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番外編① 三色の子ブタ【童話パロディ】
05
しおりを挟む【ケース4・シャル】
「ほら、全面降伏だぜ。俺の子分になり下がった。どうだ? 偉いか? 褒めてもいいんだぞ。なでてもいい」
「「「マスター! よろしくお願いしゃーす!」」」
「ん、ん? ええと、よろしくだ」
あんなにも頑なに閉じこもっていたのに勝ち目がないと見るや揃って服従した子ブタたちを、外で待っていたシャルは戸惑いながらも迎えました。
少し威嚇しただけで制圧した相棒のアゼルは、誇らしげに鼻を鳴らしています。
厚みのある尻尾も褒めて褒めて! とフッサフサに揺れています。
状況がわからないシャルは、とりあえずアゼルをなで回してから先のことを考えることにしました。
仲間が増えたとしてもアゼルを優先的になでなければ、きっと彼はとても拗ねてしまうでしょう。シャルはそれをちゃんとわかっているのです。
アゼルの恋心には気づかなくても、シャルは相棒としてのアゼルの扱いがすこぶる上手な素晴らしいマスターなのでした。
もちろん動物が好きな彼は、アゼルの次に三匹をきちんとなでてあげます。三匹はシャルの背後が気になって仕方ない様子でしたが、飛び跳ねて喜びました。
そうして四匹と一人。
せっかくなので仲間が増えたお祝いに、仲良くディナーを取ることにします。
ディナータイムの話し合いにより、ようやくお互いの認識を合致させました。
三匹は勘違いをしていましたが、シャルにはブタを捕まえて食べようなんてつもりは、さっぱりとなかったのです。
旅人である人間のシャル。
その相棒である黒い狼のアゼル。
始めは人間を勘違いしていたアリオによって大好きなシャルが冷たくされているのを見たアゼルが、つい怒って藁の家を吹き飛ばしてしまいました。
加減をするのが苦手なアゼルは、時たまこうしてやりすぎてしまうのです。
相棒の罪は飼い主の罪。
シャルはアリオに謝るために、アリオを追ってオルガの家へたどり着きました。
しかし先の一件から警戒されてしまい、話を聞いてはもらえません。
困ったシャルがどうしたものかと悩んでいると、ならば俺が代わりに、と思ったアゼルが、ドアをノックしました。
けれどシャルを悩ませて話を聞かないアリオとオルガに、アゼルは憤っていました。
つい、加減を間違えて家を破壊してしまったのです。
「ついの範囲が怖い」
「家が吹き飛ぶなんて」
「レンガでよかった」
「ふん、貧弱な作りの家を作るからだろうが」
「アゼル……」
「俺が悪かった」
話の途中で少々調教師疑惑が湧き上がるシャルは、調教師ではなく、いたって普通の旅人です。
当然このままでは罪悪感で眉が八の字に垂れ下がったままなので「家直しておいたんだからもういいだろうがッ!」とダダを捏ねるアゼルのリードを引っ張り、シャルはまだまだアリオたちを追いかけました。
意地っ張りで言葉で謝罪するのが苦手なアゼルが道中何度も木にしがみつきましたが、概ねキスでどうにかします。
アゼルは変わった狼で、人間相手でも口をくっつけるのが好きなのです。シャルに狼の世界はわかりませんが、相棒が望むならと甘やかしていました。
そして追いかけ追いかけ、レンガの家にたどり着いたシャルとアゼル。
しかし案の定改めて謝罪をすることも建て直した家の話をすることもできず、散々に拒まれてしまいます。
業を煮やしたアゼルが煙突に侵入し、ことは全面降伏のあと、ハートフルなディナーエンドをたどったということなのでした。
「ってことで、俺たちは謝罪に来ただけなんだ。アゼルは見た目は黒くて大きい狼だが、本当は素直になれないだけのツンデレでな……力持ちで器用だから壊してしまったアリオとオルガの家も元通りだぞ」
「たまたまだ! たまたま手持ち無沙汰だった時に吹き飛ばした廃材が目に入ったから、暇つぶしに組み立てただけだぜ! そもそも作り適当だっただろうが! 窓もない家なんかあるかよッ」
「ついでに不便そうなところは便利に改造したらしいな。これが精一杯の謝罪なんだ」
自分の隣で唸るアゼルの頭をなでながら、シャルはにこりと微笑みました。
三匹もなるほどと納得し、自分たちの新しいボスにうんうんと頷きます。
飼い狼の粗相を謝るために律儀にずっと追いかけてきた人間のシャル。
うっかりしてしまったことに〝ごめん〟と言うより、家を丸ごと建て直すほうを選ぶ筋金入りの不器用狼のアゼル。
命の危機に土下座で子分にしてもらった身だが、なかなかイイ仲間に出会えたかもしれない。
三つ子の思考はシンクロするもので、誰からともなく三匹は顔を見合わせ、ニカッ! と笑顔を浮かべました。
「ボス、わかりにくいですッ!」
「ボス、ありがとうございます!」
「ボス、質問いいですかっ!」
「うるせぇ黙れバカブタスリーがッ! ……なんだよ」
「ボスはシャルのことが大好k」
ガシャアンッ!!
「ヴォォォォォンッッ!!」
「ぐえぇ~っ!」
「!? いけないアゼル! キリユの顔が紫になっていっている!」
「自ら地雷を踏むとはかっこいいぜキリユ」
「お前の勇姿は忘れないぜキリユ」
──さて、エピローグを語りましょう。
こうして仲間になった三匹の子ブタと、絶賛片思い中の狼、そしてバカ真面目な人間は、いつまでも面白おかしく、愉快に暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
「ぐえ、ぐえ、めでたくないよぉぉぉ~っ!」
問答無用の大団円!
結
60
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