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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。
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しおりを挟む好かれたい。愛されたい。
そう思った途端、他人と比べ、自分の愛されないところを探し出す。
恋人に、なりたい。
自分の望みを知った俺の頭は、明日アゼルの前で柔らかさのかけらもない体に、今まで通りの行動を命じられるのだろうか。
好きだという恋心を砕いて。飲み込んで。咀嚼して。自分のものにしても。
代わりにいくつもの不安や羨望が、綯交ぜになって浮かんでは消える。
自覚したところで、アゼルに愛されるわけじゃない。
どうやって好かれようか、どうやって伝えようか、だけどお前が好きなのだと言って、拒絶されはしないだろうか。
そんな期待と困惑で、頭の中が掻き回された。それでも──結論はわかっているのだ。
「…………」
俺は膝にぐっと力を込めて立ち上がる。
へこたれていたって仕方がない。一晩だけ自分を省みて、目が覚めたらアゼルに意識してもらえるよう頑張ればいい。
そうと決まればとにかく今日は宿を取って、明日に備えて早く寝てしまおう。
幸いにして召喚魔法の収納には買い物のためのお金がいくらか入っている。
日が落ちてから街と基地を行き来する者は少ないのか、誰もいない夜道は少しおどろおどろしい。
恋を自覚して舞い上がった赤い顔で、俺はどうにかこうにか街へと進み始めた。
スウェンマリナの街には、それからほどなくして到着した。
昼間遠くから眺めた時や上空から視界に捉えた時は大勢の魔族でごった返していた街は、夜になったからか道行く人の数が減っている。
それでも酒場や遊技場が栄えあちこちが騒がしく、それに伴ってか粗暴そうな様子の魔族が多かった。
電球のような小さなオレンジ色の暖かな照明が店先に数多く吊られて、美しい白の建物は柔らかな色合いを醸し出す。
「まるで祭りのようだ」
城にこもっていては見られない光景。
俺はほうと嘆息し、街の中を不慣れなのが一目でわかる迂闊な様子で、覚束なく歩いていった。
──この時。
俺はこの二ヶ月間で魔族に囲まれていることに慣れすぎて、最も重要で当たり前の事柄を失念していたのだ。
後悔先に立たず。
数ヶ月前の俺ならば絶対に街中を歩いたりしなかっただろうが、恋に逆上せた今の俺には、そんな思考が浮かばなかった。
「宿はどこだろう……それにしても凄い、ハロウィンみたいだな……」
キョロキョロと宿を探しながらも周囲に目を奪われつつ、人混みの中を歩いていく。
そんな俺の後ろで、いくらかの魔族たちがぎょっと目を見開いて振り向いた。
「おい……に、人間じゃねぇか……!?」
「馬鹿言うなよ。ヴァンパイアか、ちょっと利口なグールでも見間違えたんだろ……?」
「いや、俺は鼻が利くんだが、匂いが……人間だ……」
「はっ嘘だろ……!? 侵略者って、魔界軍海軍基地のお膝元でか……!?」
ん……? なんだかさっきよりザワザワと騒がしくなってきたな。人混みをするすると抜けて歩いていたが、どうも俺が通ったあとがザワついている気がする。
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