本日のディナーは勇者さんです。

木樫

文字の大きさ
216 / 901
二皿目 シャル様が物申す

03

しおりを挟む


 都合が悪くなると口数が減るアゼルを見つめる。

 埒が明かないので、グッと顎をすくい取って無理矢理に目を合わさせた。

「ぅひぇ……そりゃ、もちろんっす、好き、だぜ……?」
「声が小さい!」
「あぅっ! だっだだ、大好き、だっ!」
「チッ、俺のほうがまだまだ好きだ。魔王のくせにヘッピリ腰め。それがお前の全力か? 片腹痛いぞ、こわっぱめ」
「こ……ッ!? だっ、大ッ、大大大大ッ! 大ッ好きですぅぅぅううぅぅぅッッ!!」

 ガタン! とヘッピリ魔王全力の大声の衝撃で、研究所のなにかが落ちた。
 知ったこっちゃない。当然後で片付けてやる。

 初めてそれらしい雰囲気でもないのに、俺に向かい人前でハッキリ愛の告白をさせられたアゼルが、顔を真っ赤にしてヤケクソに叫ぶ。

 あまりに必死なもので俺は仕方なく掴んでいた顎を離してやった。

 そんな公開告白の背後で、腹を抱えて床を殴りつつ爆笑するリューオ。

 ユリスは両手で顔を覆って永遠のアイドル・魔王様の羞恥プレイを嘆いている。

 ふん馬鹿め。笑うのも嘆くのも早い。
 なにも終わってないぞ? まだまだ本題はこれからだ。

 アゼルは顎を離してもらえてすぐにバタン! と羞恥のキャパオーバーに正座したまま、うつ伏せに倒れた。

 照れ屋で純情なアゼルの前にしゃがみこみ、頭をツンツンとつつく。
 ふふん、ちょっと気分がいい。

「アゼル、アゼル、アーゼル」
「ふっ、ぅ……はぁい……」
「どのくらい好き?」
「ぉあぁ……!?」

 先ほどよりも穏やかな表情で尋ねる。
 イコールで人前の羞恥プレイネクストステージご招待。

 招待状を察しガバッと起き上がったアゼルは、それはそれは情けないへちゃむくれた顔で、縋るように俺を見つめた。

「い、いっぱい……」
「具体的に」
「こっこのくらいだ!」

 震えた声で質問に答え、座ったまま両腕をめいいっぱい大きく広げて、必死に好きの大きさをアピールする。

 俺が座れと言ったから移動できないアゼルだが、腕が広がる限りの限界を捧げてくれた。

 見れば見るほど泣きそうだ。
 そして爆発寸前ぐらい真っ赤だ。煙が出そう。

 うん、そこがお前の限界だろうな。
 ゴム人間でもないと腕は伸びない。

 まだ足りないよ。
 しゃがみこんだまま膝を腕で抱えて、小首を傾げる。

 柔らかな頬が硬い膝に当たるのを感じつつ、ゆるりと瞬きをした。
 瞬き一つでオロオロするのはアゼルくらいだ。

「だっだめなのかよっ?」
「ん……もう一声」
「んんんんんん……ッ!」

 腕の限界を超える為にブンッブンッとすごい勢いで両腕をパタパタグルグルするから、風圧が凄くてまた研究所内がにわかに揺れた。

 後ろでリューオが「魔王型扇風機ッ!」とヒィヒィ言っている。

 理由はわからないが捨てられまいとして必死の様子に、優しくにこっと笑うと、アゼルはパアァ、と常夜に光が戻ったかのような満面の笑みを見せた。

 ので──その頬を思いっきり平手で張る。

「いちいちかわいすぎるッ!」
「あぁッ! 音とは裏腹にギリギリで減速して叩かれたッ!?」

 打って変わって目尻を釣り上げ睨みながらパシィッ! と打った俺を、頬を押さえてポカンと見上げるアゼルに、余計腹が立つ。

 お前はいちいちかわいいがすぎる!
 いい加減にしろ!

 この間、既婚と知って結婚とか興味あったんだ! と希望と打算を持った身分問わずにたくさんの魔族から、側室目当てのお見合い提案やラブレターが送られてきたのを、俺が知らないとでも思っているのか?

 馬鹿め。俺は執務をお手伝いしているのだ。
 速攻灰にしても知らないわけがないだろう。



しおりを挟む
感想 216

あなたにおすすめの小説

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

その男、ストーカーにつき

ryon*
BL
スパダリ? いいえ、ただのストーカーです。 *** 完結しました。 エブリスタ投稿版には、西園寺視点、ハラちゃん時点の短編も置いています。 そのうち話タイトル、つけ直したいと思います。 ご不便をお掛けして、すみません( ;∀;)

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

処理中です...