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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。
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しおりを挟む続いて向かったのはアゼルの執務室だ。
先約はここで最後。
顧客の少ない俺の先約は限られている。
なので道中出会った魔族たちで比較的人間に嫌悪感のない種類に売り込み、目下営業努力中だ。
今日の売り込みの成果は空軍の工兵である鷲頭人身の魔族、ガルダーンたち。
それから城の製糸室で布や布製品を作っては城下に卸しているインプたちである。
スウィートな空マグロが好物のガドたち竜種とは違い、ガルダーンは甘いものに目がないわけではない。手応えはいまいちだった。
しかし尖った耳に張った腹の小柄なインプは美味しいものが好きだったようで、明日の予約も取れたぞ。
彼らは物流部長の眷属らしい。
そんな営業の甲斐あって、バスケットの中身はかなりさばけた。
初めはそれこそアゼルに渡すだけだったからな。なかなかの進歩だ。
「ふふふ。今度はどうやってお礼をしようかな」
少しずつ貯めたお金で次はアゼルになにを返そうかと考えると、つい笑みが漏れた。
本当なら魔族の中でただ一人の人間は、たいへん異質な存在だろう? 厨房の件のように排斥されて当然だ。
アゼルが人間国に捕まるという逆の立場なら、確実に処刑されているだろうしな。
つまり俺は飼われたことで生きながらえている、非常にラッキーな人間である。
でもそれは──魔王という絶対君主が俺を大切にしてくれているからに他ならない。
この穀潰し勇者さんイメージアップ作戦のお菓子屋さんは、そんなアゼルが俺を大切にしてくれているせいで悪く言われないため、というのもあるのだ。
だからやっぱり、アゼルには感謝している。もっと喜ばせたい。
下衆な考えかもしれないが、あの人間は意外と役に立つと思ってもらえれば、アゼルの株も上がるというものだろう。
「いかな直進一筋の俺と言えど、頭を使うこともあるのだ。とにかく頑張るだけが俺じゃない。魔族をお菓子でハッピーにして、内側から認めてもらうぞ。ううん……俺はなんて悪い男だ」
そんなダークな画策をしていることに良心の呵責を覚えつつも、こなれた足取りで廊下を歩く。
もう迷うことなく執務室へのルートを覚えているので、執務室へはすぐに到着した。
しかし見慣れた執務室のドアを叩こうとした時、ふと、向こう側から声が聞こえることに気がつく。
……こちらの執務室。
バリアフリーな魔王城にして限られた魔族しか入らないからか人型サイズなのだが、そのせいでドア部分が薄いのだ。
『魔王様! いい加減魔王城の外へ行く系のお仕事をなさってください! 貴方様がかつてないほど不機嫌だった日にアホみたいな速度と量を熟したので、日々の決済や報告書のサイン以外、事務仕事はしばらくほぼございません!』
『ハッ嫌だねッ! 俺は毎日シャルとお茶会してぇし喋りてぇし吸血してぇしキスもしてぇ! 半日以上空けたら減るだろうが!』
『減りませんよ勇者に賞味期限はありませんし! 言っておきますが、魔王様が毎回食べずに半分をコソコソと隠し持って帰ってらっしゃるシャルさんのお菓子! あれには賞味期限がございますからね!?』
『永久凍結魔法かけてるから大丈夫ですぅー。ハンッ、俺とシャルの時間を邪魔するなら魔界なんて滅べ滅べ!』
『最上級魔法の使い方間違ってますからぁぁあッ! もー駄々を捏ねないでくーだーさーいーまーせーッ!』
……なぜか扉の向こうで、どことなく恥ずかしいことを言われている……。
非常に開けにくい。
アゼルがテコでも動かない様子だ。
ライゼンさんに迷惑をかけているのが申し訳なく思えて、俺はそっと両手で顔を覆った。
そういえば結局アーライマからお茶を作って二人で飲んだ時も、残り半分は永久凍結して宝物庫に入れていると言っていたな。
今の話からするとあれはもしかして、冗談じゃなかったのか? いやそんなまさか。そんなはずはないだろう?
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