明日……約束だから……俺は……」
うわ言のように呟き、明日を決意して、俺の意識は深い睡眠の中へ蕩けていった。
137
あなたにおすすめの小説
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
塔の魔術師と騎士の献身
倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。
そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。
男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。
それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。
悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。
献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。
愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。
一人称。
完結しました!
女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。
山法師
BL
南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。
彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。
そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。
「そーちゃん、キスさせて」
その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。
その男、ストーカーにつき
ryon*
BL
スパダリ?
いいえ、ただのストーカーです。
***
完結しました。
エブリスタ投稿版には、西園寺視点、ハラちゃん時点の短編も置いています。
そのうち話タイトル、つけ直したいと思います。
ご不便をお掛けして、すみません( ;∀;)
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる