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終章 本日のディナーは勇者さんです。
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しおりを挟むあの日から逃げ続けていたアゼルをようやく捕まえて、なにがどうしてか肉体改造するなんて言って別居し始めたのを速やかにやめさせた。
リューオを味方につけると、なぜか憔悴しながらも誇らしげに思いを馳せていて油断していたアゼルは、すぐに捕まったのだ。
本当に人型でも足が早かったぞ。俺が気配を消して近づくと、触れる直前に絶対気づくしな。
俺の身体強化ダッシュと素で追いかけっこできるんだ。もう慣れているが、魔王チート本当にいい加減にしろ。
そうして別居を解消させたので、俺はアゼルを自分の部屋に連れてきたわけだが。
「おい、シャル? また悩み事か? 厨房あと二つくらい併設するか?」
「俺の悩みイコール厨房じゃないぞ」
「んなっ、あぁ? じゃ、じゃあなんだよ、服か? アクセサリーか? 花か? やっぱり世界か? ちょっと明日まで待ってろ。野暮用ができた」
「こら待てどこへ行こうと言うんだ」
なにを思ったのか慌てふためき窓の外へ走り出そうとするアゼルの服を掴み、素早く引き止める。
いや、俺が悪いんだがは。
意気地なしのままだといつもどおりでいけないんだ。わかってるんだが、うう。
数秒逡巡したあと腹を括った俺は、掴んだアゼルの服をそのまま引っ張りながら、ベッドのほうへ歩いた。
「ん? んっ?」
にぶちんなアゼルは混乱しながらもされるがままでついてくる。
それをいいことに俺はアゼルの首に腕を回して遠心力を使い、ぐっとベッドへ引き込んで背中から倒れこんだ。
ドサ、と柔らかなベッドが二人分の体重を受けて沈み込む。
窓から差し込む夕日で室内が赤く染まっている。だが天蓋付きの影になったベッドでは染まるはずのない俺たちの頬が、室内よりよっぽど赤々と染まっていた。
突然の奇妙な状況に戸惑ったアゼルの腕は、頭の横に突かれている。
押し倒されているように見えて押し倒させた。そんな事実を考えると、久しぶりに触れたこともあって、少しときめく。
前から思っていたんだが、俺は変態かもしれない。……たぶん。至って真剣なんだけどな。
「っ……悪ィ。今やべぇから、ちょ、ちょっと離せ、疾く離せ」
「……俺にこうされると、やばいのか? 本気で嫌なら自分から離せばいいのにそうしないのは、その、いい意味で?」
「やばいにイイも悪いもねぇっ」
「いい意味でってことは手を出してもらえるってことだぞ。アゼルは最近一回しか、し……してくれないじゃないか。色気が足りないのかと思って、俺も別居中いろいろ勉強したんだ」
「これ以上か!? だ、だめだお前これ以上エロくなるつもりかよ! 一回でも半分トンでるから俺だって、っ……じゃなくて、ああ、クソ……もう嫌だこの無自覚変態野郎、死ぬ……」
前進あるのみ精神で勢いに任せて思っていたことを伝えた。
あれだけ一晩中二人きりだと言って、ベッドに誘ってこの体勢。
いくら鈍感なアゼルでも、多少誘われている自覚が芽生えただろう。
俺にはうまく遠回しに言うとか言わないまま誘惑してみたりすることは、向いてないのだ。始めからこうしていればよかった。
ユリスにもガドにも、俺は策略は向いていないから素材の味を活かせと言われたからな。
俺の素材の味がどういうものかわからなかったから腕を舐めてみたら、そういうところだと言われた。なるほど……少ししょっぱかった。
もちろん本気で言葉の意味がわからないんじゃない。参考までに舐めてみただけだ。あの二人は俺を見くびっている節がある。流石の俺でも自分に味付けはしないのにな。
閑話休題。
もごついて告げられた言葉は聞き取りにくくてよくわからなかったが、アゼルが真っ赤になって顔を逸らした。
これはアゼルの照れ顔だ。
嫌なわけじゃないらしい。
湯気が出そうなくらい真っ赤に上気しているアゼルがかわいくて、焦れた俺はアゼルもその気になってほしいと手を伸ばした。
「触っていいな……?」
俺の体を跨いで硬直するアゼルの項をツツ、と指先でなぞる。
好きだろう? ボディタッチ。
「うっ、そうだった……コイツやると決めたら頑張るタイプだった……!」
「よそ見をしないでくれ、寂しい」
「あぅっ」
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