本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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三章 勇者と偽勇者と恩人勇者。

09

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 一人だけで来た時の物珍しそうな眼差しとざわつきとは違う現象に、視線を恥ずかしがりつつ歩く。

 ルート案内されたおかげで、服屋にはすぐに到着した。

 ガランゴロン、とドアのベルを鳴らして二人で店に入る。

 入店時の街の皆さんの安堵と、店内の客と店主の絶望しきった顔が、天国と地獄そのものだった。

 でもそうか。王様が街ブラしてたらこうなるのも頷けるかもしれないな。

 アゼルは特にこの街にこれから行くと言うようなことを知らせてなかったが、反応を見るに基地から街全体に広まったのかもしれない。軍魔たちもたまには休みがあるだろうから、街にも降りてくるはずだ。


「アゼルは有名なんだな。凄いな」

「んっ別に、姿を知らない魔族は多いぜ。俺は姿現すの好きじゃねぇしな。でもお前が有名な男が好きなら、全世界に俺の顔を覚えるように宣戦布告してきてやる」

「宣、待て、しなくていい。いいからな? お前のことは俺だけが知っていればいいんだ」

「ふぐっ、ど、独占された……っ」


 再度よろめくアゼルと俺のやり取りを見ていた客と店主が、黙ったまま驚愕しつつ俺とアゼルを交互に見る。
 う、俺がアゼルをいじめたと思われていたらどうしよう。

 実際は〝あの噂の人間、本当に魔王様を手玉にとっているぞ〟という態度だったのだが、アゼルの手を出したら殺す宣言も知らず手玉にとっている気もない俺が、気づくわけのないことだった。

 気を取り直してショッピングデート。

 店内の広さはコンビニくらいだが、前の世界の服屋さんのように既製品の形様々色とりどりの衣服が並べられている。

 カウンターでは仕立てを請け負っているらしい。様々な種類の魔族たちに合わせて、素材も変えている。

 壁に「翼、ヒレ、角などの為の加工承ります」と書いた立板があった。確かに尻尾の太さ等はそれぞれだもんな。

 俺はアゼルと人型コーナーに並び立ち、購入する服をじっと吟味していた。
 正確には服を見ているのは俺だけで、アゼルは服を見つめて悩んでいる俺を見つめている。


「これから寒くなるかもしれないから少し厚手のものがいいか、それともあの防具を兼ねたコートを返してもらう前提で、今の時期も着られるようなものにするか……そもそも四季の差が激しくない魔界で、寒暖差を過剰に気にすることはないのか? うぅん……」

「とりあえず全部買っとくか?」

「とりあえずじゃないだろう。それは王手だろう」


 このあんぽんたんちゃんめ。
 初手買い占めはよくない。他の魔族が買えないじゃないか。俺の蓄え、もといお小遣いもそんなにないぞ。




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