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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。
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しおりを挟むそうしてワンワンキャンキャンと本人たち的には必死な様子を悩ましく眺めていると、不機嫌そうに不貞腐れていたアゼルに、ピシャンッ! と電流が走る。
んん? いったいどうした?
アゼルはさほど乱れていない髪をさっさっと手櫛で整え、パタパタと服を叩き、キュッとシワを伸ばして乱れたものを整えた。
俺が不思議がると、アゼルは「ンンッ」と咳払いし、涼しげな表情を装う。
「まぁ俺との距離は常により短い距離を保て。それだけだ。話を変えるぜ。……そ、その……ど、どうだ? 今日の俺は、いつもと違わねぇか?」
「はい! 魔王様はいつでも最高に美しく最高にカッコイイです!」
「お口チャックしてろユリス!」
「はぁいっ!」
ピョコン! と手を上げて褒めそやしたユリスくんは直後アゼルにバッ! と手で制され、直立不動になった。
清々しいくらいわかりやすい優遇だ。語尾にハートがつきそうな返事だった。
対して俺はといえば、キョトンと小首を傾げて呑気にアゼルを見つめることしかできない。うーん……変わったところ、か?
「……ふむ……」
「…………」
じーっとアゼルを観察し、俺は普段と違うところを探してみる。
最高の魔王様がソワソワと貧乏揺すりをしているところはさて置こう。様子がおかしいのはいつものことだ。
しかし……見れば見るほど、アゼルはいつだってどこもかしこも平均より上等な容姿をしているな。
素体がかなり整っているんだ。
その上本人がちょこちょこと身嗜みに気を使っているため、雄々しさのある顔立ちでありながら男臭さがなくすこぶる美しい。
夜色の髪はいつだってふかふかサラサラで艶めいている。
紫外線すら受け付けない防御力なのか、ちっとも傷みがない。
吸いつくような滑らかな肌とそれを纏う鍛えられた肉体は、まるで彫刻。
俺より長身で手足が長い。スタイル抜群で小顔だ。綺麗だ。素敵な生き物だ。
普通に観察すると、ユリスくんじゃないがそんな感想しか出てこなかった。
魔力の魅力補正もあってアゼルはわかりやすく美形だから特に異常はない──が。
そういうことをなしにして言うと、確かに今日は、いつもと違うところがある。
「新しい服を仕立てたんだな」
普段は魔王の衣装を着ているアゼルだが、今日はピッタリとした赤い生地の服を着てピアスのみの、シンプルスタイルだった。
仕立ては上等だが装飾が少ない、上下ひと繋ぎのスリムな衣装。
腰元に取り外せるよう繋ぎ目のスリットがあって機能性もいいな。いつも大きくはだけられた胸元はきっちりと閉められている。
細かなところは違うが禁欲的なチャイナ服のような衣装だ。薄いフラットシューズもどきを履いている足も、今は黒い革のショートブーツを履いていた。
ブーツのせいでいつもは五センチくらいしか変わらない身長が高くなり、少し見上げる形になる。十センチくらいだろうか。
俺の見解は正解だったらしく、パァァァ……! と瞳を輝かせるアゼルを見つめて俺はうんと一つ頷く。
「アゼルはいつも髪型や服装を整えて努力していて、すごく素敵だが……」
「うぐ」
「今日のアゼルは、特別に格好いい。俺はいつものアゼルも今日のアゼルも好きだ」
「はぅぅ……っ!」
「だ、大丈夫か?」
思ったことを素直に伝えると、アゼルは子犬のような悲鳴をあげてその場にガクーンと膝をついた。
くっ、崩れ落ちるなんて一大事だぞ。まさかまた発作か? 慌てて声をかけると、ぷるぷると震えながらも親指を立てられた。
大丈夫らしい。
難儀な体だ。心配だ。
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