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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。
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しおりを挟む長くなったがそういうわけで、俺はアゼルに乗りスウェンマリナを目指しているのだ。
「本当に凄い。障害物がないみたいだ」
ほぅ、と感嘆しながら、電車の車窓からぐらいでしか見たことがないほどの速さで後ろに消えていく鮮やかな景色を眺める。
木々も岩場も谷もアゼルは軽やかに躱すので、まるで元々存在していないかのように思えた。
現代のテレビ番組で言う、あの有名な障害物走のようだ。某忍者の名前のあれである。ワクワクする。
まさかラスボスの背に乗ることになるとは思わなかったが、これはこれで楽しいな。
せめて労ろうと首元のあたりをワシワシとなでていると、アゼルの耳がパッタパッタと動いて、ピアスがシャランと音をたてた。
「俺は結構な力でしがみついているしなんなら埋もれているが、痛くないか?」
「グアゥ」
「そうかそうか。アゼルは強いな。それにモフモフだ。いい子だ」
「ウ、ウォンッ! クゥゥ……ッ!」
「頭のほうもなでよう」
「クゥンッ!」
たっぷりとしたフカフカの毛皮に埋まって落ちないようにしがみついているのだが、実のところかなり居心地がいい。
アゼルは不快に思わないだろうか、と聞いてみたけれど、大丈夫そうだな。
なでると言っていることはわからないが痛がる素振りを見せないので、俺はついつい犬感覚で甘やかしてしまう。
更に心地いいだけではなく、アゼルの毛皮に包まれていると、首が飛ぶレベルの風圧を受けない。
聞けば常時防御力アップらしい。つくづく魔王というのはチートな存在だ。
モフモフなだけでなく機能性抜群だなんて……おかげで快適な旅すぎる。
そうしてモフモフを楽しんでいる間にずいぶん進んだようで、振り向いてみてもすっかり魔王城は見えなくなっていた。
魔王城の広大な敷地を越え。
その城壁の前方に広がる様々な魔族が犇めく城下街を抜け。
更にそれを囲む、常に幻術をかけて生き物を惑わせる幻惑の森を抜ける。
本来人間の使う馬車なら二日はかかるのだが、それでもアゼルはぐんぐん進む。
野を越え山を越え谷を越え街を越え、昼寝中のバグベアの背中を越え、通りかかったカニキロスの甲羅を踏み、アゼルはこれでもかと踏破するのだ。
脇目も振らずに走るものだから、あっという間に山の向こうの海が見えた。
本当に一直線に進まれるとこれほど速いものなのか。俺は感動して柄にもなく高揚してしまった。
「凄い、凄いなアゼル。まだ半日も経っていないのに、もう海が見えた。今朝マルオが持たせてくれたお昼ご飯は、街でゆっくり食べられそうだ」
「! アオオオォォォォンッ!」
「うわぁ……!」
凄い凄いと褒めるたび、アゼルの速度は上がりに上がる。褒めて伸びるタイプにもほどがあるだろう。
しかし俺も目を輝かせていたものだから、嬉しくなってめいいっぱい褒めちぎってしまう。
するとアゼルは全力で走る。
それを褒める俺。走るアゼル。
ライゼンさんが夕方ぐらいには着くでしょう、と言っていた距離が、ものの数時間で到着目前である。
いや、本当に凄い。
当然のように魔物は襲ってこなかったし、驚くほどなにもなく平和な旅だったぞ。
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