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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。
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しおりを挟むそうやって歩く道全てをなるべく細やかに探しながら、いくつもの岩場の多い崖を探していく。
けれど太陽が真上を指しても見つからず……傾き始めた今も、アーライマは影も形もない。
体感ではもう半日は経った心地だが、流石にそこまでは経っていないだろう。
ちなみにガドは飽き始めてバッタが跳ねるのをニヤニヤと追いかけている。さっきはアリの大群を眺めていた。小学生か。
──ぐぅ~。
ずっと黙々と怪しい箇所を覗き込んでいた俺は、ピタリと止まって自分の腹にぽんと手を当てた。
俺の腹の鳴き声だ。
そういえば、朝ご飯を断ったのだった。
今は昼もそこそこ過ぎた時間。
腹がぐずりだすのも仕方がなかった。
耳ざとく俺の腹の虫を聞き取ったガドが、逃げ惑うバッタから離れてぴょんぴょんとこちらにやって来た。
「ハラヘリか。ちなみに俺もだぜ」
「お前もか」
自分の空腹を訴えに来ただけだった。
なんてことだ。
こんな荒れた谷に食料のないハラヘリがふたりぼっち。絵ヅラがひもじい。
「よし、狩りにいくかァ。プランが三つあんだけど、どれがいいんだ?」
「なにがあるんだ?」
「プランA、さっきバッファドンが群れてたからのろまなのを一匹仕留めてくる。プランB、そのバッファドンを狙ってたグリフォールを焼き鳥にする。プランC、シャルを喰う」
「プランC以外だな」
「そっかァ……」
残念そうな顔をするな。
そうだった。吸血鬼が血が好物なのと同じで、竜は肉が好物なんだった。
回復能力に長けた魔族はうっかり腕が飛んだくらいならにょきにょき生やすこともあるらしいが、人間はそうならない。
お弁当感覚で齧られたらたまったもんじゃないぞ。
むむ、ならプランの選択は重要だ。
とはいえ俺は戦闘が今のところ役に立たない。魔法は封じられて剣はないからな。
困ったぞ……人間国のまだ弱い魔物ならどうにか素手でも戦えるだろうが……魔界のトンデモモンスターはハントできない。
「この先のもう少し開けた場所に洞窟があっただろう。あそこのそばで俺は薪の準備をするから、ガドが好きなほうを狩って来てほしい」
「おー、了」『解』
少し考えて返した返事に、にんまり笑ったガドがひと呼吸する間にその姿を巨大な竜に変えて、言葉の語尾が濁った。
地面から頭のてっぺんまでだけでも三十メートルはありそうだ。
窮屈な道での変身に、動きにくいのかすぐに大きな翼を広げた。ぐっと地面を踏みしめ、その巨体に似合わないフワリとした軽やかな飛翔。
地面が揺れ、一瞬強風が吹き荒れたかと思うと、ガドはもう空高く飛び上がっていた。
相変わらず見事な飛行だ。
ガドは空の支配者。竜の中でもとびきり上等な、強く美しい銀色の覇者。
「寄り道しないで帰ってくるんだぞー!」
「グォォオォオンッ!」
わかったのかわかってないのか。
取り敢えず返事に咆哮が返ってきて、近くの山陰からギャアギャアと驚いた怪鳥たちが飛び去って行った。
気持ちはわかる。
パッと見ただけでもどこかのダンジョンのボス級にいそうだからな。
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