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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。
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「死ぬかと思った」
「悪ィ悪ィ。でも普段の散歩の半分ぐらいしか速度出してねェんだぜ」
「あれで半分なら、本気を出されると俺の体は爆発四散するぞ」
こうなると思っていた。
そらみたことか。
すっかり三半規管にダメージを受けてしまいぐったりする俺を背負いながら、ガドはえっちらおっちら岩場道を歩く。
ガドの飛行により、アクシオ谷の中ほどにはものの五分で到着した。
魔王城の裏手とはいえ広大な谷の中心部にその速度は、俺一人では到底達せない。死ぬ思いをした甲斐があった。
しかし巨大な竜では谷の切り立った複雑な岩場道を行くことはできないので、少し開けた場所に降り立って徒歩で探索することになったのだ。
俺の頼みでここに連れて行ってくれて俺が勝手に酔っているのに、ガドは負い目を感じているのか、ゆっくりと揺らさないように歩いている。
屈強な見た目とのほほんとしたマイペースな性格と態度でわかりにくいが、やはりガドは猪突猛進で粗暴な自分の野生を悔いているのだろう。繊細な竜なのだ。
背負われ肩に置いていた手をそっと前に伸ばして、背中に胸をあてもたれかかってみる。
「うぁ……」
「ガドのおかげでこんなに早くここまで来れた。一人じゃもっと大変だった。ありがとうな」
「んぐ……ま、お前がこうやって手土産を手に入れて謝っても、魔王が許さなかったら、俺が飼ってやんよ」
それはありがたい。
国へ帰ってもいつか殺されるだろうし、頼れる友人は誰もいないから自然淘汰されてしまうだろうからな。
鼻歌を歌いだしたガドの背中で、俺は心遣いが嬉しくて口元を緩める。
だいぶ酔いも覚めた。
復活した俺はガドに背中から降ろしてもらい、岩場を中心にキョロキョロと目を動かしながら探索に精を出していく。
ガドは非常に残念そうに俺を降ろすのを嫌がっていたが、しぶしぶ解放してくれた。
なんでだ。重いだろ。まあガドがわからないのはいつものことか。
「マルオの言っていた花は、崖肌の岩の影にあることが多いらしい」
「聞く限り、たぶんアーライマのことだな。花びらが八枚の、白い背の低い花だぜ」
「わかった」
教えてもらった情報をもとに壁代わりの崖肌に手を突きながら、自分が歩いている崖上や周囲、足元の下の崖肌をキョロキョロと慎重に探していく。
しかしなかなか、それらしいものは見つけられない。
底が暗くよく見えない深さの崖を覗き込むのは、もし俺が高所恐怖症であれば気絶しているほどの行為だ。
魔法が使えない俺は、落ちたらそのままエンドロールが流れるだろう。
けれど諦めるわけにはいかないのだ。
俺は意気込んで探索を始めた。
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