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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。
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しおりを挟む──トン。
「ウァゥ……、っウォンッ!?」
「う、うぅ……」
要塞の開けたデッキに柔らかい足取りで降り立つ魔王様は、ここでようやく自分の背中に乗る俺が激しい上下運動によりグロッキーだと気がついたらしい。待ちわびたぞ。
フワァ、と闇の魔力に包まれて俺の体が宙に浮くと同時に、いつもの人型に戻ったアゼルが俺の体をそーっと抱きとめた。
「しゃ、シャルっ、シャルっ!」
「んん……大丈夫だ……うーん……」
必死な形相でアワアワと慌てるアゼルへ、なんとか親指を立てる。
あぁ上下運動がなくなったぞ。
よしよし、少しすればすぐに良くなる。そんなに必死に呼ばないで大丈夫だ。
死にかけているとでも思っていたのか、アゼルは心底安心した表情に変わった。
けれど今度は抱えた俺の扱いに困り、オロオロと慌てている。
目まぐるしいな、アゼル。
ずっと抱いてもらうのも悪いし、そのへんに降ろしてくれれば復活したあとは自分で勝手に起き上がるぞ?
そういう意味でデッキを指さすと、クワッ! と声のない威嚇を受けた。なんで全力で反対するんだ。
そうして回復を試みるが、休む間もなく俺の耳に強烈な追い打ちが襲う。
バァンッッ!!
「魔王さ、っ!? ぁぁぁあ憧れのお姫様抱っこぉぉぉおッ!? お前誰ッ!? 絶対許さないよッ!!」
盛大な音をたててデッキと基地内を繋ぐ扉が開く音と、高めのかわいらしい声が奏でる劈くような怒声のコラボレーション。
いけない。弱った脳への攻撃には十分だ。今のでさらに頭がクラクラしたぞ。
勇者は基本戦闘生活だったため突然の攻撃には慣れていてあまり動じないが、ダメージはある。体幹の鍛錬不足か。
そんなこととはつゆ知らず。怒声を上げた人物はプルプルと顔を振る俺にズカズカと近づき、ビシッ! と指をさした。
「おいお前! 僕はお前が憎い! 嫌いだ! 羨ましいからそこを代われ!」
「ん……?」
やってきたのは、顔を真っ赤にして怒り心頭極まりない少年だ。
俺よりずいぶん小さい。
魔族なので年齢は俺より上なのかもしれないが、どう見ても中学生ぐらいに見えた。
サラサラと風に揺れる薄い水色の髪。ピコピコとヒクつく毛の長い垂れ耳。ぴょんと尻のあたりから伸びる小さな海獣の尾。
ふっくらとした白い肌に、少し吊り目だがぱっちりとした深い海色の双眸と小さく尖った鼻がバランスよく配置されている。
十人が十人認める文句なしの美少年だ。
少女だと言われても信じてしまう。
質のいい白いシャツにハーフパンツをサスペンダーで吊り上げた彼は、確かな敵意を持って俺を睨みつけていた。
おっと、つい観察してしまった。
はじめましての人を観察するのは人間国時代の癖だ。そういう仕事だったからな。
ええと、言い分は……確か羨ましいだったか? なるほど。彼はアゼルに抱きとめられたかったらしい。
「よし、代わろう」
「だめに決まってんだろトリプル弱々種族が! ぶっ倒れたら酷いぞ! いいか、ユリス! こいつは俺の所有物だ。俺が……お、俺のものを持つのは当たり前だろうがッ」
「お、俺のもの……!? ううぅ~っなにその宣言羨ましい!」
望みがわかったので場所を明け渡そうとしたが、アゼルは俺をいっそう強く抱きしめて離さなかった。
ユリスと呼ばれた少年はその行動とアゼルの言葉に、とても悔しそうに唸ってから俺を睨みつける。非常に申し訳ない。
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