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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。
48(sideアゼル)
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ユリスの言葉を聞いてすぐ、俺はがむしゃらにシャルの魔力の残り香を追って街にむかい、空を走った。
心臓が握りつぶされそうなのかというくらい息苦しい。耳の奥が詰まって音が聞こえない。
まさかシャルが自分から基地を出ていくなんて、予想もしていなかった。
どうして出ていったんだ? 海軍基地が気に食わなかったのか? 危険な街へ出るほどに? それほど不満があったのか?
可能性をさぐったところで、視察中、シャルはなにも言わなかった。
終わった時も、笑ってお疲れ様と言っていた。シャルは嘘なんて吐かない。
なら不満なんて……。
『っ』
そこまで考えて、俺はようやくここがシャルにとって知らない場所であることを思い出した。
知らない場所で、あいつが頼れるのは俺だけ。なのに視察中、俺はシャルを見ていなかったのだ。
海軍基地で知らない軍魔に囲まれて食事や宿泊なんて、居心地が悪いに決まっている。頼りの俺とも引き離されて、一人だ。
それじゃあシャルを一人にしたのは、俺じゃないか。
俺がシャルを一人で出歩くこともままならない場所に、連れてきたのだ。
ままならない街へやってきた魔法もほとんど使えない丸腰のシャルがどうなるのかなんて、わかりきっている。
俺の脳裏に、血溜まりにシャルが横たわる最低な光景が浮かぶ。
『嫌だ……ッ!』
あぁクソッ、邪魔だ、邪魔だ!
有象無象の匂いが邪魔だッ!
殺そうか? いやだめだ、血の匂いが余計邪魔になる。血なんかじゃなく、シャルの匂いだけを追いかけろ。
『ッ血、血の匂い……あ、ァ……ッ』
俺は誰も殺していないのに、街へ近付くにつれ、血の匂いがした。
それはほんの僅かなもの。
匂いに敏感な種でなければ絶対気がつかないほどの、微かなもの。
だけど俺がそれを見つけられないわけがない。濃厚で芳醇でどこまでも甘く温かい、俺の喉も心も満たしてやまない、アイツの香り。
呼吸の仕方を、忘れたかと思った。
匂いを辿って走り抜けると、どんどん濃密になっていく香り。
まさか、嘘だ、嘘だ、そんな……!
こんな僅かな時間で、嘘だ、俺の、俺の生きる道標が……っ!
運が悪かったのか?
偶然の積み重ねがこんなにもむせ返るような香りを連れてきたのか?
残酷な想像で内臓が全部ひっくり返って、口からそれらを吐き出しそうな気分だ。
匂いの大元の建物を見つけた俺は、頭がおかしくなりそうな気持ちで、衝動のままに扉に壁ごと頭を突っ込んだ。
──ドゴォォォンッ!!
「な、なんだッ!?」
激しい破壊音をたてて建物の端を吹き飛ばし、中に被害がいかないよう瓦礫を外側に撒き散らす。
醜悪な箱の中を晒すと、知らない声が驚愕し、呆然と俺を見上げた。
けれどそんなものどうでもいい。
どうでもいいッ! シャル、どこだ、どこだ! シャル、あぁ……っ!
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