本日のディナーは勇者さんです。

木樫

文字の大きさ
53 / 901
一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。

50※微

しおりを挟む


「嫌なもんか……いいからもっと、俺の血を吸え……」

「っぅ、こ、このエ、エロ勇者……ッ」


 おっと、結局また言ってしまった。
 だが毒と失血で少しだけぼやけた頭は、意味がわかっていてもさほど羞恥も危機感もない。

 それよりも照れて慌てるアゼルが、なんだか……かわいらしく思えて。

 まぁ、もしそういう意味で捉えられても構わないか、と思うくらいには、正気じゃなかった。

 いや。正気だったのだが、その思考回路は正気じゃないだろうなという感覚だ。

 もしくは自己嫌悪に埋もれていた昨夜からの悲しみがなくなって、またこうして戯れることができて、思ったより高揚しているのかもしれない。


「ふっ、ぁ、あ」


 初めに噛んだ傷口にまた重ね合わせるように牙が差し込まれて、痛みとは違う声が漏れ出す。

 熱い舌が這いずりまわって、溢れさせられた血をピチャピチャと丹念に舐める。

 喰らわれているというより愛撫されているみたいだ。そんな触れ方が、嫌じゃない。
 愛撫なんてやらしいものに感じる自分に、胸がウズウズとする。

 アゼルにはそんな気はないのだ。
 ただ獲物の血を啜っているだけ。

 だが、同じ男である俺がこうも淫らな気分になって甘い鳴き声をあげるのは、普通の思考なら気持ちの悪いものじゃないだろうか。

 これが豊満な肉体を持つ美女であるならば、不快感などなかったかもしれない。

 事実そういう獲物を狙う生き物が吸血鬼であり、悪魔的な美貌と催淫毒はそのためだろう。

 俺が勇者で、類稀な美味な血液を持つらしい異世界人でなければ、こうも求めてもらえなかったはずだ。


「……はっ……」


 毒のせいだろう。
 心臓がにわかに騒めく。

 支えきれそうにない体をどうにか立たせるために回した腕を、懸命にアゼルの背や後頭部に縋りつかせた。

 健全に食事を楽しむ彼に触れるのがはばかられる気持ちから、振り払うのが容易なくらい弱々しい。

 俺は男に邪な感情を抱く性癖は、持ち合わせていなかったはずだが。


「うぁ……ッ、ふ、っは……」


 ジュルッ、と吸い上げられる。アゼルが丹念に舐めるので、噛まれた傷が少し回復してしまった。

 蛇口が閉まり、それを惜しんで強く傷口を吸われ、一際大きく喘ぐ。

 その声はもう明らかに甘い響きを持っていたから、こんな声を聞かせたくなくて、ぎゅっと強く目を閉じた。

 これはまずい。限界だ。


「ふっ……みっとも、ない声を出して……申し訳、ないが、もう打ち止めだ……ぁ…ぅ……これ以上触られていると、俺は……困る……」

「はっ」


 ぐったりとしながらそう告げると、首筋に吸いついていたアゼルが顔を上げる。
 密着していた体を少し離した。


「どうして困るんだ」

「ンぁ、お……男の俺が、女のように悶えるのは……見ていても不快だろう……?」

「俺の毒のせいだろ。魔族は性に奔放だ。気にすることじゃねぇ。……まぁ、それに……俺の腕の中で鳴いてるシャルは……か、かわいい……と、思うぜ……」


 ──だから安心して、責任を取られていろ。

 そう言って、アゼルは俺の体を僅かに抱え、浮かせる。
 そして数歩後ろにあるドアにトン、と優しく、しかし逃れられないように、押しつけた。




しおりを挟む
感想 216

あなたにおすすめの小説

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

その男、ストーカーにつき

ryon*
BL
スパダリ? いいえ、ただのストーカーです。 *** 完結しました。 エブリスタ投稿版には、西園寺視点、ハラちゃん時点の短編も置いています。 そのうち話タイトル、つけ直したいと思います。 ご不便をお掛けして、すみません( ;∀;)

塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。 そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。 男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。 それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。 悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。 献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。 愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。 一人称。 完結しました!

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

処理中です...